戦争映画の一方的評論
 
「実録 ペンタゴン・ウォーズ/暴かれた陰謀(JSB)」 評価★★★ 戦争兵器開 発裏話。本当に実話?
THE PENTAGON WARS
1998 アメリカ 監督:リチャード・ベンジャミン
出演:ケイリー・エルウィズ、ケルシー・グラマーほか  
104分 カラー

 映画館では上映されていないアメリカのテレビ用映画のようです。ペンタゴンと言えば、アメリカの国防総省のことで、軍の中枢でもありま す。ここでは、もちろん新兵器の開発もしており、この映画はペンタゴンで行われている兵器開発に関わる腐敗と陰謀を描いたものです。と、ここまではありが ちな内容ですが、なんとこの映画のすごいところは、内容がノンフィクションであるということ。それだけで、リアル感が全然違います。

 主人公は空軍のエリート、バートン中佐で議会からの指示でペンタゴンの新兵器開発の調査(お目付)として派遣された人物だ。実際には3年 間在籍した らしい。
 ペンタゴンの兵器開発局は兵器産業業界との癒着(天下り先)や自分の出世のために動くなど、かなり腐敗していることは公然の事実。しかし、軍は仲間を尊 重する体質から、歴代の調査員たちもうまくまるめこまれてしまう。議会やマスコミとすれば、税金を大量に投資したに値する兵器ができているのかが最大の関 心事だが、なんだかんだでうまく交わされる。
 新しく派遣されてきたバートン中佐は、陸軍「ブラッドレー」の調査を担当する。後にM2ブラッドレー歩兵戦闘車としてベストセラーになるのだが、当初は 「兵 員輸送車」として計画されたものだった。途中で将軍らの思いつきなどで実効性や安全性が無視され、最終的に生産直前までこぎつけたブラッドレーは戦闘にも 輸送にも中途半端な代物だった。もともと兵員輸送車だった車体に、大口径砲やミサイルの搭載が無理になされたため、走行速度を維持するのに、搭載兵員を減 らしたあげく装甲はアルミ製だ。しかも、アルミは被弾すると毒ガスを発生する始末。しかも、開発に当たる少将、大佐、少佐は自分の出世のためにそれらの欠 陥を認めようとせず、早く生産ラインに乗せるため、被弾実験もインチキをしている。バートン中佐はその実態を知るにつれ、実際に使用する兵員の安全性を確 保す べきだと、適正な実験を要求するが、受け入れられない。現場で実験に当たる曹長にも問いつめるが、「上官の命令だ」ととりつく島もない。
 やがて、真実を追究するあまり、煙たがられた中佐は異動を命じられる。しかし、そこに元ブラッドレーの開発に携わって苦渋をなめた人物の手助けが入り、 マスコミに欠陥のことがリークされる。異動を取り消されたバートン中佐は欠陥であることを報告書にするが、上官の少将はこれを改ざんする。このことが議会 に知れ、 ついに上官らが議会に召喚され、17年、150億ドルもの巨額がかけられていることが明るみに出、正式な実験をするよう命じられる。
 実験現場では、大佐らが欠陥ブラッドレーに細工を施して実験に備える。バートン中佐は現場の曹長らに「実際に現場で乗る兵員のことを考えろ」と細工をや めるよう に説得するが・・・。いよいよ議員らが見守る中被弾実験が開始される。

 全体に、ノンフィクションとはいうもののコメディタッチで進んでいくので、とても面白く見ることができるが、反面本当にこれは実話なのか という疑問も生じる。ラストシーンは結構感動的な場面となるのだが、実話ではその後にバートン中佐は退役を余儀なくされ、欠陥開発に関わった将軍らは昇進 したとい う皮肉な結末だったようだ。なんだかんだ言って軍の事なかれ主義、身内温情主義は変わらなかったようだ。召喚された少将が「軍はチームワークが大切だ」と 何度も強調していたように、実戦では良いも悪いもなくチームワークが不可欠であるから、これも一理あるので何とも言えないが、実戦ではない国防総省や後方 部隊における腐敗というのは、外部から見るとやはりいただけないですな。前線で死んでいく兵士と後方でたらふく食っている将官という構図が見えます。それ も軍隊の宿命なのでしょうか。

 もうひとつの視点として、M2ブラッドレーがどのように産み出されたかの裏話を知るうえでは大変興味深い。兵員輸送車計画では11人乗り が6人乗りになったということだが、確かにM2は6人乗りになっている。

(2004/09/06)

興奮度★★★
沈痛度★★
爽快度★★★★
感涙度★★