戦争映画の一方的評論
 
「シビル・ガン 楽園をください」 評価★★★ 南北戦争下の南軍ゲリラ
RIDE WITH THE DEVIL
1999 アメリカ 監督:アン・リー
出演:トビー・マグワイア、スキート・ウールリッチ、ジュエル、サイモン・ベイカーほか  
138分 カラー

 台湾出身のアン・リー監督がアメリカ南北戦争を題材に描く、ヒューマン系戦争映画。それなりに戦闘シーンはあるが、人の心の葛藤とつながりを重視した ヒューマンドラマとして見るべきものだろう。しかも、アメリカにとっては、「よそ者」のアン・リー監督が南部の「よそ者」を主人公として描くあたりは、ア メリカ人監督の映画とはひと味もふた味も違う点だ。
 この映画の元ネタは1863年8月のブッシュワーカー(南軍ゲリラ)がカンザス州ローレンスの町を襲撃し、多くの住民を殺害した事件であり、そこに至る までの経過を(多分)ノンフィクションで構成した映画と思われる。

 (以下ネタバレ注意)
 1861年南北戦争が勃発し、南北軍の境界に位置するカンザス州ミズーリは、北軍派、南軍派の住民が対立する悲劇に見舞われていた。ジャック(ウール リッチ)は農場の経営者の息子でドイツ系移民のジェイク(マグワイア)と幼なじみだ。ジャックの父親が北軍ゲリラに殺害されると、本来北軍派につくべきド イツ系移民のジェイクは、ジャックとともに南軍ゲリラ(ブッシュワーカー)に加わる。
 ブッシュワーカーはブラック・ジョンが率いる南軍ゲリラで正規軍ではない。ジェイクとジャックはまず父を殺した北軍ゲリラを殺害し復讐を果たす。ブッ シュワーカーの野営地には北軍の捕虜がいた。その一人にミズーリでの知り合いがおり、ジェイクは彼を生かしてやるために、敵への伝言役として北軍へ返すこ とを提案する。しかし、北軍へ戻った知り合いはジェイクの父を南軍ゲリラの親として殺害してしまうのだった。それを知ったジェイクは深い怒りを覚えるの だった。
 次第に北軍が優勢になり、カンザス州も北軍派が支配するようになる。冬になり、ブッシュワーカーは南軍派の農家などに潜伏して冬ごもりをする。ジャック とジェイクはジョージとホルトを加えた4人でエヴァンス家の世話になる。ホルトは黒人で、もとは隣家の奴隷だったがジョージに買い取られ、ジョージのニ ガーとして事実上奴隷から解放されており、二人には厚い信頼関係があった。エヴァンス家には南軍で戦死した息子の嫁スー・リー(ジュエル)が未亡人として 同居しており、ジャックは恋に落ちる。冬が終わろうという時期になり、エヴァンス家が北軍に襲撃され、追撃したジャックは腕を負傷する。スー・リーらの介 護むなしく、ジャックは死亡する。とりあえず、ジェイクらは南軍派のブラウン農場にスー・リーを預け、再びブッシュワーカーの野営地に戻る。
 ブラック・ジョンはもはや劣勢と悟り、最後の総攻撃を計画する。北軍派の町ローレンスの襲撃だ。しかし、そこには北軍正規軍はおらず、襲撃は住民の虐殺 と掠奪と化す。冷酷なピットの無法ぶりにジェイクは苦言を呈するが、それがピットの機嫌を損ねてしまう。
 いよいよ北軍正規軍との対決となり、次々に打ち倒されていく中、ジェイクは背後からピットに撃たれる。また撃たれたホルトを助けようとしたジョージも死 んでしまう。負傷したジェイクとホルトは、スー・リーのいる農家へ戻る。そこには、赤ん坊を抱いたスー・リーがいた。傷が癒えれば再び戦線に戻ろうとする ジェイクだが、農家の主人らはジェイクが赤ん坊の父親と信じており、スー・リーとの結婚を勧める。主人であり親友を失ったホルトももはや戦う意義を失って いる。ジェイクの傷が癒えた頃、農家の主人とホルトの策略でジェイクとスー・リーは結婚する。二人はカリフォルニアで新生活を送ることとし、ホルトは生き 別れとなった母親を捜すためにテキサスへ向かう。その途中、ジェイクを狙うピットに出会うが、既に彼も北軍に追われる身であり、死を覚悟で北軍に支配され た彼の生まれた町へ戻っていくのであった。

 登場人物の名が皆「ジ」で始まるので、初めのうちは誰が誰なのかわからなくなった。特に、人物描写中心の映画なので、混乱すると映画の醍醐味が失われて しまう。また、ゲリラになった時点でロン毛になっているので、顔つきも変化していて誰だこれって感じで混乱した。
 戦闘シーンはそこそこあるが、ヒューマン主題の映画と言うことで流血等は極力抑えられており、血なまぐささはほとんどない。森の中に敵を引き入れての一 斉射撃シーンも「グローリー」のような迫力はさすがにない。
 登場人物は南軍派なのだが、純粋なアメリカンはどちらかというと脇役で、ドイツ系と黒人という「よそ者」に焦点をあてることで、アメリカ人の覇権争い、 利権争いという利己的な争いに巻き込まれた「よそ者」の困惑が見えてくる。日本人だからスムーズに映画の中に入って行けたが、この映画をアメリカ人(白 人)はどのように見たのであろうか。

(2004/09/22)

興奮度★★★
沈痛度★★★
爽快度★★★
感涙度★★
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