戦争映画の一方的評論
 
「黒水仙 評価★☆ 韓国労働党員の引き裂かれた愛
BLACK NARCISSUS
2001 韓国 監督:ペ・チャンホ
出演:
イ・ジョンジェ、アン・ソンギ、イ・ミヨン ほか  
103分 カラー

 
 朝鮮戦争を背景に、歴史に翻弄された男女という触れ込みだったので、「戦争物」かと思い視聴したが、まあ戦闘シーンもあることはあるのだが、サスペンス 5割、ラブロマンス4割、戦争アクション1割と言ったところだろうか。
 役者も主演の一人が鶴見慎吾似のイ・ジョンジェ、「ホ ワイト・バッジ」 でも熱演したアン・ソンギと来るので、それなりに期待できそうで、フランス映画かと思わせる洒落たオープニングなど、大作の予感もあった。ストーリーは、 現代のソウルの若い刑事が、朝鮮戦争に翻弄された男女らが絡む殺人事件を紐解いていくという、刑事サスペンスであり、最初のうちは犯人との機敏で派手なア クションもあり、目を見張るシーンも多く、なかなか秀逸と思わせる。
 ところがである。途中から突然映画の雰囲気と流れが変わる。容疑者の一人が日本の宮崎県に住んでいるということで、刑事が宮崎にやってくるのだが、ここ からはすっかり「火曜サスペンス劇場」と化すのだ。「ジャジャジャーン」というテーマが聞こえてきそうなくらいにそのまんまだ。というのは、出てくる映像 が宮崎の観光名所を全て勢揃いさせた観光案内となっているのだ。火曜サスペンスは、ある意味舞台となった地域のPRも兼ねているので、まあそんなもんだと 見ているが、映画でこれをやってはいけないだろう。ペ監督に何があったか知らないが、すっかり流れがぶちぎれる。
 この映画で驚いたのは、韓国映画であるのに北朝鮮捕虜や南朝鮮労働党を擁護しているかのような作りになっていること。近年の北朝鮮寄り政策を反映したか のような、韓国軍事政権下時代を批判的に捉えた作品となっている。
 アクションとしては、北朝鮮軍捕虜と韓国軍兵が小銃及び機関銃で戦うシーン若干出てくるが、韓国軍兵がバッタバッタと倒れ、北朝鮮兵が腰ダメ射撃でカッ コイイ。この映画、北朝鮮製作といっても違和感ないかも。
 最後に、近年の韓国映画は若年から老年までを一人の役者で演じるケースが多いようで、メイク技術でカバーするのだそうだが、はっきり言って顔が変だし下 手だと思う。娯楽映画の特撮ならば許されるが、シリアスものの場合は違和感ありすぎ。

興奮度★★
沈痛度★★★
爽快度★
感涙度★


(以下あらすじ ネタバレ注意)
 
 1950年から53年の朝鮮戦争の後、韓国の巨済(コジェ)島に、15万人の北朝鮮軍捕虜が収容されていた時代があった。そして、50年が経過した現 在、一人の政治犯ソク(ソンギ)が50年の刑期を終え出獄してきた。
 ソウルのオ刑事(ジョンジェ)は、暴走型の刑事で彼の行くところ死傷者が絶えない。ある水死体事件を担当することとなったオ刑事は、数少ない物証から捜 査を始める。被害者はダルスという男で、若い頃は青年同盟に所属し、労働党員の取り締まりをしていたが、現在は麻薬におぼれていた男だ。物証は風変わりな ナイフと「大良」という文字の名刺の切れ端だけだ。麻薬の売人関係から捜査を始めるオ刑事だが、上司から銃を使うことを厳禁されているにもかかわらず、激 しいアク ションの末、銃を使い滅茶苦茶にしてしまうのだった。
 次第に捜査上に、巨済島に北朝鮮軍捕虜収容所があった時代の、ダルス身辺の関係者が浮かび上がってくる。労働党員で北朝鮮軍捕虜の脱走を手助けしていた 美 女ジヘ(暗号名を黒水仙という)、ジヘの逃亡を手助けしていた幼なじみの小作のソク、北朝鮮軍捕虜で元遊撃隊長のドンジュ、中国人民軍捕虜のマノである。
 当時の北朝鮮軍の脱走事件が、ジヘが残した日記から判明する。ジヘの手引きでドンジェ、マノら多くの北朝鮮兵が韓国警備兵を殺害して脱走し、ソクの手引 きで学校の床下に潜伏したのだ。しかし、日記はここで終わる。
 オ刑事はジヘが事件のカギを握っていると感じ、執念でジヘを探し出す。50年経過し、盲目となっていたジヘは事件のその後を語り始める。
 潜伏していた北朝鮮兵だが、マノの裏切りにより(この時ジヘの日記も持ち出している)、ダルスら青年同盟、韓国軍によって包囲され、ついにはほとんどが 殺されてしまう。ジヘ、ソク、ドンジェの3名だけが生き延びるが、ダルスに捕らえられてしまう。ソクを愛していたジヘは、自分の財産と体をダルスに提供す る ことで、ジヘの無罪放免の約束を取り付ける。その後、ソクとは会っていないという。ドンジェもその場で殺害されたようだと語る。
 
 捜査は頓挫したかのように思えたが、オ刑事はダルスが死の直前に会っていた男が「まえだしん大郎」という男だと知り、この男が名刺の男であり、死んだと 思われて いたドンジェだと直感する。生きていたドンジェをダルスが強請っており、その口封じにダルスを殺したと推理する。日本の宮崎で市会議員にまでなっている前 田のもとにオ刑事は飛ぶ。
 宮崎で前田と面会するオ刑事だが、前田は身分が暴かれることを恐れ、オ刑事を銃撃する。反撃したオ刑事は前田を射殺してしまう。しかし、前田は犯人では なかった。
 韓国では、ダルス殺しの容疑者としてソクが身柄を拘束されていた。そして、ソクは犯行を自供する。

 事件は解決したかと思われたが、オ刑事のもとへ、真犯人から殺害に用いられたナイフの鞘が送られ、ソクが犯人ではないこと、ソクを釈放しなければ市民に 犠牲者が出る、と脅 しの電話が入る。約束通りソクを連れて駅に来たオ刑事だが、犯人がジヘであることを直感する。間もなく、ジヘを探しだし対面したオ刑事は、ジヘからソクが 無罪釈放にならなかったことへの恨みからダルスを殺害したことを聞く。しかし、その瞬間、狙撃隊がジヘを射殺してしま う。死んだジヘを抱きかかえるソク。二人は50年後にしてようやく対面することが出来たのであった。

(2005/03/28)

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