戦争映画の一方的評論
 
「ブラザーフッド 評価★★★☆ スケール感絶大の兄弟悲話 
BROTHERHOOD(大極旗を翻して)
2004 韓国 監督:カン・ジェギュ
出演:チャン・ドンゴン、ウオンビン、イ・ウンジュほか  
148分 カラー

 韓国映画やドラマがブームになっているが、この作品も観客動員数1200万人を突破したという韓国の映画史を塗り替える作品となっている。朝鮮戦争を舞台 に、家族愛、兄弟愛を描いたヒューマンスペクタルドラマという位置づけ。韓国では多くの観客が涙したという。

 (以下ネタバレ注意)
 1950年のソウル。靴磨きの兄のジンテと高校生のジンソクは、母や兄の婚約やヨンシンらと貧しいが平和な生活を送っている。しかし、6月25日に北朝鮮 軍が38度線を突破して侵略を始めると、平和な日々はもろくも崩れていく。ほとんどまともな武器もなく、訓練もされていない韓国軍はあっという間に突破さ れ、ソウルはもとより韓国南端の釜山方面のテグまで後退を余儀なくされていた。兄弟もテグまで避難していたが、そこで二人とも軍に強制徴兵されてしまう。 二人は一等兵として洛東江の防御戦に投入される。次々に北朝鮮軍に撃破される中、ジンテはジンソクだけは無事に母の元に返したいと願っていた。その唯一の 方法が大極武功勲章を授与された見返りとして弟の除隊を願い出ることだった。それ以後、兄のジンテは自ら危険な任務に飛び込んでいくのだった。徐々に殺人 を厭わなくなり冷徹になっていく兄ジンテをジンソクは悲しい思いで見ていた。
戦線は米軍の仁川上陸もあり、国連軍側の圧勝が続き、ソウル奪還に続き、10月には北朝鮮の首都平壌にまで進軍した。軍曹に昇進していたジンテは、平壌の 戦いで更に武勲をあげるべく、敵の大佐を生け捕りにするために無謀な作戦に出る。そのために、親友のヨンマンが戦死する。さらに、鴨緑江、恵山鎮へ進軍し たところでジンソクらはかつてのソウルでの友人ヨンソクに出会う。ヨンソクは一度占領されたソウル市内で、北朝鮮軍に無理矢理義勇兵として徴兵されていた のだ。ジンテは敵だとして冷たく殺害を命令する。ジンソクはもはや血も涙もないジンテの行動に嫌気がさしていた。
そんな中、ついにジンテに大極武功勲章が授与されることとなった。ジンテはジンソクに除隊できることを知らせた。しかし、ジンソクは受け入れなかった。弟 のために命を張った兄と、人間性を失ってしまった兄への軽蔑。兄弟のすれ違いが生じる。
11月、それまで参戦を見合わせていた中国軍が北から攻め込んできた。退却する韓国軍。退却中にソウルに寄った兄弟は「アカ」として処刑されそうになって いるジンテの婚約者ヨンシンに遭遇する。二人は必至に助けようとするが、一瞬ジンテが躊躇したためにヨンシンは殺されてしまう。ジンソクはさらに兄を恨 む。追い打ちをかけるように、「アカ」の容疑をかけられたジンソクが収容された倉庫に韓国軍大隊長の命令で火が付けられる。韓国軍によってジンソクやヨン シンが殺されたと思ったジンテは大隊長を殺害し、北朝鮮軍の少佐に姿を変えて登場する・・・・

 1951年6月から1953年7月までの朝鮮戦争のうち、前半部分を題材にしている。久しぶりに歴史的な背景もある程度しっかりとした韓国映画といえる。 とにかく、すごいのはスケールが大きいこと。エキストラの動員数もすごいが、爆薬使用量もすさまじい。プ ライベートライアンバ ンドオブブラザーズにも使 用された土埃などのリアルな映像は迫力満点。途中、死体や砲弾に吹き飛ばされる人間のシーンなどはかなりエグイ。また、ほとんど戦車もないために戦闘シー ンの多くが白兵戦シーンとなる。しつこいくらいの白兵戦は見る者を極度の緊張感に引き込む。ちょっとしつこすぎて、誰が誰だかわからなくなってしまうのは 困りものだが。登場する武器はもともと少ないのだが、平壌攻略当たりでM4シャーマン戦車が出てくる。また、空からの爆撃シーンでは米軍のコルセアが登場 するが、いかにもCGぽくて、機銃掃射シーンもかなりお粗末なのが目立った。

 兄弟愛をウリにしている割には、同じ韓国映画「シ ルミド」同様に涙する場面がなかった。確かに、一途な兄弟愛と誤解と和解など様々なヒューマンドラマ的な要素が入って いるのだが、泣けません。シルミドの時も思ったのだけれども、韓国人(映画)って、個性が強過ぎませんか。いつも怒っているか、悲しんでいるかのどちらか で感情がストレート(露わ)に出過ぎていて、心の中の描写というものがほとんど効果的に用いられていないような気がする。そのために、段階的にジワジワと いう盛り上がり効果もないし、あーそういうことだったのねという意外性もないのだ。血の濃さに重きを置くとされる韓国人の感動とはやはり感性が異なると言 うことなのだろうか。余談だが、相変わらず、韓国映画は美男美女を起用する。ヒューマンものは顔の良いのを使うと効果が半減するんだがなあ。ジンテ役はト キオの山口みたいだし、ジンソク役は木村一也似。ヨンシンも松たか子似の美人です。

 この映画で困ったものだと思うのは、なんだか朝鮮戦争を韓国軍だけで戦ったような印象を与えること。初期のソウル陥落から大邸(テグ)への敗走を遅滞行動 で遅らせて時間稼ぎしたのは米軍の第24歩兵師団だし、洛東江防御陣の半分以上は米軍主体の国連軍で、しかもソウル奪還のメインとなった仁川上陸作戦は米 軍のものだ。映画中、ほとんど米軍の姿は出てこないし、韓国軍が強かったという印象を与えかねない。そういう意味では「ファ イナル・バッジ 史上最大の作戦」の方は、対戦車砲もない悲惨な韓国軍の悲壮感を良く表していて良作だった。

 ついでにもう一つ。世界を狙う映画だそうだが、脚本が今ひとつ練られてないんじゃないかな。せっかくのスケールと爆薬量を生かすには、ストーリーのつなが りを重視すべきだし、盛り上がるべきポイントを設けた方がいいのでは。約半年から1年の出来事を描いているが、移動の距離感と経年感を感じにくい。また、 冒頭にジンテの遺骨を探す老後のジンソクの姿から入るフラッシュバックを用いているにもかかわらず、フラッシュバックすべきシーンが結構お粗末で、感動を 逃してしまっている。それ以前のシーンをカットしてでも厚みを持たせた方がよかったのでは。

内容的には★三つだが、スケール感と爆薬量に免じて★半分追加。

(2004/07/11)

興奮度★★★★★
沈痛度★★★★
爽快度★
感涙度★

 
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