戦争映画の一方的評論
 
「少年義勇兵」  評価★★★ 日本軍通過許諾前に行われた知られざる戦闘
BOYS WILL BE BOYS, BOYS WILL BE MEN
2000 タイ 監督:ユッタナー・ムクダーサニット  
出演:ルンルアン・アナンタヤ、テーヤー・ロジャース、ワラヨット・パニチャタライポップ
ほ か 
123分 カラー

 昭和16年、日本軍のマレー侵攻戦に先駆けて、タイ領内を通過するためにタイ南部のシンゴラ、パッターニに上陸した日本軍とタイ国軍が交戦した逸話を映 画化したもの。日本ではタイと同盟して無血上陸したように書いたものが多いが、上陸してからタイ国が日本軍の通過を許諾するまでの約半日のタイムラグの間 に、タイ国軍と日本軍の間で交戦があったことは、実は結構昔から知られている。本作はその交戦に参加した高校生を主体とする少年義勇兵達の活躍ぶりを描い ている。
 さて、本作は冒頭に「史実に基づいたフィクション」と明示しているが、どの部分がどの程度史実に基づいているのかが気になるところである。映画中でのタ イムスケジュールでいくと、12月8日午前2:40日本軍上陸、以降交戦、11:20通過許諾となっているが、上陸した第25軍の山下中将の日記によれ ば、3:00第一派上陸開始、5:30山下将軍上陸、8:00知事邸入り・警察隊解散、13:00タイ国と協議開始、23:00通過許諾、となっている。 大方は合致するが細かい時間は結構異なっている。この映画の場合、国王が通過許諾を出すまでのタイムラグの間に無為な戦闘が行われたことが最も重要な点で あり、少年義勇兵がいつ停戦を知ったのかが問題なのだ。もう一つ、本作に登場する民間日本人のエピソードであるが、こちらの瀬戸正 夫氏のインタビュー記事に出てくる逸話(釣りをしながら湾の深さ調査などスパイ活動、上陸時に軍服に着替える等)と極めて極似している。本作がこ の瀬戸氏の話を参考にした可能性は高い。 
 本作では、少年義勇兵が勇敢にも貧相な武器で日本軍に立ち向かっていくのだが、激しい戦闘で日本兵はバッタバッタと倒されていく。いくらなんでも最新装 備の日本軍に対して、さして訓練もされていない義勇兵が・・・・とも思ったのだが、エンドロールでこの交戦の死傷者数が提示される。日本軍死傷者200 名。タイ国軍10名。うち少年義勇兵0名。what?この数字は何か根拠があるのだろうけど、先の瀬戸氏のインタビューでは、「タイ軍も相当の数が死んで いますし」とも出てくるのだが、タイ国軍たった10名。しかも、映画中では最前線で激しい戦闘を繰り広げた少年義勇兵は死傷者0名!。確かに、映画中での タイ軍の馬鹿のように強いシーンを見ればそれもわかるけど、現実問題武器や練度から考えればありえないだろう。となれば、タイ国軍が日本軍に対し、奇襲か ゲリラ戦のようなものを取ったと見るべきではないだろうか。そういう意味では、本映画の戦闘シーンや行動には多分に誇張が入っているのだろうし、少年義勇 兵が前線に出た事にも疑問符が付く。
 まあ、タイ国の製作だからそういうのもアリでいいとして、事前に電波なレビューを見ていたため、よっぽど反日的な表現が用いられているのだろうと思いきや、さほどでもない。 登場する日本人は気の良い人だし、少年義勇兵を馬鹿にする日本軍兵卒を「彼らも勇敢に戦った軍人だ」と一喝する日本軍中佐など、礼節をわきまえる日本人の 姿が描かれており、日本人の暴力的なシーンは皆無である。タイの外交的な配慮もあったのだろうが、本作は決して反日、抗日というのではなく、独立のために 戦った少年義勇兵を称える国威昂揚の内容でしかない。先のレビューは何を見るとそうなるのか不思議だ。
 本作は戦争映画として、戦闘シーンやエグイ映像もあるが、恋愛、友情といった要素も盛り込んでいる。全体としては、ちょっと美化しすぎの感もあって、構 成上リアリティに欠けるきらいがある。ただ、物語の焦点は明確なので、内容的にはわかりやすい。
 兵器類はほとんど出ない。タイ軍が乗るジープやトラックは、明らかに現用タイ軍のもの。日本軍の上陸シーンでは上陸用舟艇や空母?のような艦船も出てく るが、かなりのボカし映像で全く何だかわからない。加えて、日本兵は白い鉄兜をかぶって何だか変。無茶弱いし。なお、ちょっとだけ出てくる兵卒が話す日本 語は思いっきり関西弁。確かに関西の連隊が参加はしているけど、そこまで考証していたのだろうか、それともたまたまエキストラが関西人?。 

