戦争映画の一方的評論
 
「PQ-17 -対Uボート海戦- I II III VI 評価★★★☆ 援ソ護送船団のはかない運命
CONVOY PQ-17
2004 ロシア 監督:アレクサンドル・コット
出演:
アレクセイ・デヴォチェンコ、セルゲイ・ツェポフほか  
1話 各52分 全8話  カラー

 
  ロシアのテレビ ドラマシリーズ。DVD1枚につき2話収録されており、IからIVまで出ている。PQ−17とは、第17次援ソビエト輸送船団のことで、ドイツ軍の攻勢に あえぐソ連に対し、英国、米国による兵器物資輸送作戦のことである。北極海はドイツ軍Uボート及び戦艦群の支配下にあり、輸送船団は大きな打撃を受けてい た。これに対し、イギリス海軍、ソビエト海軍は護衛船団を組織して護衛した。本作の第17次輸送は、航空機・装甲車などの多量の兵器を輸送したが、イギリ スのある作戦失敗から34隻の輸送船のうち、11隻しかソビエトに到着しなかったとされる。これが、史実に基づくものなのかどうかは不明だが、少なくとも 何らかの史実に基づいたものではあろう。
 本作は、これまでのロシア映画に特徴的な、「芸術的記録映画」の系譜を踏みつつ、近年のアクション特撮・CGを用いた典型的な作品となっている。さら に、ロシア映画特有の、ヒューマンドラマを主題とした複数シチュエーションの同時進行という、やや難解な手法も用いている。従って、叙情的な映像観を盛り 込む中、登場人物が異様に多く、冗長でわかりにくいストーリー展開であることは否めない。
 登場するシチュエーションは、おおまかに言うと、ドイツ軍潜水艦、ソ連軍潜水艦K-21、徴用漁船の哨戒艇、アメリカ輸送船リバティ号、ソ連輸送船ウラ ル号、そして作戦司令部となる。少量の記録フィルムを用いながら、臨場感を保ち、実際の艦船は輸送船、潜水艦、哨戒艇(漁船)程度。航空機系も大部分が CGとなっている。
ソ連映画にしては登場する実兵器が少ないのが残念。あまり軍隊の協力は得ていない様子だ。
 当然の事ながら、ソビエト的視点で描かれてはいるのだが、スターリンマンセー的でもなく、ソビエトの弱い点はきちんとさらけ出している。また、登場する 各国の人物がそれぞれの母国語で話しているのはなかなか良い。ヒューマンドラマタッチなので、歴史的史実という評価はさほどでもないが、全体としては良く できている映画と言えよう。なお、登場する人々は実に個性的だ。アメリカ映画のように美男美女ではなく、若い女性はモンゴル系(芳本美代子似)だし、アメ リカ人船員はゴリラのようなのが、ある意味自然でリアルに感じる。オープニング映像が格好いい。


興奮度★★★
沈痛度★★★★
爽快度★★★
感涙度★★


(以下ネタバレ注意)
 
