戦争映画の一方的評論
 
「極寒激戦地アルデンヌ〜西部戦線1944〜 評価★★★ マルメディ事件からの脱出 
SAINTS AND SOLDIERS
2003 アメリカ 監督:ライアン・リトル
出演:コービン・オールレッド、ラリー・バグビー、カービー・ヘイボーンほか  
90分 カラー

 劇場未公開のアメリカ映画で、1944年12月のベルギー、アルデンヌ攻勢を題材にしたもの。題名からしても2流ぽいイメージだが、内容は結構コンパク トにまとまっており、映像や音楽等の雰囲気は「バンド・オブ・ブラザーズ」によく似ている。手ぶれ撮影の使用により、リアル感が良く出ている。しかし、映 画はアルデンヌ攻勢(バルジ作戦)のうち、マルメディ事件(米兵捕虜が独軍パイパーSS親衛隊に虐殺されたと言われる事件)からの数週間を取り上げている のだが、エピソード等はやや安易な設定でチープ感は否めない。マルメディ事件以外はフィクションだという点が強く出過ぎているのがやや残念。

 (以下ネタバレ注意)
 冒頭に書いたとおり、スタートはマルメディ事件から。独軍の電撃攻勢により、捕虜になった米兵はベルギーの前線、マルメディに集められた。そこで、偶発 的な出来事から逃亡する米兵の射殺という事件が発生する。これが「マルメディ事件(虐殺)」と言われるもので、戦後の軍事裁判では指揮したパイパーSS大 佐が虐殺の角で死刑宣告、後に釈放されているが、その後の調査で偶発的な出来事であったというのが通説となっている。映画でもそのように描いているので、 かなり史実に沿った映画かという期待をいだかせる。
 主人公は射殺からなんとか逃れた4人の米兵だ。うち2人ガンダーソン二等軍曹とディーコン(ディーク)伍長は「スクリーミングイーグルス」の肩章を付け ているので第101空挺師団の兵士とわかる。ほかの二人はグルド(衛生兵階級不明)とケンドリック(階級不明二等兵?)で字幕では「第285師団」となっ ているが、実際には第285野砲観測大隊( 285th Field Artillery Observation Battalion)のことのようだ(うみさんご教示による)。第285野砲観測大隊は第1軍、第3軍と第9軍の前線を担当しており、広範囲の業務をまか されていたようだ。事実上も、285大隊はバイパー戦闘団と直接戦禍交え、65名以上の捕虜を出している。な お、101空挺師団は当時、かなり南方のバストゥーニュで包囲され ているのですが、すでに捕虜となりマルメディに移送されていたということになります。本当のところはそういう事実があったのでしょうか。
 頼もしいガンダーソン軍曹と生真面目な元神父、ディーク伍長は故郷の親友。共に助け合ってきている。一方、グルド衛生兵は現実的にさめており、冷徹に死 体から物を漁る。ケンドリックは暴力的だがやや臆病だ。
 4人は空き家に隠れているが、そこに撃墜された英空軍パイロット、ウィンリー上等兵曹が加わる。彼は偵察要員で重要な敵情報を得ており、早急にマンハイ ムの司令部に伝達しなければならないと言う。どうやらドイツ軍はミューズ川を渡って連合軍の弾薬庫があるリエージュを目指しているらしい(これはほぼ史 実)。ウィンリーは煙草を誰にも分けてやらず本音を語らない嫌みな性格。しかし、味方を救うには快進撃中のドイツ機甲師団のど真ん中を抜けて味方陣地へ到 達しなければならない。5人は小銃1丁と拳銃1丁という貧しい兵器で歩んでいく。
 途中でディークは何度も幻に悩まされる。実は彼は建物内にこもる敵兵と間違えて女子供らを殺害してしまった経緯があり、その呵責に苛まれていたのだ。
 味方陣地まであと10kmということろで、吹雪のため一軒の民家に滞在する。そこにはフランス人母娘がいた(ベルギー国内なのに何故フランス人なの か?)。母娘の助けで暖を取るが、そこに独軍がやってくる。銃撃戦の末一人の独兵を捕らえるが、彼はディークが神父時代にドイツ滞在中に世話になった相手 だった。ディークは独兵を逃がすが、かわりに独軍の展開情報も得ていた。前線への突破を図る5人。しかし、ドイツ兵がひしめきあう前線で、ドイツ兵にみつ かってしまい、銃撃戦となる。逃げる5人だが、一人、二人と倒れていく。始めは馴染み合わなかった彼らだが、今や心は一つにまとまりつつある。残った3人 は、再び出会ったディークの旧友である独兵の手助けで味方前線へジープに乗って突入するのだった。

 戦闘シーンは、そこそこ激しく、ドイツ兵との追跡劇はなかなか緊迫感がある。無駄なシチュエーションもなく、かなりまとまっていると言える。しかし、 ちょっとコンパクトにまとめすぎて、全体の迫力という点においてはやや物足りない。マルメディ事件や、パイパー戦車隊の行き先など史実に沿って作られてい る点はいいのだが、兵隊の構成や何故かフランス人の家だったりと、ちょっとおかしいかなという点もある。その辺で若干興ざめかな。
 また、各兵士の個性がそれぞれあって、次第に結びつきあっていくという構成は戦争物としては定番なのだが、時間がなかったせいか、個性のぶつかり合いと いう部分の表現があまり描かれていない。それだけに、その後にそれぞれが結びついていくきっかけに蓋然性がさほど見あたらず、唐突に友情が芽生えていると いう感じが否めないのは残念。それでも、ラストシーンで冷めていた衛生兵が見向きもしなかった聖書をポケットにしまうシーンなど、「戦場における冷ややか な友情」という感動的な部分もあるので、なかなか泣かせます。
 ディークが撃たれて倒れる際に、自分が殺してしまった女子どもの幻が現れるシーンはちょっとやりすぎかな。シリアス戦争映画と、娯楽アクションとの中途 半端な間に陥ってしまっているかも。
 バンド・オブ・ブラザーズの一エピソードという位置づけなら十分納得。

(2004/09/08、2005/01/15修正)

興奮度★★★
沈痛度★★★
爽快度★★★
感涙度★★★

 
極寒激戦地アルデンヌ〜西部戦線 1944〜極寒激戦地アルデンヌ〜西部戦線 1944〜