戦争映画の一方的評論
 
「バティニョールおじさん 評価★★★☆ ユダヤ人少年を救わざるをえなくなった肉屋のおじ さん
MONSIEUR BATIGNOLE
2002 フランス 監督:ジェラール・ジュニョー
出演:ジェラール・ジュニョー、ジュール・シトリュクほか
103分 カラー


 ドイツ占領下のフランス国内のユダヤ人迫害問題を題材にしたヒューマンタッチドラマ。ユダヤ人を題材にしてはいるが、思ったほど陰湿な雰囲気ではなく、 むしろほのぼのとした展開である。フランス映画にありがちな、うじうじしたものではなくテンポ良く話が進んでいくのがいい。ただし、全体としてはやはり皮 肉っぽいストーリではあり、フランス映画らしさも感じる事が出来る。
 監督が主演も兼ねているが、平凡で、臆病で、利己的な小市民が、徐々に人間としての尊厳に目覚めていく様子をうまく演じている。自己の保身から招いたユ ダヤ人への災難を、残されたユダヤ人少年を命がけでスイスに逃がしてことで、埋め合わせしようとする良心である。しかも、その過程が無理に感動を押しつけ ることもなく、どこか間抜けたおじさんとちょっと高慢な少年コンビが笑いを誘うのだ。なかなか後味のいい映画とも言える。また、身分を知りながら協力する 看護婦や仏警察員など随所に出てくる心やさしき人々の存在も爽快だ。
 当然のことながら、兵器類や戦闘シーンは全くない。戦争映画好きとしては、もっとユダヤ人収容所等の背景や戦争の悲惨さも織り込んで欲しいという気もな いこともないのだが、やはりこの作品はこの程度の浅い掘り下げでこそ価値があるのだとも思う。
 明るくほのぼのと、ユダヤ人問題を考えることができる名作である。

興奮度★★★
沈痛度★★★

爽快度★★★★★
感涙度★★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 1942年7月15日のパリ。バティニョール精肉惣菜店の隣家であるユダヤ人医師バーンスタイン一家が、密かにスイス脱出のため荷物をまとめていた。フ ランスはドイツ軍占領下にあり、ユダヤ人一斉検挙の命令が出ていたのだ。
 バーンスタイン一家が荷物をまとめ終わって車に乗り込もうとしたとき、精肉店の主人バティニョールが、肉を盗んだとバーンスタインに言いがかりを付け る。同居する娘の恋人ピエール・ジャンの入れ知恵である。ピエール・ジャンは売れない戯曲家だが、ドイツ軍秘密警察に積極的に協力する卑しい男である。一 刻を争うバーンスタインは指輪を渡して去ろうとするが、ピエール・ジャンの通報でドイツ軍秘密警察がバーンスタイン一家を逮捕してしまう。
 バティニョールはバーンスタイン一家がどこに連れて行かれたかには無関心であったが、ジャン・ピエールは密告を誇らしげに振る舞う。さらに、ジャン・ピ エールは秘密警察のスプライヒ大佐に取り込み、豪華なバーンスタイン家に住む事を許され、加えてユダヤ人から接収した自家用車も貰い受ける。バティニョー ル肉店はすっかりスプライヒ大佐御用達となるのだった。妻も娘も大喜びだが、かつてはフランス軍としてドイツと戦ったバティニョールはドイツ軍に媚びへつ らう事に、多少の抵抗があった。
 バーンスタイン家でスプライヒ大佐のパーティを開催した日、玄関に一人の少年がやってくる。バーンスタインの息子シモンだった。収容所に送られる途中に 両親に逃がしてもらったのだった。「お父さんはどこ」と聞くシモンに、バティニョールは焦って女中部屋にシモンを匿うのだった。
 シモンの両親がもう戻ってこない事をなんとなくわかっているバティニョールは、自分の一家が起こした行動によるものという罪の意識から、シモンをスイス に逃してやる事を考え始める。さらに、シモンの従兄弟の姉妹も加わり、仲介屋に頼むための資金づくりに奔走する。バーンスタイン家が所有していた名画がス プライヒ大佐に押収された家具の中にあることを知ったバティニョールは、密かにその絵画を持ち出す。しかし、そのことがドイツ兵にばれ、スプライヒ大佐に 呼び出しを受ける。加えて、バティニョールの行動を訝しがったジャン・ピエールに3人のユダヤ人の子供の存在がばれ、バティニョールは思わずジャン・ピ エールを殺してしまう。
 もはや後戻りできないバティニョールは、自ら3人の子供を連れてスイス国境へ移動する。途中の列車の中、検問所などで身分がばれそうになるが、シモンの 機転で幾度も切り抜けていく。スイス国境で一時滞在した村で、シモンの余計な一言で仏警察に捕まってしまう。なんとか逃げ出したバティニョールと3人の子 供は、ラビの先導でスイスへ向かう。バティニョールは、はじめ子供達だけをスイスに送るつもりだったが、親代わりとして共にスイスへ渡っていくのであっ た。
 
 (2005/06/17)

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