戦争映画の一方的評論
 
「ロング・エンゲージメント 評価★★★★☆ 塹壕線に置き去りにされた恋人を探し続ける
A VERY LONG ENGAGEMENT
2004 アメリカ(フランス) 監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:
オドレイ・トトゥ、ギャスパー・ウリエル、ティッキー・オルガド ほか  
134分 カラー

 
  第一次世界大戦で、ドイツ軍との塹壕線の中間点に置き去りにされた恋人を、決して諦めることなく探し続けるフランス女の姿を描いた映画。資金の一部をワー ナーブラザーズが提供していることからアメリカ国籍の映画となっているが、監督、出演者ともにフランス人である。「アメリ」で成功を収めたジュネ監督は、 アメリカ的なテンポの良さと明快さを持ち合わせつつ、やはりフランス映画独特の叙情的な映像美を追求したものとなっている。壮大なスケールの映像美と抽象 的な人物描写が見事にマッチングしている。
 映画の種類としては、ミステリーと言うべきものであるが、リアリティに富んだ戦場シーンあり、ラブロマンスありと盛りだくさんの構成でありながら実にう まくマッチしている。ミステリー5割、戦争2割、ラブロマンス2割、ヒューマンドラマ1割と言った感じだろうか。自分はミステリー系映画の免疫がほとんど ないため、かなりのインパクトを受けて引き込まれ、上映時間が良い意味で異様に長く感じられた。
 主演のオドレイはいわゆる癒し系の女性で、願掛けに熱するなど引きこもりがちながらも芯の強い役柄をきっちりこなしている。他の役者も、さすがフランス 映画だけあり、人物重視で実に個性的だ。個人的には郵便配達役、主人公の伯母役、探偵役の3人の存在が印象に残った。ここまで各々の個性が、的確にストー リー(謎解き)に反映されていくのは、見ていて小気味いい。

 映像は終始セピア色がかっている。第一次大戦というはるか過去の話だと思わせる効果、フラッシュバックやリピートを多用するのに効果的だという印象を もった。リアルカラーでは出せない、時間という概念を感じさせている。また、戦場シーンでは視野の広い広角な映像が印象的だ。CGも用いているであろう が、スケールの大きさを感じる。最も印象的だったのは冒頭の塹壕シーンだ。第一次大戦の塹壕を描いた映画はいくつもあるが、雨水が溜まったドロドロの塹壕 映像は、これまでにない塹壕の悲惨さを浮き彫りにしている。一方、自然や建物の風景シーンは、一転して鳥瞰映像を多用するなど実に美しいものがある。
 戦争シーンは近年の戦争映画と同様に、小銃弾の飛び交うリアルな映像となっている。プライベートライアンやシンレッドライン並の出来映えだ。また、人物 描写を通して、強制的に前線に出なければならない兵卒の苦悩と、塹壕内での狂気と恐怖がリアルに描き出されている。人物描写でここまで恐怖感を描くことが 出来るのは秀作の証拠だ。
 忘れてはならないのが、ベッドシーンだ。さすが、フランス映画だけあって、セックスシーンは実に露骨だ。この映画がなんでR−15指定なのかがようやく わかった。ただし、アメリカ映画のように鳥肌が立つような臭いベッドシーンではなく、自然な肉欲行為(変な表現だが)を淡々と描いているので、さほど気に はならない。
 この映画は邦題「長い日曜日」というミステリー小説を映画化したものである。かなり難解な謎解きでストーリーは展開していくのだが、ミステリー特有で登 場人物が多い。映画冒頭でも登場人物を紹介するカットがあるなど、見る側にやさしい作りとはなっているが、それでも展開をしっかり追うには瞬きすらできな い程である。特に、フランス人の名前は覚えにくいので、あらかじめ登場人物の知識を持っていた方がいいかもしれない(自分はパンフで予習した上で見た)。
 フランス映画とアメリカ映画のいいとこ取りをしたような完成度の高い映画と言えるだろう。

興奮度★★
沈痛度★★★★
爽快度★★★★★
感涙度★★★


(以下あらすじ ネタバレ注意)
 
 ミステリーもののあらすじは書きにくい上、これこそはネタバレすると面白くないので、極めて簡単に記します。
 1917年1月6日フランス。ドイツ軍と対峙するフランス軍の最前線塹壕「ビンゴ・クレピュスキュル」に5人の死刑囚兵士が連行されてくる。家具職人の バストーシュ、溶接工のシ・スー、農夫のノートルダム、コルシカ人のアンジェ、マルチドの婚約者で最も若いマネクの5人だ。いずれも戦場から離脱したいが ために、自傷した罪で軍法会議で死刑を宣告されたのだ。5人は死刑の代わりに、銃弾と砲弾の飛び交うドイツ軍との中間点に置き去りにされた。
 3年後、マルチドは婚約者マネクが死んでいないと直感していた。そこに、「ビンゴ」でマネクと会ったというエスペランザ元伍長から手紙が来る。彼ら5人の遺品を持っていたのだ。エスペランザはマネクの死を見ていないという。
 遺品を託されたマルチドは、小児麻痺で不具合となった足をひきづりながらマネクの捜索を始まる。パリの名探偵ジェルマン・ピールを雇い、マルチドの後見人でもある弁護士も活用し、次第に「ビンゴ」関係者との接触を図っていく。その結果、
バストーシュが履いていたドイツ軍の長靴を履いた男が戦後に目撃されるなど、生存に望みが出てくる一方、鍵を握る男、調達屋のセレスタン・プーの証言でその望みも絶たれてしまう。謎解きは一進一退を繰り返す。ついにマネクの墓が発見される。すっかり意気消沈するマルチダであった。
 そんな中、新聞にアンジェの恋人だったティナが、将校殺しの罪で死刑宣告を受けたという記事が出る。ティナもまたアンジェの生存を望み、調査を続けていたのだった。その結果、アンジェを見殺しにした将校たちに復讐をしていたのだった。
 ティナから新たな話を聞き、再び謎解きが始まる。セレスタン・プーがヒントをくれた暗号手紙の解読を始めたマルチドは、ついにノートルダムが生きていることを突き止める。
 果たして、マネクは生きているのか・・・・・

(2005/03/18)

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