戦争映画の一方的評論
 
「リベレーション 自由と解放 -終戦を迎えて-」 評価★★ ユダヤ人虐殺を中心としたヨーロッパ戦線記録 
LIBERATION
1994 アメリカ 監督:アーノルド・シュワルツマン
ナレーション:
ウーピー・ゴールドバーグほか  
99分 モノクロ(一部カラー)

 
 ユダヤ人虐殺を描いたアカデミー賞受賞記録映画「ジェノ サイド」のシュワルツマン監督の続編。独特の史料や実写の切り貼り画面を多用した、前衛芸術的な映像感は相変わらずだ。今作は、音楽リズムと映像 を組み合わせた手法が印象的だ。
 記録映画の作品手法は独特なのだが、登場する記録映像の半数は既出のもの。ユダヤ人虐殺をメインテーマに据えてはいるが、ごく一般の第二次世界大戦ヨー ロッパ戦線史の域を出ない。映像に頼りすぎなのか、ナレーションによる語りも内容があまりない。著名な出来事をピックアップして、ごく一般的な解釈で述べ ているだけで、目新しさは全くない。しかも、イギリスびいきの史実解釈が目立ち(監督はイギリス人)、チャーチル、モントゴメリー賛美の展開はいささかウ ンザリ。ついでに、フランス人にも贔屓目かな。
 この中で、目を引くのはやはりユダヤ人の収容所映像と、手記の語り。引き裂かれた親子や兄弟の話は涙無くして見る事が出来ない。2歳の弟をかばう5歳の 姉の語りは思わず我が子を投影してしまった。実に、残虐非道の極みであったことを痛感する。また、ドイツ人のみならず、虐殺に加担したポーランド人、ロシ ア人、オーストリア人、そしてそれを傍観しつづけた、アメリカ、イギリスの罪もまた大きいのだと実感する。
 もう一点、本作は英軍、米軍、ソ連軍、ドイツ軍など様々な国による記録映像を用いているのが特徴だ。ミリタリーマニアとしては、様々な兵器や軍装を見る 事が出来るので楽しいが、そうでない人にとっては、混乱を招くかも知れない。
 記録映像に登場する兵器類で目立ったものを列記すると、電撃戦のティーガーI重戦車、パリ市街を凱旋するII号対戦車自走砲マルダーII、ディエップ上陸戦 で破壊されたチャーチルMk.I歩兵戦車、アフリカ戦のMk.VI巡航戦車クルセイダー、シシリー上陸戦のM5スチュアート軽戦車、ドイツ爆撃のアブロ・ ランカスター爆撃機、イギリス上空に飛来するV1ロケット、V2ロケット、パリ解放のシャーマン戦車と型式不明の自走砲、M3ハーフトラック、マーケット ガーデン作戦のファイアフライ戦車、ダイムラー装甲車、ベルリン攻撃のT−34中戦車、SU-152重突撃砲などである。この他にも色々出ているが、これ ほど多くの兵器が出るのも珍しいだろう。

興奮度★★
沈痛度★★★★
爽快度★
感涙度★★


(以下あらすじ ネタバレ一応注意)

 あらすじと言うほどのものはないのだが、一応ストーリーの流れを。
  1939年9月、ポーランドに侵攻したドイツに対し、チャーチルが最後通牒を送り、ついに英独が開戦する。
 1940年にはイギリスはドイツ空軍の空襲を受ける。ダンケルクでの敗戦撤退後、英陸軍はドイツ軍と数年間実戦を交える事はなかった。だが、英空軍はド イツ空軍と戦い、エニグマ暗号器を解読したと(言い訳)する。
 1942年、ドイツではユダヤ人抹殺計画が進み、ユダヤ人が強制収容所に送られていく。パリはドイツ軍に占領され、ドイツ人の観光都市と化しているが、 在住するユダヤ人は、フランス警察自らの手でワルシャワゲットーに送られていく。こうした事態をバチカン(ローマ法王)は非難せずに中立の立場を取る。カ ソリック派は共産主義を排除するドイツ軍のロシア参戦をむしろ喜んでいたのだ。
 連合軍はヨーロッパ上陸を試み、カナダ軍主体のディエップ上陸戦を行う。しかし、ドイツ軍に大打撃を受け、多くの死者と捕虜を出す。一方、ソ連のスター リンはドイツ軍をスターリングラードで負かすなど、巻き返しを始めるが、英米連合軍に早く第二戦線を設ける事を強く要望する。
 米軍はイタリアシシリーに上陸。1943年9月イタリアが降伏。1944年6月にはついに、連合軍がフランスノルマンディーに上陸。多くの死者を出しな がらも、ドイツ軍への反撃が始まった。
 ドイツ軍は、これに対して秘密兵器V1、V2ロケットで反撃を行う。しかし、もはやドイツ軍の力は衰えており、ド・ゴール将軍によるパリ凱旋、マーケッ トガーデン作戦、バルジ作戦を経て、ついにベルリンをソ連軍が占領する。ヒトラーは愛人と共に自殺を図る。こうして、ドイツは敗戦し、100箇所を超える ユダヤ人収容所が解放されたのであった。

(2005/04/22)

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