戦争映画の一方的評論
 
「きけ、わだつみの声 評価★ ラグビーで結ばれた学徒兵の声
1995 東映 監督:出目昌伸 東映・バンダイ提携作品
出演:緒方直人、織田裕二、風間トオル、仲村トオル、的場浩司、鶴田真由ほか 
129分 カラー

 戦後50年記念で製作された「きけ、わだつみの声」のリメイク版。旧作は「日本戦没学生の手記 きけ、わだつみの声 (1950)」であるが、リメイクとはいえ内容は全く異なっており、舞台もフィリピンルソン島リンガエン湾となっている。しかし、結論から言うと ひどい駄作だ。出演者は若手の人気俳優を取りそろえて いるが、残念ながら彼らに平和のスローガンを叫ばせるだけの映画で、役者自体が軽々しい雰囲気に見えてくるのが残念。また、アクセントのつもりだろうが、 破天荒な兵士役に的場浩司を起用しており、すっかりコメディかアクション映画と勘違させる場違いなもの。歴史的な重みなど全く感じない。
 さらに、とにかく悲惨な場面やエピソードを次々に挿入してくるが、あまりに極端すぎて、何やら背後に恣意的な歴史観の押しつけすらあるのではないかと勘 ぐりたくなるほどだ。的場が連れてきた従軍慰安婦が朝鮮人の強制連行であったなど、内容的に少しは史実に基づいたものがあるのだろうか。そういう意味で、 リアルな手記というイメージがなく、作り上げられた絵空事と しか思えない。それは、本作が現代の明治大学ラグビー青年(緒方)が夢の中でタイムスリップするという手法を取っている事でも増長されている。タイムス リップした現代青年が戦時思想に順応できずに、徴兵拒否をして逃亡を続ける逸話だが、今の平和思想から見れば戦時中の人々が狂っているということを強調し たいのであろうが、逆に無責任で女々しい平和ボケをクローズアップさせている。表面的な反戦だけにとどまり、戦争の本質的な部分は意図的にカットしている ような印象があり、何のために本作を作ったのか意図がわから ない。

 前作から45年。前作と比較してみれば、その間に日本人が失ったものが良くわかる。映画の手法云々以前に、あまりもストレートな感情表現と「こんな戦争 誰が始めたんだ」などの平和スローガ ン連呼は見ていて辟易とする。確かに戦争の悲壮さの現実性が薄れているとはいえ、ただ平和をシュプレヒコールのように叫び批判する事でしか戦争を直視して こなかった ツケなのであろう。また、主人公らを戦争被害者としてしか捉えておらず、平和の到来が他力本願的にやってくるかのような錯覚は、原作「きけ、わだつみの 声」の本当の声には応えていないと思う。学徒兵の声はもっと複雑で、もっと深淵で高尚なものであったと信じている。
 
 映像的にはそこそこの爆薬量で戦闘シーンは迫力がある。また、累々とした日本兵の屍などは結構リアル。航空機は零戦52型の実機が1機(サイパン鹵獲機 の「61-120」で、アメリカのプレインズ・オブ・フェイム所有だとか)ともっとずんぐりした機体(テキサンだと思う)が1機出てくる。せっかく実機 使ってもたった2機しか飛行しないのでしょぼいんだけど。その他はラジコンかミニチュアの特撮となっている。特攻シーンは特攻記録映像の使い回し。それ以 外は見所はない。

 全体として、脚本のレベルが低いうえ、役者の選択、映像編集の技術など日本映画の没落を感じざるを得ない作品だ。幾多も盛り込まれた感動シーンもさほど 感情移入できないなど、これこそわだつみの声に対する冒涜なのではないかと感じるのであった。
 

興奮度★
沈痛度★★
爽快度★
感涙度★

(以下あらすじ ネタバレ注意)

