戦争映画の一方的評論
 
「ザ・トレンチ 塹壕 評価★★☆ 極度の緊張と恐怖の塹壕48時間
THE TRENCH
1999 イギリス 監督:ウイリアム・ボイド
出演:
ポール・ダニエル、ダニエル・グレイグほか  
95分 カラー

 
 歩兵戦としては史上最高の被害(2日間で6万人)と残酷性を持ち合わせた、第一次世界大戦のソンムの戦いを描いた映画。前方350mに位置する敵(ドイ ツ軍)と対峙する塹壕の中での、恐怖と閉塞感がひしひしと伝わってくる。塹壕線を題材にした映画には「西部戦線異状なし」 「突撃」「ラスト・バトルライン」などがある が、この映画はその99%までが塹壕の中である。
 若い兵卒、軍曹、中尉と様々な立場における兵士の心情を描くことで、迫り来る突撃までの48時間の不安と恐怖を浮き彫りにする。しかし、一部のグロ映像 を除き、戦闘らしい戦闘シーンはなく、敵側であるドイツ兵もほとんど登場しない。そのため、戦闘への緊迫感、恐怖感を一定以上高めることが出来ないまま終 わってしまう。冒頭にでも、塹壕からの突撃シーンでも入れて、恐怖をあおっておいたら効果が高かったのではと思う。もしくは、主人公らが新兵なので、自分 たちにこれから何が起ころうとしているのかを知らないという伏線であったのならば、もう少し何をすべきかわからない戸惑いの表現が欲しかったかな。
 また、酒を拒む軍曹、酒におぼれる中尉はある程度の特徴があるが、主人公などの兵卒の描写が今ひとつ特徴がない。従って、最も哀れである兵卒への感情移 入がしにくいのが欠点。特に、主人公の性格が良くないために、若干引きぎみに視聴せざるを得ず、主人公に自分を投影してみることが出来なかった。塹壕内で の不安と恐怖を感じるためには、もう少し引き込まれないと。主人公が兄弟で登場する効果もあまりない。個人的には、おデブの兵卒にちょっと興味を惹かれた が。
 最後に、この映画は塹壕の中だけに固執しているのだが、それだけに塹壕から出たラストシーンはかなり物足りない。どうせ塹壕内に固執するならラストはい らなかったのではないだろうか。映画の技術的には結構賛否割れそうな感じ。

 余談だが、DVDのパッケージ解説だが、ほんといい加減。騙されたよ。「全滅した補給部隊」?どこに出てきたかなあ。答えは映画を見て探して下さい。

興奮度★★
沈痛度★★★
爽快度★
感涙度★


(以下あらすじ ネタバレ注意)
 
 1916年夏の北フランス。英軍とドイツ軍は対峙する塹壕で降着状態となっていた。2日間で6万人が戦死した世に言う「ソンムの戦い」の前々日のことで ある。
 英軍のあるC中隊は最前線塹壕の守備を命令されていた。新兵の17歳ビリーは兄とともに兵役についていた。兄の後を追っての志願入隊だ。小隊長である ハート中尉は先延ばしになる突撃と最前線塹壕での疲弊で酒におぼれる。ウインター軍曹は部下と中尉の間で気丈に振る舞う。
 翌6月30日、ビリーの兄エディはデル伍長にそそのかされて、覗き穴から顔を出してしまう。ドイツ軍の狙撃にあい、エディは口を撃たれて後送される。命 拾いはしたものの、ビリーにはショックな出来事だった。その日、連隊から大佐が視察にやってくる。映画撮影のためだった。兵卒のダベントリーは思わず「高 みの見物にか」と口を滑らす。大佐は「その通り。戦うのは君たちだ」と言い残して去っていく。兵卒が捨て駒であることを象徴する瞬間だ。
 夕方になり、兵卒ホッグら3人は給食係として食料を取りに食料庫へ行かされる。しかし、そこにドイツ軍の直撃弾が命中する。バラバラになる死体。ビリー はその姿を目撃して錯乱する。
 夜になり、ドイツ軍陣地の斥候に出ることとなる。ウインター軍曹とデブのベックウィズが出かけ、無事戻るがドイツ兵を一人捕虜にしてくる。
 翌7月1日、朝になり、ついに英軍の先行砲撃が始まった。ハート中尉が大尉の所から青ざめた顔で帰ってくる。味方の2個中隊が指揮系統の乱れで撤退した というのだ。かわりにC中隊が第一波の突撃を命じられたのだ。最早逃れる方法はない。足を自ら撃って逃げる兵卒も出てくる。軍曹はデル伍長にラム酒を取り に行かせる。酒にでも酔わなければ勇気 が湧かないからだ。しかし、デル伍長は恐怖の余り途中でラム酒に手をつけてしまい戻ってこない。仕方なく、軍曹は中尉の持っているウイスキーをふるまうよ う頼む。最初は断った中尉だったが、部下にウイスキーを振る舞い士気を鼓舞するのだった。
 7:30の突撃を前に、ビリーは一目惚れの郵便局の女と勝手に思いこんだヌード写真の女を眺め、突撃への決意を固める。
 そして、中尉以下軍曹、ビリーらは塹壕を飛び出て、ドイツ軍陣地に向けて行進していくのだった。

(2005/03/16)

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