戦争映画の一方的評論
 
「ホテル・ルワンダ 評価★★★★☆ ルワンダ内戦から避難民を守ったホテルマン
HOTEL RWANDA
2004 南アフリカ、イギリス イタリア 監督:テリー・ジョージ
出演者:ドン・チールド、ソフィー・オコネドー、ホアキン・フェニックス、ジャン・レノほか
122分 カラー

 
 アカデミー賞にもノミネートされながら、日本ではメジャー級公開されていない異色作品。1994年にアフリカのルワンダという小国で起きた、3ヶ月で 100万人が殺されるというフツ族のツチ族大量虐殺を題材にし、ベルギー系ホテルの支配人であったルワンダ人がホテルに避難してきた避難民と自分の家族約 1,200名を、あの手この手で虐殺から守り抜くという実話である。
 そもそも、ルワンダは第一次大戦前からドイツを宗主国とする植民地であり、一次大戦でのドイツ敗戦によってベルギーに譲渡された経緯がある。ツチ族、フ ツ族は顔立ち、宗教、生活どれをとっても相違点はないとされるが、ベルギーの植民地政策によって少数派ツチ族を官吏に登用し、IDカードに部族名明記させ ることで差別化を図るようになる。その結果、ツチ族とフツ族の間には憎しみが増し、ベルギーからの独立にあたってベルギーやフランスがフツ族支援に回った ためにフツ族が支配層に変わる。フツ族支配のもと、ツチ族はルワンダ愛国戦線を結成し内戦に至るが、大虐殺勃発直前には停戦協定が結ばれていたところだっ たのだ。

 本作は戦争を題材にしつつも、ヒューマンドラマ中心の感動型映画となっている。戦争映画好きとしては、もっと民族抗争の背景を描くべきだとか、もっと虐 殺シーンをリアルにとか、戦闘シーンを多くなどと感じるのではと事前に想像していたが、意外にも戦争映画であることを忘れて思い切りヒューマンドラマの中 に引きずり込まれてしまった。特に本作は、映像も分かり易いカットであるうえに、音響、編集(カット割り)ともに実に小気味よく、効果的で、最後まで吸い 込まれるように見入った。常に適度な緊迫感があり、虐殺のリアルシーンはほとんどないにも関わらず、雰囲気として悲惨な虐殺状況を感じ取る事が出来るのは 素晴らしい。とにかく、無駄なシーンがない。起こった事実の衝撃度は大きいが、意外にも見終わったあとに爽快感と感動が残るのが特徴である。
 役者では、主人公のルワンダ人支配人役ドン・チールドの演技がいい。ごく普通の男が最初は自分の家族を守るため、次第に避難民を守るために心を動かされ ていき、幾度もの窮地を機転と人脈によって切り抜けていく姿は、爽快でもあり、ごく身近な人間に思えてくる。この他、国連軍オリバー大佐役(ニック・ノル ティ)、報道カメラマン(ホアキン・フェニックス)、ベルギー系ホテルのオーナー(ジャン・レノ)など脇役もまた、心温まる名演技だ。ルワンダのために何 もすることが出来ずに苦悩しつつ、時折放つ一言一言に感動する。私自身は4,5回ほど涙腺が緩くなるシーンがあった。それゆえ、本作には名言が多い。カメ ラマンの「この虐殺が映った映像を全世界に流したとしても、世界の人々は「怖いね」と言ってディナー を続けるだろう」というのは予告編やチラシにも取り上げられているが、本作の主題でもある。
 ただ、唯一難点を言えば、オリバー大佐、報道カメラマン、ホテルオーナーなどが正義漢で格好良すぎる点。あまりにその言動(名言)が格好良すぎるがゆえ に、逆にリアル感を阻害しているのだ。ちょっと良いところばかり強調してるな、という気にさせる。また、悪者は虐殺主役のフツ族民兵と国軍のように描かれ ているが、もう一方でルワンダを利用するために、こうした体制を作り上げたベルギー、フランスという国家や、利用しておきながら最終的にそれを見捨てた白 人連中の罪の重さももっと描かれてしかるべきところであろう。 

