戦争映画の一方的評論
 
「ノー・マンズ・ランド 評価★★★☆ ボスニア紛争での戦場の矛盾と不条理
NO MAN'S LAND
2001 フランス・イタリア・ベルギー・イギリス・スロヴェニア 監督:ダニス・タノビッチ 
出演者:ブランコ・ジュリッチ、レネ・ビトラヤツ、フィリブ・ショヴァゴヴィッチほか
98分 カラー


 旧ユーゴスラビアのボスニア紛争(1992〜1995)を題材にしたブラック風刺的戦争映画。一部の評論にはブラックコメディとの位置づけもなされてい るが、コメディ的に笑える箇所はないに等しい。シリアスものとして捉えた方がいいだろう。ストーリーとしては史実に基づいたものではないと思われるが、ボ スニア軍、セルビア軍の血を血で洗うような凄惨な民族闘争のむごたらしさと、その介入に入った国連(フランス軍)のお役所的傍観の立場を痛烈に風刺してい るものである。監督のダニス・タノヴィッチ自身がボスニア紛争そのものに参加した経緯もあるだけに、ボスニア紛争と国連介入の矛盾と不条理さを肌で感じた ままに著しているものと思われる。

 ノーマンズランドとは、両軍の中間地帯にある非支配地帯を指しており、そこで出会った両軍の兵士の駆け引きと葛藤がメインとなる。地雷を仕掛けられ、身 動きできない一人の兵士を巡り、両軍の兵士が友好と敵対を繰り返す。両軍兵士が自分の意志ではないにも関わらず、民族間の報復合戦という「造られた」戦争 意義に毒されている根深さが実に良く表現されている。本人達にも理解できないような憎しみだけがそこに存在する。とにかく、その結末は重く心にのしかかっ てきて、どうにもならない絶望感が残される。誰が悪いというのではなく、戦争というものはかくも簡単に起きるのだという根底の根深さと、世の中絶対に解決 できることばかりではないという実際を思い知らされる。
 また、調停に入る国連軍はフランス派遣部隊であるが、建前に縛られて思うように活動できないジレンマを、いかにもフランスらしい身勝手な論理と無関心さ で表現している。ただし、実際のところ、国連軍はNATO軍の武力介入に対して、人道支援を主とした非武力介入であったため、本作の批判はちょっと酷かも しれないが。監督=当事者から見れば、何とかしてくれという気持ちだったのだろうが、マスコミを利用した展開など、いささか刹那的、感情的なイメージも感 じる。

 戦闘シーンはさほど多くないが、冒頭でセルビア軍側としてT-54/55戦車と思われるものが登場する。砲撃シーンと若干の自走シーンが映っている。こ の他、国連軍側としてUNマークをつけたユーゴのBOV装甲車が登場する。このことから兵器類はボスニアかユーゴ軍の協力を得ているのだろう。本作の核と なる地雷は、劇中でmade in EUとされており、ジャンプ式(跳躍型)のものである。見た目はソ連製にも見えるんだけど。
 あと、この映画を見て思ったのは、ぱっと見てボスニア兵かセルビア兵かはわかりにくい。軍服もまちまちだし、実際の戦場でも両軍入り乱れた場合、どう やって識別したのだろうか。

 2001年カンヌ映画祭脚本賞、2002年ゴールデングローブ賞、アカデミー賞の外国 語映画賞を受賞している。
 

興奮度★★★
沈痛度★★★★★
爽快度★★
感涙度★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 ボスニア紛争の最中、ボスニア軍のチキ、ツェラらは前線の夜間交替に赴くが案内人が不慣れなうえ、濃霧にまかれてセルビア軍陣地の目の前に迷い込んでし まう。セルビア軍の戦車砲撃、銃撃の嵐でほとんどが全滅し、チキ一人が両軍中間地点にある放棄された塹壕線内に辿り着く。友人のツェラは息絶えており、 たった一人で塹壕内に取り残される。
 セルビア軍は様子を偵察するため、ベテラン兵と新兵ニノの2名に塹壕へ行くよう命令する。2名はチキに気づかず、ボスニア兵ツェラの死体の下に跳躍型地 雷を仕掛ける。ベテラン兵が編み出した罠である。しかし、チキの存在が気づかれると、チキはセルビア軍ベテラン兵を殺害し、ニノにも負傷を負わせる。チキ は塹壕からの脱出路を聞き出そうとするが、新兵のニノにはわからない。
 チキは銃で脅してニノを裸で塹壕上で踊らせる。裸でどちらの兵かわからず、セルビア軍側が砲撃を加える。そうしているうちに、死んだと思っていたツェラ が意識を取り戻す。慌てて動かぬように言い聞かせるチキだったが、隙をついてニノが銃を奪う。立場が逆転するが、今度はニノがツェラに煙草をわたした隙に チキも銃を手にする。動けないツェラを間に、チキとニノが銃を持って対峙する。
 時間がたち、チキの彼女がニノの同級生だったことが判明し、二人の間に和やかな雰囲気が出る。今度は、二人で両軍にむかって裸で白旗を振る事にした。案 の定、ボスニア、セルビア両軍は国連防護軍に救援(調停)を求める事とした。
 国連防護軍(フランス軍)のマルシャン軍曹(アリゾナ2)はすぐさま現場に急行しようとするが、サラエボ本部のソフト大佐は、人道支援のみが任務である 事を盾に介入を許さなかった。命令を無視してすでに現場に入っていたマルシャン軍曹のもとに、上官のデュボア大尉からすぐさま帰還命令が下る。地雷を仕掛 けられたツェラを置いて去ろうとする国連軍にニノは一緒に行く事を希望する。しかし、それを許さないチキが足を撃ってしまう。ニノはチキに憎悪に目を向け る。
 いったん戻ったマルシャン軍曹だが、途中でマスコミのリビングストン記者に捕まる。無線を傍受して事件を嗅ぎつけていたのだ。マルシャン軍曹は情報提供 と交換に、リビングストン記者からデュボア大尉に脅しをかけてもらう。その結果、マスコミの報道を恐れたソフト大佐が渋々出動を許可する。地雷処理員はド イツ軍から派遣されてきた。
 国連軍が現場に到着する直前に、ニノがチキにナイフで襲いかかる。間一髪の所で国連軍に引き離されるが、今度はチキがニノに憎悪を抱く。ドイツ人地雷処 理兵は状況を見るが、地雷が跳躍型と知ると除去不可能と判断する。さらに、ソフト大佐もヘリで現場に到着するが、隙を見たチキがニノに発砲してしまう。発 砲したチキは国連軍の兵士に射殺され、当事者の2名が死亡する。この不祥事に大佐は地雷の兵士を救う事が出来ないことがバレるのを恐れ、替え玉の死体を救 助したと偽ってヘリの乗せる。
 「詳細は今晩の記者会見で」、と大佐は現場の撤収を始め、マスコミも現場を去っていく。さらに大佐は証拠隠滅のため、片方の軍に敵が今晩塹壕占拠を目論 んでいるとのニセ情報を流すよう指示する。塹壕内に相変わらず動けないツェラを残して。

(2005/10/27)

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