戦争映画の一方的評論
 
「スパイ・ゾルゲ 評価★ 日本に巣食った共産主義スパイゾルゲ
SPY SORGE
2003 東宝 監督:篠田正浩
出演:イアン・グレン、本木雅弘ほか  
182分 カラー

 
 第二次世界大戦前夜から戦中まで、日本を震撼させたソ連の大物スパイ、リヒャルト・ゾルゲが題材。ゾルゲ(グレン)は、ドイツ人の父、ロシア人の母を持 ち、ソビエト共産党員として赤軍第4部の軍事諜報部員(スパイ)として上海、日本に駐在した。表向きは新聞記者であり、日本ではドイツナチ党員にもなりす まし、在日ドイツ大使館勤務の職を得ている。また、異常なほどの色情魔だとも言われ、多くの女性と関係を持っている。
 このゾルゲスパイ網には、アメリカ人女性記者アグネス・スメドレーの紹介で朝日新聞記者尾崎秀美(本木)が深く関わっている。共産主義に深く傾倒した尾 崎は、ゾルゲに日本軍の情報を提供する一方、時の首相近衛のブレーンにもなり、機密情報の入手のみならず、政府転覆の工作にも手を染めている。
 本作は、ゾルゲと尾崎の行動を中心に描いており、登場人物、歴史事象についてはかなり史実に沿って製作されていると言える。しかし、3時間もの長編にし ては、人物描写、事件描写が今ひとつ明瞭ではなく、かなり冗長な出来となっている。加えて、ゾルゲと、尾崎が好人物に描かれているため、実態のドロドロと したスパイ活動の汚さというものが全く表れていない。グレンと本木ではいい男すぎるだろう。
 例えば、ゾルゲは節操なく女性を関係を持ち、巨漢女のアグネスとも関係を持ったと言われ、諜報のため には手段を選ばない姿があるのだが、映画中でのアグネスは細身の美女となっている。これでは、節操のなさ、手段を選ばない姿が台無しだ。尾崎にしても、共 産主義に傾倒する美しい理想のみ描いているが(これをモックンが演じるからなおさらだが)、共産主義(暴力)革命のためなら、人民の血など厭わないという 独善性が出ていない。そういった意味で、この映画でスパイゾルゲの何を描こうとしているのか、意図が見えてこない。ゾルゲや、尾崎を美しく描いて、賛美で も しようというのだろうか。そうでないのならば、もうちょっと汚い部分を描かなくては史実に引き込まれることはないのだ。篠田監督最後の大作と言われるだけ の所以がわからない。
 その不可解さは、エンディングに表れた。ジョン・レノンの「国家なんてない。そうなれば宗教の争いもない」的な歌詞が流れるのだ。宗 教の争いがなくなるわけもないのだが、ははーん、こういう甘ったれた平和観を示したかったのだとわかった。共産主義スパイゾルゲの美しき活動にも関わら ず、世界は平和にならなかったとでも言いたいのであろう。だからこそ、この映画にリアル感が欠けていたのだ。

 演技力という点では、モックンの個性ばかりが目について、他の役者の大根演技は目に余る。こんなにひどい映画も久しぶりだ。その大根演技がぶつ切りの場 面構成で編集されているものだから、ストーリーにインパクトがない。はっきり言って30分程度の内容だ。無駄にダラダラとシーンをつなげて、3時間も見る のが本当につらかった。
 映像面では、モスクワや上海の映像にCGを用いているが、かなり劣悪。思いっきりCGとわかるし、CGならではの臨場感すらない。そんな程度なら入れな い方がマシだ。
 映画館に見に行こうと思って行けなかった映画だが、見に行かなくて正解。DVDも買わなくて正解であった。

興奮度★
沈痛度★
爽快度★
感涙度★


(以下あらすじ ネタバレ注意)

 昭和一桁。ソ連の大物スパイ、リヒャルト・ゾルゲ(グレン)は、ドイツ人の父、ロシア人の母を持 ち、ソビエト共産党員として赤軍第4部の軍事諜報部員(スパイ)として上海に駐在していた。第一次世界大戦にはドイツ兵として参戦し、負傷して勲章を授与 されている。
 同じく上海に派遣されていた大阪朝日新聞社の尾崎秀美は、ゾルゲの情婦でもあるアメリカ人ジャーナリスト、アグネス・スメドレーの紹介でゾルゲと接触す る。ゾルゲの共産主義思想に共鳴した尾崎は、ゾルゲに日本軍の情報を提供し始める。
 尾崎は程なく日本本社に戻る。ゾルゲもまた、ソ連に戻るが、赤軍第4部の命令で妻を残して日本に潜入することになる。最初は新聞記者としてだったが、次 第にドイツ大使館のオイゲン大佐と懇意になり、ついにはナチ党員となって大使館勤務を許される。オイゲン大佐の妻と情事を繰り返しながら、ドイツ軍と日本 軍の情報を仕入れてソ連に流すのだった。
 日本軍側の情報は、尾崎と共産主義者宮城与徳が提供するが、尾崎は旧友のつてで、時の首相近衛のブレーン(内閣嘱託)になる。尾崎は軍部の機密情報をい とも簡単に手に入れる事が出来るとともに、日本政府の転覆工作にも手をかけていく。
 昭和11年2.26事件が起こる。陸軍急進派将校が起こしたクーデターであるが、その思想背景は共産主義の暴力革命と酷似していた。その動向を見つめて いた尾崎らだが、程なく鎮圧される。
 ソ連では、スターリンの臆病さから来る、過剰な疑心暗鬼が強さを増してきていた。赤軍第4部はNKVDに改編され、幹部は皆粛正された。モスクワからの 資 金援助がなくなったゾルゲらは、それでも独自に諜報活動を行う。通信員のヴェキは日本人淑子と結婚する。
 一方、尾崎は満鉄調査部に転属していた。ここは日本軍(関東軍)の動向を知る上での中枢であった。
 1939年、ゾルゲはドイツ大使館のマイジンガー極東部長から、ドイツ軍の対ソ電撃開戦の情報を得る。すぐさま、モスクワに打電するがモスクワのスター リンは信用しなかった。
 そして、ついに日本の特高警察により、ゾルゲ、尾崎、宮城が逮捕される。昭和19年11月に尾崎は処刑。ゾルゲも密かに処刑された。

 真面目にあらすじ書く気しないので、適当ですんませんな。この映画あらすじも、とっても書きにくい映画なのよね。

(2005/04/22)

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