(第1話)
 1942年ムルマンスク港。ソ連軍水兵サーシャは足を怪我して病院に入院していた。サーシャは勇名を馳せるルーニン艦長の潜水艦K-21の乗組員だ。 サーシャの彼女はカーチャといい、カーチャもまた輸送船団の任務に志願する。また、カーチャの父親ラザレフは元は漁船乗りだが、今は徴用されて哨戒艇の艇 長となっている。
 ドイツ軍は次第にソ連内部に進入し、海上ではUボートがロシア輸送船を撃沈し、陸上にはドイツ空軍の空爆がひどくなってきた。ドイツ潜水艦のラルフ艦長 は、冷酷に輸送船を撃沈するが、中立国(ポルトガル)船を撃沈してしまう。浮遊する乗組員を艦長は浮上して殺害命令を下すが、操舵手はこれを拒む。
(第2話)
 ドイツ軍潜水艦操舵手は、反抗罪でゲシュタポに拷問を受ける。
 ソ連とイギリスは裏取引により、イギリスの支援の代わりに、隠密に金塊をソ連からイギリスに輸送することになる。ムルマンスク港の女性らは内容を知らさ れぬまま、金塊の積み込みに徴用される。しかし、少年の母親フローシャは、積み荷を落としてしまい、ソ連秘密警察(NKVD)に始末されてしまう。その金 塊を積んだイギリス軍艦は、ドイツ軍によって撃破、撃沈されてしまう。
 ソ連潜水艦K-21が帰港する。その際に、敵潜水艦と勘違いしたラザレフの哨戒艇が爆雷攻撃してしまう。運良く、撃沈は免れ、ラザレフは軍部に怒られるものの、その勇敢さは称えられる。
(第3話)
 ドイツ軍の包囲によりソ連が苦しんでいるのを、一部のアメリカ人は見捨てることができなかった。ヒトラーを憎むアメリカ人船員もまた、援ソ輸送船団に参 加するために、アイスランドに集結した。いよいよ、PQー17が組織され、35隻の輸送船により、297機の航空機と数千台の装甲車等が搭載された。この PQ−17のアメリカ国籍船リバティ号にはアメリカ人船員、ソ連船ウラル号にはカーチャが乗っていた。護衛にはイギリス海軍の駆逐艦等20隻がついた。
 このPQ−17出航の情報をドイツ軍はキャッチし、壊滅させるためにレーダー提督は戦艦ティルピッツを出撃させたいと考える。しかし、虎の子のティル ピッツにもしもの事があると、ドイツ軍の威信に関わるため、慎重論が強く、かわりに寄港地であるムルマンスクの空爆に力を入れる。
(第4話)
 秘密警察に殺害されたフローシャの息子は、母親を捜すが見つからない。この一件の裏を薄々感じたラザレフは息子を自分の哨戒艇の船員にしてやる。
 PQ−17は出航し、イギリス海軍と航空団の護衛を受けて進む。しかし、イギリス船が座礁し、SOS信号を出し、ドイツ軍に位置がばれる。しかも、ノル ウェー沖はイギリス潜水艦のテリトリーだが、非協力的であった。ドイツ軍はHe-111爆撃機や沿岸の魚雷艇をもって輸送船団に襲撃をかける。相当数の輸 送船に被害が出た。
 このころ、イギリス情報部はドイツの戦艦ティルピッツがアルテンフィヨルドにいることを確認する。PQ−17船団とは12時間の距離だ。
(第5話)
 イギリス海軍のダドリー提督は、イギリス護衛艦隊のブルーム司令官に、西へ反転するよう命令する。輸送船団と護衛艦隊を切り離すのだ。丸裸となる船団は 分散して進むこととなるが、このままではドイツ軍の餌食になることは誰の目にも明らかだった。ブルーム司令官以下は、命令の意図に反対であったが、命令の ためやむなく全駆逐艦を全速で離脱させた。ダドリー提督は、陽動作戦でドイツ戦艦ティルピッツをおびき出し、待ちかまえたトーヴェイ提督の艦隊で叩きつぶ すつもりだったのだ。
 ドイツのシュニビット提督は「騎士作戦」を発動し、戦艦ティルピッツをPQ−17撃破のため出動させる。そこに、ソ連潜水艦K-21が出くわし、4発の 魚雷をティルピッツに向けて発射。撃沈には至らなかったが甚大な損傷を与える。ドイツのレーダー提督は、事実を伏せようとするが、タス通信の報道によりバ レる。K-21のルーニン艦長は意気揚々と凱旋するのだった。
(第6話)
 しかし、護衛艦隊のいないPQ−17は次々と、ドイツUボート、航空機の餌食となっていく。すでに18隻が撃沈された。アメリカ輸送船「リバティ号」も Uボートの雷撃を受ける。リバティ号の船長らはあわててボートで逃げ出すが、浮上したラルフ艦長は皆殺しにする。アメリカ人船員は船に残ってななんとかし ようとするが、ついに沈没。残った5人で漂流を始める。
 モスクワでは、イギリス海軍の意図をつかめずに、PQ−17が大損害を受けていることに疑念を生じ始める。PQ−17Qを少しでも救おうと、ベリエス MBR-2飛行艇が偵察に出動する。沿岸で座礁したイギリス輸送船を発見するが無人だった。輸送任務に嫌気がさした船長らは陸にあがっていたのだった。
(第7話)
 負傷者を乗せて飛行艇は帰っていった。一方、漂流中のアメリカ人船員らは再びラルフ艦長の潜水艦に出会う。しかし、乗船させてもらえずに、漂流を続け る。ようやく、陸地を発見したアメリカ人船員らは上陸し、あのイギリス船の船員らを発見する。しかし、燃料アルコールを飲んだ彼らは皆凍死してしまった。 さらに、陸地に上陸してきたラルフ艦長らによって一人が殺害され、アメリカ人船員らは3人だけが残された。
 そこに、カーチャの乗るウラル号が通りかかった。
(第8話)
 ウラル号に助けられたアメリカ人船員らは、ドイツ空軍の攻撃にさらされ、さらにラルフ艦長のドイツ軍潜水艦の砲撃にさらされながらも、積み荷の装甲車砲でなんとか撃退してムルマンスク港に着くことができる。
 一方、ラルフ艦長のドイツ軍潜水艦は、一隻の漁船を発見する。それはラザレフの哨戒艇だった。巧妙なラザレフの爆雷攻撃に合い、やむなく浮上した潜水艦 の砲撃でラザレフらは死亡する。唯一残った少年がドイツ潜水艦に向かって哨戒艇を操船し、体当たり攻撃を果たすのであった。

(2005/05/01)

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