「バトル・シューター」
評価★☆ イラン・イラク戦争にタイムスリップ
JOURNEY TO
CHAZZABEH /SAFAR BE CHAZZABEH
1995
イラン 監督:ラスール・モラゴリプール
出演者:マスード・カラマティ、ファラッド・アスラニ
ほか
85分 カラー
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戦争映画を撮影する映画監督と友人の音楽家が、1985年のイラン・イラク戦争当時にタイムスリップしてしまうという、ハプニング系ヒューマンドラマ。
発想自体はありきたりだが、タイムスリップものに大きな失敗作はないはず・・・なのだが、本作はムムムな出来。イランは近年映画制作に力を入れており、
2000年代の作品はそこそこの出来具合だが、やや古手に位置する本作はやはり技術、編集、アクションともに完成度が低いと感じる。
そもそもイラン映画はイスラム教の宗教的呪縛が強いため、ヒューマンドラマ部分の友情、人情などの感情表現が非常に難解である。本作も友情関係、戦争の
大義ともに素直に納得できかねるシーンが多い。また、我々日本人にはイラン・イラク戦争への馴染みや思い入れがないせいもあろうが、戦争で死んだ仲間への
悲しみや怒りがほとんど伝わってこない。そのため、設定されているストーリーの起承転結に盛り上がりが感じられないのだ。
本作は友情を主たるテーマに据えているが、中盤の大部分は戦闘シーンで構成されている。戦争アクションという位置づけも可能ではあるが、戦争アクション
として堪能できるかと言うと、必ずしも十分ではなかった。T-54戦車やBMP-1歩兵戦闘車などの実動兵器類が多数登場するほか、小銃類やRPGなどの
歩兵兵器、
中国製J−7(ミグ21)戦闘機風の飛行映像まで登場し、戦争映画としてはかなり大盤振る舞いの部類なのだが、撮影カメラワークや兵器類の使用法が稚拙な
た
めにそれが十分に生かされていない。ぶつ切りの戦闘シーンにおもむろに兵器が登場するので戦闘の流れが全くわからないし、位置関係も不明。火薬使用量もそ
こそこだが、発火、着弾など銃撃シーンとの相性が非常にバランス悪い。唯一RPGだけは実射しているのだろうか、後方噴射(バックブラスト)が度々巻きあ
がっているのはリアルだった。
激しい銃撃戦の中、RPG射手だけが堂々と立ち上がっているのには違和感があったが、撮影上バックブラストに注意!という点ではやむを得なかったのか
(笑)。なお、ミグ21風戦闘機は実機にも見えるのだが、飛行シーンが時折揺れているようにも見えたので、ミニチュア特撮かもしれない。
結局何のジャンルなのだか良く定まらないままに映画は終結し(汗)、どこを楽しめば良かったのか分からない映画だった。ヒューマンドラマ部分もペルシャ
語特有の煩い罵り合いにしか聞こえないし、場面ごとの繋がりも良くないので、ほとんど感銘も感情も起きなかった。まあ、イラン映画の萌芽期作品としてこん
なもんかとしておこうかな。
興奮度★★
沈痛度★★
爽快度★
感涙度★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
イランの映画監督ワヒドはかつて経験したイ
ラン・イラク戦争を題材にした戦争映画を撮影しており、クライマックスシーンの音楽を友人の作曲家アリに依頼していた。だが、アリはなかなか思うように録
音できず、ワヒドに愚痴をこぼす。そこに映画の主人公ベールズの名で撮影現場への招待の手紙が届く。
不可解に思いながらも、アリを連れてワヒド
は撮影ロケ地に行く。撮影現場ではエキストラが集まらなかったり、火薬が暴発するなど混乱をきたしていた。そんな中、二人は設営された塹壕の中を歩いてい
くと、いつの間にか10年前(1985年)のイラン・イラク戦争の最中にタイムスリップしてしまった。
そこには、映画の主人公ベールズがおり、
ベールズは二人を最前線へと導く。最前線には戦死したはずのサマド、ワヒドの義弟のアスガーなどがおり、アスガーに話しかけようとしたが目の前で戦死して
しまう。最初はロケかと勘違いしていたアリも次第に真実だと気づき始め、気が触れ始める。そして必死に携帯電話をかけ始め、なんとそれが繋がる。サマドも
携帯電話を借りて家にかけるが、出た姪はサマド叔父さんは10年前に死んだと言うのだった。
ワヒドは次第に共に闘う意志を持ち始め、モ
ラドの陣地に向かう。モラドは盲目で無線機を積んで後退する際に直撃弾を受けて戦死する。また、指揮官のハッサンはイラク軍の戦車に抵抗するため、捨て身
の突撃を繰り返し、それを見たアリは止めさせようと説得する。そんな姿を見てワヒドは臆病者だと罵る。もちろん、ハッサン自身も友人のモラドの死を悼み、
悲しんでいたが、戦闘ではそんなことは言っていられないのだ。敵戦車に向け、RPG弾、突撃を繰り返す。イラク軍は戦車のほかに戦闘機攻撃まで仕掛け、戦
場は戦死者であふれ、写真を撮っていた幼い少年も命を落とすのだった。次第にアリにも敵に対する怒りと、戦闘の意味が理解できてくる。
だが、ついにハッサンの前線も限界に達し、
怪我をしたハッサンは負傷者と一部の兵を残して後退するよう命じる。ワヒドとアリもまた後退することとなり、ハッサンらと別れを惜しみ写真を撮る。
後退した兵の後を追って塹壕を進むワヒドと
アリだったが、背後から突然イラク兵が追撃をかけてくる。慌てて逃げる二人だったが、実は撮影隊のイラク兵だった。いつの間にか現代に戻っていたのだ。
ほっとする二人だったが、ハッサンらと撮った写真を見ると肩を組んだはずのハッサンの姿は消えていた。
(2009/8/14) |
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