戦争映画の一方的評論
 
「アップライジング」   評価★★★☆ ゲットーでのユダヤ人レジスタンス活動
UPRISING
2001 アメリカ 監督:ジョン・アブネット  
出演:リリー・ソビエンスキー、デヴィッド・シュワイマー、ハンク・アザリア
ほか 
159分 カラー

 アメリカのテレビ用映画だが、テレビ用にしてはスケールの大きい大作だ。邦画の大作と呼ばれる映画よりもずっとお金のかかっていそうな感じで、さすがア メリカである。映画は、ドイツ占領下のポーランドユダヤ人隔離地区ゲットーでのユダヤ人地下組織の活動を描いた、アクション入りヒューマンドラマである。 ワルシャワでのユダヤ人迫害や対独レジスタンスの活動を描いた作品には「地 下水道(1957)」「鷲 の指輪(1992)」「聖 週間(1995)」「戦 場のピアニスト(2003)」などが知られているが、いずれも民間ユダヤ人か、ポーランド人レジスタンスを題材にしたもので、ユダヤ人レジスタン スを取り上げたものとしてはレアな作品である。ゲットー蜂起はゲットー内のユダヤ人から始まり、鎮圧後はポーランド人のワルシャワ蜂起へと受け継がれてい くが、先の4作品と併せて見るとその全体像がわかりやすい。
 本作は、実話を元に制作されたということであり、撮影はスロバキアで行われている。それらしい雰囲気は旧東側独特のものである。ストーリーはややアク ション系が入っており、リアリズムには欠ける嫌いがあり、虐げられたユダヤ人らしい悲壮感は余りない。レジスタンス組織の構成やポーランドレジスタンスと の関係、ゲットー地区の全体像などは形骸化されているのが残念。映画としては波乱ありアクションありで十分楽しめるが、歴史観という重みは余り感じること が出来ないため、後半になるとせっかくの実話がやや絞り切れていない感じがする。まあ、登場人物の背景や過去に触れ始めたら相当暗く、重くなるのは必至な ので、テレビ用として軽く見ることが出来るのは逆に良かったのかも知れないが。
 主役の一人イツハク役にデヴィッド・シュワイマー。どこかで見た顔だと思ったら、同じTV映画の「バ ンド・オブ・ブラザーズ」の嫌われ者ソベル大尉役。ユダヤ人レジスタンスのイツハク・ツケルマン、モルデハイ・アニエレヴィッツ、ドイツ軍側のユ ルゲン・シュトロープSS少将、クリューガー大将、映画製作者フリッツ・ヒップラーなどは実名のまま登場している。本作はこのドイツ軍側の動きについても 触れているのが面白い。
 戦闘シーンはそれなりに効果的。特に建物砲撃シーンは近年の作品らしく、破片の飛散や音響など大迫力がある。ゲットー廃墟のシーンも壮観だが、セットで 作るのは無茶だろうから、どうもCGとの合成ではないかと思う。登場する兵器には、ティーガーII重戦車とSd.Kfz251装甲車が幾度も出てくる。 ティーガーIIはソビエト製T54/55とT-34/85が合体したような車台の上に、独特のティーガー砲塔を乗せたもの。砲塔は結構らしく作ってるが、 ハリボテっぽい感じで、車台に対して大きくて前側に付いているのがちょっと変。でも、なんとなくそれっぽい雰囲気は良く出ている。簡単に燃えちゃうけ ど・・・。Sd.Kfz251装甲車は本物そっくり。てか、調べてみたらドイツ軍Sd.Kfz251装甲車は、大戦後もチェコのスコダ社がチェコ陸軍OT -810として生産していたんですね。だから(チェコ)スロバキアロケにしたのですね。この他、特撮でちょっとぎこちない動きのJu-87スツーカも登場 する。いずれにせよ、テレビ用映画ごときで、これほどのセットや兵器を準備するとは恐れ入った。
 DVDを購入して視聴したが、特典でキャスト・監督による音声解説がついていたが、英語のみ・・・・。これじゃわからん。きちんと聞けばもっと映画撮影 の背景情報がわかるだろうに。日本語字幕つけろー。
 余談だが、最も手に汗握ったのは、下水道で水没した赤ちゃんを助け出すシーン。助け出された赤ちゃんの泣き声がなんともかわいい。 

