戦争映画の一方的評論
 
ブラインド・ヒル」 評価★★★ 米空軍初の黒人戦闘機隊
THE TUSKEGEE AIRMEN
1995 アメリカ  監督:ロバート・マーコウィッツ
出演者:ローレンス・フィッシュバーン、ジョン・リスゴー、アレン・ペインほか
103分 カラー

 
 人種差別のひどかったアメリカ軍において、第二次世界大戦初の黒人戦闘機部隊となり、華々しい戦果をあげた”Red Tail Angel"こと第332戦闘航空群(332nd Fighte Group)の実話をもとにしたテレビムービー。
 ルーズベルト大統領は1940年9月16日にバークウォズワースビル法に署名し、黒人徴兵に踏み切る。これにより、1942年アラバマ州タスキーギ基地 に黒人パイロット養成コースが設立される。
 第332航空群は第99,100,301,302飛行隊の黒人戦闘機隊を保有した部隊で、タスキーギ陸軍基地から巣立った黒人パイロット延べ992名か らなっていた。この部隊は1944年から1945年4月までの北アフリカ及びイタリアでの実戦で、1,500回以上のミッションをこなし、特筆すべきは約 200回に及ぶドイツへの爆撃機隊の護衛任務で1機の爆撃機も敵機による損失を出さなかったとされている。
 本作は第332航空群の司令であった、初の黒人空軍将軍となるベンジャミン・O・デイビス大佐も実名で登場し、ルーズベルト大統領夫人が黒人パイロット の機に搭乗したり、なかなか活躍の場を与えられず、黒人偏見による誹謗中傷を受けるなど、おおまかな部分で史実に沿って作られている。他のパイロットは架 空である。
 素晴らしいのはテレビムービーにも関わらず、実機が沢山出てくる点だ。タスキーギ基地訓練当初は、ボーイング ステアーマンPT-17ケイデット(複葉 練習機)2機以上が実際にアクロバットな飛行を見せてくれる。次に過程が進むとAT-6テキサン練習機が登場し、これまた華麗な飛行を見せる。北アフリカ へ実戦配備されるとP-51Dムスタングとなり、少なくとも3機以上の実機が飛行している。さらに、爆撃機隊としてB-17フライングフォートレスが複数 機登場するほか、敵ドイツ機役ではスペイン空軍のものだった(空軍大戦略バージョンか)と思われるBf-109が複数機登場する。いずれも、贅沢に実機が 登場する大迫力がすごい。ただ、空中戦シーン、対地攻撃シーン、対艦船攻撃シーン、空爆シーンなどはいずれもモノクロの記録映像の使い回しとなり、ガンカ メラの映像という設定になってはいるが、ちょっと物足りなく感じてしまう。しかも、敵機撃墜シーンや艦船攻撃シーンはドイツ軍ではなく、日本軍のようだ。
 パイロット達が着ているのはB−3ジャケット。とっても暖かそう。
 ストーリー的には史実に沿っているし、映像もリアルなので十分楽しめるが、黒人パイロット養成開始から実戦での活躍までのエピソードがやや多くなってい るため、ストーリー展開に急ぎすぎの感がある。十分浸り込むには時間が短すぎるかもしれない。従って、どちらかというとエアアクション(航空機)映画とし ての位置づけが強くなってしまうかも知れない。とはいえ、爆撃機被害を1機も出さなかった活躍ぶりをもっと深く知りたいと思わせる映画であった。

興奮度★★★
沈痛度★

爽快度★★★★
感涙度★★★

(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 1942年12月、アラバマ州タスキーギ陸軍基地に大学出の黒人達が集結した。アイオワ出身のハンニバル・リー(フィッシュバーン)、インテリ風のウオ ルター・ピープルズ、お喋り好きなビリー・ロバーツ、ちょっと太めのルロイ・キャピー、ルイス・ジョーンズなどである。彼らはルーズベルト大統領の意向 で、初の黒人パイロットとなるべく訓練を受けることとなったのだ。訓練部隊の司令官は白人のロジャース大佐で黒人パイロット養成に好意的だが、教官である 白人のシャーマン・ジョイ少佐は黒人に厳しい偏見を抱いている。連絡将校は黒人のグレン中尉だった。
 ジョイ少佐は、黒人がパイロットになれるはずがないと疑い、パスしたはずの試験を再度課す。彼らが大学出であることを知っている大佐は少佐に無駄な事を するなと叱責するが、少佐は相変わらず彼らの能力に疑いを持つ。
 厳しい訓練過程で落伍者が出はじめ、さらにはルイス・ジョーンズが訓練中に墜落死してしまう。すでに半数近くがいなくなり、キャッピーもまた意志を失い つつあった。それをリーとピープルズはなんとか立ち直らせる。
 いよいよ訓練は単独飛行となり、飛行機もAT-6テキサンとなる。ピープルズは調子の乗って曲芸飛行をしてしまい、ジョイ少佐の進言で軍規違反として除 隊されてしまう。憤懣やりどころのなくなったピープルズは制止を振り切って飛行機に乗り込み、地上に激突して死を遂げる。
 ピープルズの一件でグレン中尉に悲しみを乗り越えろと諭されたリーは、訓練途中で仲間の飛行機のエンジントラブルにより不時着する。そこには鎖に繋がれ た黒人労働者達がおり、パイロットが黒人だと知った彼らは一様に目を輝かせるのだった。それを見たリーは自分の進むべき道が見えてくるのだった。
 ついにリーたちは卒業して少尉に任官される。しかし、議会の中には黒人偏見派も多く、黒人の操縦技能にケチをつけて前線配備をさせなかった。それから 6ヶ月後、基地にルーズベルト大統領夫人がやってくる。夫人は黒人パイロットの飛行機に搭乗を希望し、何故前線に出さないのかを尋ねるのだった。
 その結果、ついに第33航空群の第99飛行隊に所属となり北アフリカに派遣される。部隊長は黒人士官学校出のベンジャミン中佐である。しかし、そこは前 線からは程遠く、対地攻撃任務ばかりで敵戦闘機との交戦はほとんどなかった。加えて、功をあせったキャピーが敵戦闘機に撃墜され、本国の黒人偏見派は黒人 パイロットの怠慢性と非適応性の告発をし、黒人部隊の解散を進言するのだった。
 ベンジャミン中佐は、黒人部隊が後方任務ばかりであることと、公正な機会が与えられていないことを進言し、イタリアへの転戦を勝ち取る。そこで、第99 飛行隊は同じ黒人部隊の第100,301,302飛行隊と合体して第332航空群となった。ここでの任務は主にイタリア・ドイツへの爆撃部隊の護衛任務で あったが、ある時リー中尉(昇進)はドイツ軍戦闘機に追われるB−17爆撃機を助ける。爆撃機の白人機長バトラー大尉らは、そのお礼に尾翼の赤い戦闘機部 隊を探すが、それが黒人パイロットと知るが信じようとしない。しかし、後日の護衛任務で爆撃機を守るため、敵機を追い払いながらもロバーツ中尉が被弾して 墜落死してしまう。その姿を見たバトラー大尉は心が揺れ動き始める。
 いよいよ爆撃部隊にベルリン爆撃任務が出る。爆撃部隊の護衛任務は白人戦闘機隊の第51航空群とされたが、バトラー大尉は司令官に第332航空群を付け てくれるように頼む。黒人部隊はそれだけ彼らの信頼を勝ち取っていたのだ。
 第332航空群には450名のタスキーギ基地出身者がおり、うち66名が戦死。850余りの勲章を受け、爆撃機護衛任務では1機の損失も出さなかった (数値は映画のママ)。

(2006/01/13)

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