興奮度★★★★
沈痛度★★★

爽快度★★★

感涙度★★

(以下あらすじ ネタバレ注意)
 
 1941年5月20日。タイのチュンポーン県の高校に第52訓練隊長のダヴィン・ニヨムセーンが赴任してくる。事実上イギリスの支配を受けながらも、独 立を維持しようとするタイ国軍は少年義勇兵を立ち上げようというのだ。
 マールット、県副知事の息子プラユット、眼鏡をかけて小柄なワッタナーら高校生は少年義勇兵に志願する。マールットは早くに両親を亡くし、姉夫婦と暮ら しており、姉の主人は日本人の川上と言った。人の良い男で写真館を経営しており、マールットの学資の面倒もみている。しかし、副知事の息子プラユットはそ んなマールットを日本のスパイだと非難し、さらに二人は髪の長い女学生チッチョンの恋敵でもあった。
 6月24日の建国記念日を迎え、少年義勇兵達はますます死を恐れない犠牲の意志を固める。その傍ら、少年らは興味本位で売春宿に赴くが、そこには酔っぱ らった教官のサムラーン軍曹がいた。サムラーン軍曹はニヨムセーン隊長が美人コンテストにも出場した美女ワンディを横恋慕したとして、人情知らずと怒って いるのだった。
 8月17日、なかなか回ってこない兵器の購入資金に充てるため、疑似戦争大会が開催される。その大会の場でもマールットとプラユットは喧嘩をし、友人一 人に怪我をさせてしま う。大会の終了後、副知事が川上に対して日本軍がインドネシアを占領したと嫌みを言う。
 11月3日、非常呼集がかかる。イギリス軍がマリワン湾に潜入したというのだ。少年義勇兵らは偵察任務を帯びて出動する。マールットは相手が日本ではな いことにホッとする。マールットとともに夜警に立ったプラユットは、次第にマールットと和解を始め、チッチョンがマールットを好きな事を伝え、身を引くこ とを宣言する。
 12月5日、意外な事にニヨムセーン隊長がサムラーンとワンディの結婚を取り持つ。最初からそのつもりだったようだ。
 12月7日、マールットと川上は海に釣りに出る。マールットが砂浜でチッチョンを見かけてプレゼントを渡す傍ら、川上は海上で糸を垂れるふりをして、水 深を測る。実は川上は日本軍のスパイだったのだ。
 12月8日、2:40、暴風雨の天候であったが、ついに日本軍が上陸してきた。ターヤンタイ寺が占領され、少年義勇兵にも非常呼集がかかる。マールット の家では日本兵の軍服に着替えた川上がいた。「すまん。話せなかった。」と謝る川上の頬を殴打してマールットは前線に向かう。6:00にターナンサン橋で 日本軍と対峙する格好になり、タイ国軍及び警官隊と合流する。知事は「しばらく待て」との命令を受けるが、8:00になりニヨムセーン隊長はターヤンタイ 寺の日本軍に襲撃をかけることを決意する。少年義勇兵達は銃剣を装着し、突撃する。次々に日本兵を撃ち倒していくが、ついにニヨムセーン隊長が戦死。さら にサムラーン軍曹も腕を負傷する。銃剣で腕を切れと命令するが、なかなか切る事が出来ない。
 9:30、いよいよ多勢に押されかけた頃、後方に応援部隊がやってくる。しかし、命令は橋の防衛であり、少年義勇兵は前線に取り残されたままとなる。も う駄目かと思われた11:20になり知事のもとに「タイ国内の日本軍通過許諾。停戦」の命令書が届く。ようやく前線にも停戦が伝えられ、少年義勇兵たちは 負傷した友や戦死した隊長をかついで帰路につく。
 チュンポーンに着いた少年義勇兵達を日本軍の二等兵が「アホちゃうか。こいつら」と馬鹿にするが、それを見た日本軍中佐が「彼らも勇敢に戦ったのだ」と 諫める。敬礼する日本兵の側を少年義勇兵らが行進していく。
 本戦闘の死傷者数。日本軍側200名。タイ国軍側10名。少年義勇兵0名。
 戦後談。マールット:弁護士。プラユット:元公務員。ワッタナー:中国語教師。プラチュム:自転車修理工。サナン:校長。

(2005/10/17)

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