 国連平和維持軍のオリバー大佐役は特定のモデルがいるわけではないらしい。複数のカナダ軍将校の複合像ということだが、他の内戦に関与する国連軍と同様 に、軍事介入への制限など難しい立場を良く表現してある。確かに、宗教問題を主とする内戦に国連としてまたは民主主義国家として関与する事の難しさは、米 軍のイラク攻撃、ボスニア紛争などでも十分理解されている ところだが、特に人道問題として、日本の伝統的手法のように喧嘩両成敗とは一筋縄に行かないところに難しさがある。アクションを起こす事は、結果として必 ず誰かの利益と直結するものであり、真に公平性を保つのならば傍観せざるを得ないということも理解できる。たとえ、武力で介入して虐殺を一時止めたとして も、両者の禍根は決して消えることはない。そんな中、オリバー大佐の取った行動が如何様な ものであったかは必見に値する。
 一方、元宗主国のベルギーをはじめとするフランス、イタリア軍などヨーロッパ系軍の無関心さと身勝手さも多少は描かれてはいるが、今ひとつその立場がわ かりにくい。特に、国連活動に発言力を持つアメリカの及び腰、虐殺側のフツ族についたフランス軍などの背景はほとんど出てこないのが残念。
 登場する武装集団としては、反乱軍側(ツチ族)のルワンダ愛国戦線(RPF)、ルワンダ国軍(フツ族)、フツ族民兵グループインテラハムェがある。実際 にはどうであったか不明だが、映像ではそれぞれが独自のカラーリングの軍装になっているので画面上で判別しやすいのがいい。なお、国軍にはフランス軍から の軍事物資供与がなされているが、その辺は映像的にはあまりわからない。また、フツ族民兵が持つ武器にナタがあるが、これは中国からの輸入品である点も興 味深い。こんなところにも中国製品が暗躍しているのだ。

 全体として、実話を元にしてはいるが、ドキュメンタリーほどの正確さはないようだ。大量虐殺をことさらに糾弾するものでもなく、ヒーローものと言うには たった1,200名の命を救っただけの話である。本作は、むしろ大量虐殺に向かう群衆の心理と、極限の状態でどのような選択をとるだろうか、という自分自 身をその場に置きかえてみるべき作品なのだろう。生か死かという目の前に突きつけられた選択肢の緊張と、生にありついたときの安堵感とありがたみを十分に 味わっていただきたい。若干物語調の傾向が強いが、ルワンダの悲劇を知ることは残酷な惨劇に散ったルワンダ人へのレクイエムになるに違いない。
 

