戦争映画の一方的評論
 
「シルミド 評価★★★ 血も涙もない実話の重たさ 
SILMIDO
2003 韓国 監督:カン・ウソク
出演:ソル・ギョング、アン・ソンギほか  
135分 カラー

 韓国で実際にあった実話を基にしたペク・ドンホの小説「実尾島(シルミド)」を映画化したもの。事件が起きてから30年間も国家秘密にされてきた悲話に 挑んだだけのことがあり、映画化には相当な紆余曲折があったらしく、事実、映画上演後に国家保安法容疑で監督が訴えられたこともあったようだ。韓国では映 画史上初の1000万人の観客動員を記録した。
 
 という前宣伝だったので、映画館へ足を運びましたが、確かに実話に基づいているという背景からすると実に悲壮でアンビリーバブルな展開で、非常に心に響 く内容でした。しかし、重くつらい内容で、真摯に捉えるべきであるのにも関わらず、歴代の韓国二流戦争映画にありがちな軽々しいシーンが目に付いた上、映 像のカット割技術と、台詞や場面構成等の脚色が劣っているのが残念でありました。

(以下ネタバレ注意)
 話は、1968年から1971年にかけて実際に起こったシルミド事件を題材にしており、当事者の多くが死亡している現在、不明な点が多いようだが、推測 を含めてできるだけ再現しているようだ。1968年1月に北朝鮮によるソウル侵入と青瓦台(大統領のいる所)襲撃事件が起こる。大統領暗殺は未遂に終わる が、韓国ではこれに対抗するため北朝鮮の金日成暗殺のための特殊部隊を編成する。
 この特殊部隊は仁川沖(朝鮮戦争で米軍が上陸作戦を行ったところ)にある実尾島(シルミド)に1968年の4月に集められたため、「684」部隊と呼ば れた。ところが、この部隊は正規兵ではなく、31名の死刑囚からなる幽霊部隊であった。彼らは金日成暗殺の暁には英雄として社会復帰できることを約束され ていた。この中には、父親が北へ亡命したため「連座制(犯罪者の家族が同罪で虐げられる制度)」に苦しんだあげく暴力団の鉄砲玉で死刑判決を受けたイン チャン(ソング)がいた。彼は持ち前の真面目さと冷静さで第3班の班長となり、猛訓練に励む。訓練指導するのは、チェ隊長(ソンギ)、チョ2曹、パク2曹 以下の正規兵たちで、訓練兵、指導兵ともに長く苦しい訓練を続ける。途中、訓練兵が事故で死亡するなどを経て訓練兵は堅い結束を生んでいくとともに、指導 兵との間にも熱い友情と信頼が芽生えてくる。
 いよいよ出撃となったとき、中央情報部から作戦中止命令が出る。穏和外交政策への転換のためである。やることのなくなった684部隊だが、中央部ではこ の部隊の存在そのものが危険で邪魔となってきた。
 ついに、中央からチェ隊長に訓練兵の抹殺命令が下る。その命令に悩むチェ隊長だが、頑強に反対するチョ2曹を本島へ出張へ出した隙に、部下を抹殺する決 断を下す。しかし、実はその決断をわざと訓練兵インチャンに聞かせていたのだった。
 案の定、訓練兵らは先んじて行動を起こし、指導兵対訓練兵のつらい戦いが始まる。島を制圧した訓練兵達は、自分たちの存在を誇示するために、さらにバス を奪って大統領のもとへ向かうのだった。しかし、ラジオでの放送は彼らを「北朝鮮の潜入兵」だと言っていた。待ちかまえる多数の軍兵士・・・・・

 役者一人一人は韓国でも著名な俳優ばかりなので、なかなか迫真の演技をしている。訓練シーン、戦闘シーンにしても迫力があり、インチキくさい部分はな い。さらに、この話が実話だと言うことが常に頭の中にあったので、かなり悲壮感として伝わってくる部分があった。韓国で30年間も隠蔽されてきた、汚点と もいうべき卑劣な事件に韓国民が衝撃を受け、この映画で涙するのも理解できる。(さすがに私はそこまで思い入れができなかったのか、涙することはなかった が)。韓国民としてはしっかりと語り継いで行くべき内容であると思うし、自由主義であれば絶対に許されない人権の冒涜である。はっきり言って、囚人を免罪 を餌に特殊部隊に仕立て上げるなど、アクション映画のような信じられない話だ。しかも、自国民である部下を簡単に抹殺せよと いう中央政権のやり方は、日本では到底考えられない話。また、民間人を盾にする684部隊員にしろ、この684部隊を始末する軍の対応と言い、かなり冷 血な行動が多い。今の韓国政権の施策や対応を見ていてもそうだが、やっぱり騎馬民族だなあという印象を強く受けるのだった。
→後になってわかったことだが、設定や事実関係は原作段階で相当脚色されているとのこと。加えて、 映画化でまた脚色されているので事実からはほど遠いとか。元部隊員からの名誉毀損訴訟も起きるなど、問題も多い。本当にあった話をネタに作られたフィク ションという位置づけが正しいようだ。

 映画の製作技術としては、冒頭に書いたように、映像のカット割が今ひとつでインパクトに欠ける。また、実話なので指導兵、訓練兵の心の葛藤や苦悩が見所 のはずなのに、その辺の描写が今ひとつ。もっと上手に台詞や演出をしたらいい映画になっただろうと思う。あと、これまでの韓国映画に共通して言えるのだ が、一人一人の個性が強すぎる。全員が気が強すぎて、それぞれの味をうち消してしまっている。今流行の韓国ドラマ「冬のソナタ」でもそうだが、なんで皆気 が強いのか。韓国の国民性か、はたまた映画技法がそういう観点なのか。そして、最もいかんなあと思ったのは、へぼかった 訓練兵達が厳しい訓練でめきめきと上達して立派な兵士になっていくシーン。思わず「ロッキー」かこの映画はと思った。そういう演出はいらないでしょう、こ の映画には。そこが残念。戦闘シーンはどうってことない。

 あと、見ていて思ったのは同じ韓国映画「特 命作戦K−27/細菌兵器を阻止せよ!」と良く似ている。シルミド事件がはじめて明るみに出たのが1993年で、特命作戦が1994年制作なの で、この事件を参考にしてるのかな。死刑囚が訓練されて北朝鮮に潜入する点や、訓練中崖から落ちて兵士が死ぬ点など共通点があるのだ。

(2004/06/18 2005.1.21加筆))

興奮度★★★★
沈痛度★★★★
爽快度★★
感涙度★★


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