 1995年、明治大学ラグビー部の鶴谷(緒方)はグラウンドで見た事のないラガーマン3人に出会う。聞けば明治大学の勝村(織 田)、早稲田大学の芥川(仲村)、東京大学の相原(風間)だという。そして次の瞬間、昭和18年10月21日の神宮外苑の学徒出陣壮行会の行進の列に混 ざっていた。現代を生きてきた鶴谷にとって、何が起こっているのもわからず、徴兵で戦地に行くなど理解すら出来なかった。何故徴兵拒否しないのか、戦争に 反対しないのかという鶴谷の疑問に、勝村らは仕方ないだろうと一笑に付すのであった。広島郊外の実家に戻った鶴谷は、両親や近所の人が出征祝いに興じる 中、徴兵拒否を決意する。
 勝村は幹部候補生となり仙台師団で訓練を積み、陸軍少尉として昭和20年1月南方へ送られることとなる。行き先も知らされず輸送船団は南方へ進むが、 フィリピン北方でアメリカ軍潜水艦の雷撃でことごとく撃沈される。勝村少尉はなんとかルソン島リンガエン湾に泳いでたどり着くが、砂浜でもアメリカ戦闘機 の機銃掃射でやられ、最終的に部下はほとんど残っていなかった。同じ輸送船に乗り込んでいた一人に東大の相原一等兵がいた。相原はあえて士官候補にはなら ず兵卒として入隊していた。せめてもの抵抗であったのだ。相原は足をやられ、野戦病院に担ぎ込まれる。しかし、赤十字を掲げた野戦病院もアメリカ軍戦闘機 の銃撃の対象となっていた。
 早稲田の芥川は海軍航空隊に入隊しており、少尉任官とともに特攻隊員として志願していた。いよいよ特攻命令が下される事となり、1日の休暇を許された芥 川少尉は亡くなった恋人の墓参りをし、母親と妹と面会する。決して、特攻の事を悟られてはならぬと厳命されていた芥川は悟られないように務め、引き出しの 中に遺書を隠して去る。しかし、別れ際に大声でさようならと叫ぶ芥川に母親は息子の特攻死を悟る。
 リンガエン湾の野戦病院では、遊軍となっていた近藤中尉が指揮をとっていた。しかし、近藤中尉以下の部下は土民の村で掠奪、殺人など横暴で残虐な行為を 続ける。制止しようとする勝村少尉にも命令だと言い放つ。また、壊滅したリンガエン湾守備隊の生き残り大野木上等兵(的場)が司令部から取ってきたオート バイに慰安婦を乗せて合流する。大野木は米軍から鹵獲した機関銃を持っていた。慰安婦は実は朝鮮人で騙されて連れてこられたという。
 敵が近づいてきたため、近藤中尉は撤退を始める。しかし、歩けない傷病兵は置き去りにされ自決用の手榴弾を渡される。次々に自決する仲間を尻目に撤退す るが、近藤中尉の部下は看護婦らを暴行しようと企む。しかし、勝村の抵抗で未遂に終わり、勝村は上官である近藤中尉を射殺してしまう。近藤の部下は別行動 をとり、勝村は指揮官となる。大野木上等兵は慰安婦と共に海岸へ出るが、米軍機の機銃掃射で二人とも死亡する。 
 鶴谷は無人島で逃亡生活を送るが、憲兵隊の執拗な追跡で次第に追いつめられる。実家では両親が非国民の家として罵声や石を投げつけられている。

 8月16日になり芥川は特攻機に搭乗して敵艦に突入する。
 勝村の部隊は軍医、婦長ともに死亡し、もはや限界に近づきつつあった。やっとみつけた洞窟内で先に行った近藤中尉の部下達の死体を見つける。しかも、も も肉を食べた形跡すらあった。勝村少尉は、負傷している相原と看護婦に降伏しろと言い残し、自らは手榴弾の束でボールのようにし、「こんな戦争誰がはじめ たんだ」と敵陣に突入トライして果てる。さらに、相原と看護婦も白旗をあげて行進するも力尽きる。
 逃亡していた鶴谷は鉄塔の上に追いつめられ、「日本は負けるんだ」と大声で叫ぶが、ついに広島憲兵隊に捕まる。そして拷問の末、日本刀で切られる。その 瞬間、ぴかっと閃光が走り、広島は焼け野原となる。原爆の投下だ。鶴谷は「こんなに血を流さないと終わらないのか」と呟く。

 グラウンドで我に返った鶴谷は、勝村らの姿を探すがどこにもいない。しかし、ロッカールームに行くと、そこに汚れた軍靴があった。やっぱ り彼らはいたんだ。鶴谷は3人とともにグラウンドでラグビーに興じるのだった。
  
(2005/08/30)

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