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かぽんの戦争映画
一方的評論
 
「牡牛座 レーニンの肖像 評価★★★☆ 革命家レーニンの不幸の晩生
TELETS TAURUS

2001  ロシア・日本 監督:アレクサンドル・ソクーロフ
出演者:
レオニード・モズゴヴォイ、マリヤ・クズネツォーワ、ナターリヤ・ニクレンコ、セルゲイ・ラジュークほか
94分 カラー 

 
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 独自の映像観で奇才とも呼ぶべきソクーロフ監督の、歴史人物シリーズ3部作「モレク神(ヒトラー)」と「太陽(昭和天皇)」の間に制作された2作目作品。「太陽」では日本人監督が描けないような昭和天皇をストレートかつ繊細に描いて見せた。このレーニンでは全盛期ではなく、半身麻痺で病床についた後、つまり権力を失った晩年の姿を題材に据えている。
 言うまでもなく、レーニンはボリシェビキの中核的指導者であり、旧ソヴィエト連邦の産みの親でもある。マルクス主義に傾倒し、労働者の階級闘争から社会主義政治闘争を試み、暴力革命を推し進めた。ロシア革命後はロシア共産党の代表として、ソヴィエト政権の権力を得るに至り、強引とも言える土地の没収や言論等の自由を制限していく。1918年、レーニンは狙撃されて体の具合を悪くする。そこから階段を転げ落ちるように半身麻痺、脳障害などを病み、一気に権力の座をスターリンに奪われてしまうのだ。1924年に死去するのだが、本作は1923年前後を描いているものと思われる。

 ソクーロフ監督が何故レーニンの晩年を題材に選んだのか。どうせなら、躍進著しい若きレーニンの活躍、さらには政友であり政敵であったスターリンとの確執など、題材としてはずっと面白いものがあるのだが。監督のコメントを見る限り、レーニンを不幸の者、スターリンには良い感情を抱いていないことが分かる。スターリンを主題に選んだ場合、直接的な感情が出過ぎると思ったのだろうか。いや、私としては監督が描きたかったのは、権力者自身が弱者であり、権力とは儚いものであり、それを作り上げるのも奪い去るのも本人の意志ではない。つまり、レーニンの晩年における権力構造の揺れ動きが最も適していると判断したからではないだろうか。
 「太陽」の時もそうだったが、映画中では政治的、思想的な言い回しや映像を極力避けている。従って、ドキュメンタリー風ドラマとしては、いささか骨抜きの感があるのだが、むしろ主人公を取り巻く周囲の人間の細密描写によって、それを描こうとしているように思える。それを示すように、監督は20世紀の権力者を描きながらも「(数百万の人生を破滅に追い込んだ権力に対して)主たる指導者には責任はなく、”人民”の中にあることを私は確認します。しかし、この責任から人民は絶えず回避し、ヒトラーたちや、レーニンたちの背後に隠れるのです・・・」とコメントしている。権力への志向は我々一般国民の中にある。そしてその責任も我々の中にある。
 こうした視点で本作を見てみると、映画中の不可思議な言動や映像の謎が解き放たれていく。権力者とても全てを自分の意志で動いているわけではなく、一人の人間として振り回されているのだと。それ故、本作ではレーニンの名前もスターリンの名前も登場しない。
 
 ソクーロフ監督の映像は、ソヴィエト芸術記録映画の系譜を継承しているようで、空、森林、太陽など自然風景を多用する。また、BGMも極力抑え気味に、自然音を効果音として多用する。それでいて、寓話的なシャープな映像が新しいソヴィエト芸術映画を彷彿とさせる。
 レーニン、妻クルプスカヤ、スターリンそれぞれ役者が演じるのだが、ごく自然なふるまいに、いかにもドキュメンタリーを見ているような錯覚にも陥る。レーニン、スターリンとも本物に良く似た役者とメイクを施しているが、一番印象的だったのは妻クルプスカヤだった。一見冷淡にも見えるが、目の奥には深い母性愛のようなものも感じられる。クルプスカヤ自身が革命家であり、夫レーニンの失脚とともに自身の粛正の恐怖に怯えていたとも言われる。同士である夫とともに政争に振り回されるクルプスカヤは、権力の儚さと理想と現実のギャップに最も敏感な人物ではないかと思えてくる。それが悲しげな表情に表れているのだろうか。本作の主人公はクルプスカヤだったのでは、とさえ思えてくる。

 ストーリーは保養施設に軟禁状態となっているレーニンの日常を描いているが、権力に関係する人物、しない人物が数多く登場する。それぞれが、権力に無関心であったり、関心があったりと実に様々なのである。こうした人々が寄せ集まって生きているのが社会なのだ。
 レーニンは薄れ行く記憶の中で、権力への回帰に焦燥する。スターリンもまた着々と権力の奪取と確立に野心を燃やす。しかし、二人が決定的に違うのは、レーニンが革命という理想のためであるのに対し、スターリンのそれは俗的な保身のためである。道を塞いだ倒木の処理を巡る問答の中で、それが如実に現れる。倒木がそのまま朽ち果てるのを待つか、排除するか。スターリンの提案した答えは「切り刻んでしまう」だった。その後の粛正の嵐を予感させる。

 前半までは悠長な流れで制作されており、若干眠気を誘うが、後半にスターリンが登場してからは一変して面白くなってくる。ソクーロフの世界を十分に楽しめる内容になっているだろう。個人的には、もう少し即物的に描いてくれた方が楽しめるのだが、ソクーロフワールドとすればこんなものなのだろう。


興奮度★★★
沈痛度★★★★

爽快度★★
感涙度★

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(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)


  半身麻痺となったレーニンは保養施設で医者、軍人、妻、妹らの世話で生活している。電話も閉ざされ、手紙も没収される軟禁生活で、もはや中枢の権力の座から引き離されたレーニンを周囲の人間は冷めた表情で扱っている。妻クルプスカヤはレーニンの求めに応じて、マルクスの記録を読み聞かせる。
 そんな折りにスターリンがレーニンを訪ねてくる。今や権力者の代表に上り詰めたスターリンの威風堂々としたたたずまいに対し、老いぼれたレーニンの姿が対照的だ。レーニンはスターリンに政策について進言するが、スターリンは適当に受け流す。さらに、レーニンは道を塞いだ倒木の処理について「朽ち果てるまで待つか、排除するか」と聞く。スターリンは「切り刻む」と答える。
 その日の食事の席で、レーニンは忘れてしまった今日の来訪者の名を妻に尋ねる。また、使っている食器などが搾取されたものと聞き、錯乱したレーニンはスターリンから貰った杖で破壊し始める。
 車いす生活となったレーニンを庭に連れて行ったところに、共産党から電話が入る。夫を置いて電話に走る妻クルプスカヤ。後で叫ぶレーニン。


(2008/2/18)