興奮度★★★★★
沈痛度★
★★★
爽快度★★★★
感涙度★★★★☆

(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 ルワンダの首都キガリにあるベルギー系4つ星ビジネスホテル「ミル・コリン」の支配人、エリートのルワンダ人(フツ族)ポール・ルセサバギナは、ホテル 客の外国人や国連平和維持軍オリバー大佐、ルワンダ国軍ビジムング将軍に人脈を駆使して入手した葉巻や洋酒を振る舞っていた。ルワンダはツチ族とフツ族の 抗争が起こっており、来るべき日にむけて彼なりの自衛策だったのだ。しかし、そうした高級品の入手先はフツ族至上主義、フツ族民兵組織インテラハムェの リーダーであり、ツチ族大虐殺プロパガンダ放送局RTLMの首謀者でもあった。インテラハムェはツチ族根絶のため、ツチ族とフツ族穏健派のリストを作成し ていた。
 1994年フツ族大統領ハビャリマナはツチ族のルワンダ愛国戦線との停戦協定を締結する。しかし4月6日、ポールの義兄夫婦(ツチ族)が尋ねてきて、フ ツ族がツチ族攻撃を始めようとしているとの情報があるので保護して欲しいと言う。ポールは、そんなことはないだろうと家に帰すが、その晩ハビャリマナ大統 領の飛行機が撃墜され、それがツチ族の仕業と流布されてフツ族民兵組織、国軍の大虐殺が始まっていく。
 ポールの家には近所のツチ族が集まっていた。ポールが外資系ホテルの支配人ということで頼ってきていたのだ。しかし、ツチ族の妻タチアナと子供達のこと だけしか考えられないポールは困惑する。外ではツチ族への虐殺が始まっており、ついにポールの家にも国軍がやってくる。責任者の軍曹はすでに閉鎖された ディプロマト・ホテルを宿舎に使うため鍵を要求したのだが、家の中に隠れていた人々を発見する。ポールは、フツ族と偽って一緒に連れて行くが、IDカード を検閲されてツチ族とばれてしまう。妻子もろともに殺害される危機にポールは現金を渡して買収する。はじめは妻子だけであったが、その場に集められたツチ 族を見てポールは全員の分を支払う。
 ミル・コリンには次第にツチ族の避難民が集まってくるようになる。各地で虐殺が起こっていたが、外資系ホテルであり、国連軍兵士が警備についているため インテラハムェも手出しはできなかった。報道カメラマンのダグリッシュは虐殺現場の映像を撮り、国際社会に流すが「この虐殺が映った映像を全世界に流したとしても、世界の人々は「怖いね」と言ってディナーを続けるだろう」 という言葉通り、国際社会は動かなかった。国連軍のオリバー大佐は国連に軍事介入の要請を出すが、なかなか聞き入れられない。そこに、フランス軍、イタリ ア軍兵士がやってくる。大佐もポールらもこれで助かったと大歓迎するが、実は外国人の国外退去させるためにきただけであり、さらに国連軍の人員も9割削減 されることとなる。国際社会の冷たさに、オリバー大佐は自嘲ぎみにルワンダ人は見捨てられた事をポールに伝える。
 もはや外国の助けが得られなくなり、外国人が去ったホテルに国軍兵がやってくる。ツチ族を連れ去ろうとする窮地に、ポールはホテルのオーナーに電話をか ける。オーナーは4つ星ホテルの尊厳を守りたいと言うポールを助けるべく、各地に手を回す。その甲斐あって国軍に軍事供与していたフランスからの一声で、 国軍は退去していく。難は逃れたが、これでポールもツチ族を助けたこととなり敵対視されるようになっていく。また、ポールは赤十字の職員に義兄夫婦と子供 の捜索を頼み、子供達の消息はつかめたものの連れてくることができなかった。
 ポールは国軍のビジムング将軍にアメリカが軍事衛星で監視しているというハッタリや現金や酒を渡して協力を取り付け、ホテルの警備を頼むが、資金が底を つきはじめると次第に国軍の協力も得られなくなっていく。ポールは食料調達のためにインテラハムェのリーダーのもとに行くが、そこはツチ族の惨殺死体や売 春を強要される女たちの姿があった。ポールはリーダーからホテルのツチ族を引き渡せば、ポールの妻だけは助けてやると言われるが断る。もはや、家族の命だ けでなくホテルの皆の命を救うことが使命になっていたのだ。ポールは、妻にホテルに民兵がやってきた際には屋上から飛び降りてくれと約束させる。惨殺やレ イプの憂き目にはあわせたくなかったのだ。
 ホテルの難民らは海外の知人に電話をかけて救いの手の嘆願をしていたが、その功が奏して一部の人に渡航ビザが降りる。ポール一家にもベルギーへのビザが 降り、ポールらは国連平和維持軍の車両に乗車する。しかし、直前でポールだけはホテルに残った難民や従業員を見捨てられないとして残る。ところが、従業員 でフツ族至上主義のルタガンダの密告で民兵が車両の移動を阻止し、彼らは再びホテルに戻らざるを得なかった。水道も止められ、いよいよホテルの食料も尽き ようとしている。
 ホテルの難民は1,200人にも及んでいたが、戦局は次第にツチ族のルワンダ愛国戦線が有利になってくる。オリバー大佐の仲介でルワンダ愛国戦線と国軍 側で捕虜と避難民の交換が提案される。その実施までの間にホテルの警備をお願いするために、ポールはビジムング将軍に最後の付け届けをする。しかし、その 間にホテルには民兵インテラハムェが乱入していた。ポールはビジムング将軍にホテルからインテラハムェを追い出すよう要請するが聞き入れてくれない。仕方 なく、ポールは将軍にこのままでは虐殺戦犯の罪を被せられると脅し、無実の証明をできるのは自分だけだと交渉する。その結果、ようやく国軍はホテルの民兵 を制圧する。しかし、妻タチアナと子供達の姿が見えなかった。もしや、もう飛び降りてしまったのではと焦って探すポールだったが、妻子は無事だった。
 ようやく、国連平和維持軍オリバー大佐の先導でホテルの避難民は出発する。途中で歩いて避難するフツ族に遭遇し、フツ族民兵に銃撃するルワンダ愛国戦線 の兵士に出会う。ようやく前線を越えたのだ。
 難民キャンプでは、ポールは義兄の子供と再会できた。ただ、義兄夫婦の消息はわからないままであったが・・・

(2006/02/9)

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