興奮度★★★★
沈痛度★★★★
爽快度★
感涙度★★

(以下あらすじ ネタバレ注意)
 
 1939年9月、ドイツ軍の電撃戦でポーランドは1ヶ月で降伏する。首都ワルシャワではドイツ軍のユダヤ人隔離政策によりゲットー地区と呼ばれる居住区 にユダヤ人35万人が送り込まれた。当初はそれでもユダヤ人迫害は厳しくなく、ユダヤ人は食料を得るためにアーリア人側居住区に潜入するなどして食料を調 達していた。
 ユダヤ人音楽家のモルデハイは、ゲットーを脱出し、パレスチナ移住のため国境越境を試みるが、失敗し捕まってしまう。また、カジックはユダヤ人評議会議 長チェルニアコフの運転手の職にありつく。この時点ではまだ、ドイツ軍司政官(コミッサール)は評議会議長の存在を認めていたのだった。しかし、次第に司 政官は議長に難題をふっかけ、ユダヤ人の虐殺が日常化してくる。その手先となったのはユダヤ人でありながらドイツ軍の手先となったユダヤ員警察であった。 飢えと虐殺の恐怖に、ブント(労働者同盟)のイツハク、モルデハイらは地下組織での抵抗蜂起を画策し始める。イツハクらは評議会議長のチェルニアコフに同 調を呼びかけを頼むが、慎重派の議長はそれを拒む。
 1941年11月になり、ユダヤ人女性トーシャの父親が病死する。また、ゲットー内でドイツ兵の虐殺が横行するのを見て、ついにモルデハイはドイツ兵を 殺害してしまう。
 1942年7月、ドイツ軍司政官はユダヤ人のトレブリンカ収容所移送を命令する。女子供が強制連行され殺されていくことを知った評議会議長チェルニアコ フは自殺する。カジックもレジスタンスに合流し、ついにゲットー内地下組織司令部(ZOB)が組織される。イツハクはアーリア人居住区側のZOB、トー シャは武器の運び屋として外部との連絡役となる。
 1943年4月19日、ついにユダヤ人レジスタンスの武装蜂起が始まる。当初はドイツ軍を撃退し、レジスタンスの意気は上がる。これに対して、ドイツ軍 はユルゲン・シュトループ少将を送り込む。しかし、シュトループ少将もユダヤ人レジスタンスを甘く見て、ひどい損害を被る。こうした状況を宣伝相ゲッペル スから委任されたヒップラーが撮影するが、シュトループは苦々しく思う。
 1943年復活祭。次第に武器調達ルートやトンネルが発見され、ゲットー内の武器が足りなくなってくる。トーシャはドイツ兵の目をかすめてゲットー内に ダイナマイトを運び込む。しかし、ついにドイツ軍の総攻撃が始まり、ゲットー内ZOBは孤立状態に陥る。シュトループ少将の容赦ない砲撃で次々に死傷者を 出し、ZOBは完全に包囲される。カジックはアーリア人居住区側に脱出し、地下下水道の案内人を探す。地下下水道でゲットーから脱出しようというのだ。
 しかし、ドイツ軍の封鎖作戦や毒ガス攻撃で、ついにモルデハイらが死亡。カジックが地下下水道でゲットーに戻ったときにはもはや数十名しか残っていな かった。クリューガー大将から「ポーランドよりも長く抵抗させている」と叱咤されたシュトループ少将は地下下水道の封鎖作戦を決行。追いつめられたレジス タンスだが、イツハクの手配したトラックでなんとかポーランド郊外の森に逃げ込むのだった。
 戦後事後談
 トーシャ・・・脱出度1週間で捕らえられ死亡。イツハク・・・イスラエルに移住。カジック・・・イスラエルで事業成功。マレク・・・ポーランド連帯で活 躍。シュトロープ・・・戦犯としてゲットーで処刑。クリューガー・・・戦後自決。ヒップラー・・・先祖にユダヤ人がいたことで無罪。
 
(2005/10/10)

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