戦争映画の一方的評論
 
「ピエロの赤い鼻 評価★★★☆ ピエロに託された様々な思い 
EFFROYABLES JARDINS
2003 フランス 監督:ジャン・ベッケル
出演:ジャック・ヴィユレ、アンドレ・デュソリエ、イザベル・カンドリエ、ほか  
95分 カラー

 戦後世代のミシェル・カンのベストセラー原作を、ジャン・ベッケル監督が映画化したもの。原作はどちらかというとミステリー調でもう少し長いようだが、 小説のエキスとなる部分をうまく抽 出して製作した、映画としては完結度の高い作品。舞台は1960年代のフランスだが、主人公らの第二次世界大戦中のドイツ軍占領下におけるレジスタンス活 動が伏 線となっている。戦争アクションやドンパチはほとんどなく、典型的なヒューマンドラマである。余計な部分が少なく、背景の説明がほとんどないにも関わら ず、実に完結にわかりやくまとめられ、見る者に感動を与える作品だ。どちらかというと、短編の部類でやや沈痛な場面もあるが、さわやかに見終わることがで きる良作。随所で涙腺がゆるむこと請け合い。また、ドイツ軍、レジスタンスともに善悪を分けない作りにも好感が持てる。
 主演のジャック・ヴィユレやアンドレ・デュソリエの演技は秀逸。さすが、老練の演技だ。特にヴィユレの愛嬌のある顔立ちと道化師ぶりは楽しいのに妙にも の悲しさを醸し出す名演技。ただ、映像上、15年ほど前にフラッシュバックするのだが、ほとんど老け具合が一緒なのはちょっと興ざめ。リシュアン役の子役 はこれまた不細工な顔つきだが、実にいい味を出している。
 また、シャルル・トレネの「よろこびのうた」がひとつのキーワードにもなっている。この音楽の醸し出す雰囲気そのものが映画のテーマのような気がする。 唯一このあたりだけがフランス映画っぽさを出している。フランス映画なのに、ストーリーや台詞がはっきりしていて、ある意味おフランスぽくないのである。 とはいえ、フランス人特有のプライドの高さは随所に生きている。
 シネスイッチ銀座にて公開中(2004/10/09より)

 (以下ネタバレ注意)
 1960年代のフランス。14歳の男の子リシュアンは、小学校教師の父親ジャックが日曜日ごとに演ずるピエロが大嫌いだ。観客は大喜びだが、何故父親が あんな恥ずかしいピエロをするのか理解できず、憂鬱だ。
 ある日、ピエロを演じる父親をしらけた目で見ていたリシュアンに、父ジャックの親友アンドレが話しかける。「お父さんは嫌いかね」「いいや僕はピエロが 嫌いなんだ」。アンドレは何故父親がピエロになったのか、その理由を話し始めた。
  
 第二次世界大戦末期、ドイツ占領下のフランス。時代は、徐々にドイツ軍が劣勢となり、国内でもレジスタンス活動が行われている。しかし、レジスタンスな どとは無縁の小学校教師のジャックと親友の帽子屋実業家アンドレは、酒場の女給ルイーズに入れあげている。ところが、酒に酔ってたまたまワイン瓶を通過す るドイツ軍列車に投げつけた二人は、その快感からドイツ軍へのレジスタンス活動に目覚め始めてしまった。もちろん、ルイーズに良い格好を見せたい気持ちも あったのだが。
 ついに、二人は、列車のポイント切り替え所を爆破する計画を立てる。反対するルイーズをよそに、素人にもかかわらず、二人は破壊活動を実行してしまう。 破壊は成功するが、施設にはフランス人技師の老人フェリクスが寝泊まりしており、重傷を負ってしまう。
 そのことを知らない二人はルイーズのもとで祝杯をあげる。が、すぐにドイツ軍によって住民が集められ、真犯人が名乗り出るまでジャック、アンドレ、ティ エール、エミールの4人が人質とされてしまった。犯人が名乗りでない時は4人を射殺すると通告するドイツ軍に対し、本当の犯人のジャックとアンドレは困惑 する
 4人は深い穴の中に監禁される。何故4人が選ばれたのか。共通するのはドイツ軍に協力する役場の役人に4人が嫌われていたということ。様々な案を考えて はみたものの、絶対に犯人が名乗りでないことを知っている二人はついに、自分たちが犯人だと告白する。しかし、ティエールとエミールは一笑に付す。
 空腹と恐怖で極限に達していた4人のところへ、一人のドイツ兵が近づく。わざと滑って転んだり、ヒトラーの真似をしたりと道化るドイツ兵に「馬鹿にする のか」と怒る4人だったが、ドイツ兵はおもむろに赤い鼻をつけさらにおどける。さすがの4人も思わず笑ってしまった。兵士はベルントといい、パリのサーカ スで「ゾゾ」という名でピエロをやっていたというのだ。ベルントは4人に内緒で食料や酒を分け与えた。翌日には小さなアコーディオンでシャルル・トレネの 「よろこびのうた」を唄って4人の心を和ませてくれるのだった。

(以下完全ネタバレ激注意)
 いよいよ、自首の期限が迫り、強硬派のSS親衛隊将校は4人の射殺命令を下す。しかし、ベルントは銃を投げ出し、代わりに赤い鼻をつけて反抗するのだっ た。SS親衛隊将校はベルントの頭を撃ち抜いた。
 と、その時、本部から連絡が入る。真犯人が名乗り出たというのだ。実は、瀕死の重傷のフェリクスが必死に拒む妻マリーを説き伏せて、自分が真犯人だと名 乗り出たのだ。フェリクスはジャックらの犯行と全てを知っていながら、4人を救うために身を挺したのだった。
 4人はそのことを知らずに解放される。やがてドイツ軍が撤退する。ベルントが殺された場所に赴く2人。そこには彼の墓すらないのだった。さらに、ルイー ズのもとで過ごしていた、ジャックとアンドレのもとに、フェリクスが身代わりで死んだという事実が知らされる。ドイツ兵やフェリクスらの死が自らの行動が 招いたものだという罪の意識に駆られた2人は、フェリクスの妻マリーの元を真実を告げるために訪れる。しかし、マリーはすでにそのことを知っていた。「真 実を話したことであなた方は許された」。
 ルイーズと結婚したジャックは、ゾゾという名でピエロになることを決めた。もちろん、マリーも含めて皆に笑いを与えるために。
 話を聞き終わったリシュアンは、ピエロの父親に笑顔で拍手を送るのだった。

 個人的には、ドイツ兵ゾゾに泣いた。あまりに哀れなゾゾ。あとで、ジャックが「ドイツ兵は皆帰ったと」いうシーンで、「いや、帰れなかった兵士もいる」 というのにもグッと来る。また、映画館内でも最初は笑いが起こっていたピエロのシーンでも、後半になって深い思いの詰まったピエロだということがわかる と、会場の笑いもなくなった。同じピエロの演技にも哀愁を感じるものだと感心した。
 シャルル・トレネの「よろこびのうた」はとても懐かしい感じがする音楽だ。フランスの古き良き戦前を印象づけるかのような音楽だ。

(2004/10/13)

興奮度★★★
沈痛度★★★
爽快度★★★
感涙度★★★★

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