「セプテンバー・テープ」 評価★★★☆ オサマ・ビンラディンを追うジャーナリス
ト
SEPTEMBER TAPES
2004
アメリカ 監督:クリスチャン・ジョンストン
出演者:ジョージ・カリル、ワリ・ラザキ、サニル・サダランガニほか
94分 カラー
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9.11テロ事件の首謀者オサマ・ビンラディンへの取材を敢行するため、危険なアフガニスタンに潜入したドキュメンタリー映画監督が残した8本のテープ
とボイスレコーダーが発見された、というドキュメンタリー風の映像手法を用いたアクションサスペンス。内容はフィクションであり、本物のドキュメンタリー
作品ではない。とはいえ、実際にアフガニスタンで、本物の武装グループや武器商人に取材撮影しただけあって、雰囲気や迫り来る圧迫感は十分感じる。アク
ションとしても、サスペンスドラマとし
ても及第点だし、何よりもドキュメンタリーフィルム風に仕立てた手法は斬新で、フィルムに映されたものだけでストーリーを展開させるのは、見る側にとって
も想像力の幅が広がって楽しい。本作の主役はビデオカメラなのであり、私個人的には結構楽しめた。
テロリスト、アフガニスタン、アルカイダ、オサマ・ビンラディンなどかなり政治色の強い題材を扱ってはいるが、本作か
らはその政治色というものは感じられない。誰が悪者という設定ではなく、最愛の人を奪われた人間が、復讐のために人格を変貌させるという点に焦点がある。
ただ、それもヒューマニズム的な視点ではなく、あくまで娯楽サスペンス的なノリでしかないが。
本作は日本ではかなりの酷評に類しているようだ。何故なのだろうと思っていたが、日本版劇場予告編を見てわかった。日本版予告編では「なお、取材
テープ8本が米政府に押収されたままである。ブッシュよ何を隠している!」というのが売り文句だったのだ。どうも、役者とシナリオは決まっていたが、アフ
ガニスタン現地でのぶっつけ本番撮影したフィルムの一部が、米政府に押収されているということらしい。実際の取材フィルムと演技とが入り交じった映画とい
うことで、押収されたフィルムに何か謎が・・・という点をクローズアップしているのだろうが、この妙なうたい文句により、多くの視聴者は
本作を政治的ドキュメンタリーと誤解してしまったようにも見える。ブッシュが何を隠したのか知りたくなるのも人情というものだが、当然本作ではそんなこと
を描いていないのだから、視聴者の失望は当然至極なのだ。
ところで、不思議なのは、アメリカ版予告編でも本編でも、米政府がテープを押収しただとか、ブッシュよ何を隠しているなんて文言は出てこないのだ。もち
ろん、アメリカの映画評でも「騙された!ドキュメンタリーじゃないじゃないか!」という怒りは見られるが、押収は話題にすらなっていない。たとえ押収され
たことは事実にせよ、要は国家防衛上調査に値する映像があったという趣旨であって、本作の成立上ほとんど関係のない問題なのだと言える(実際、映画公開後
返却されたそうだ)。それを、本作を売るために、時
節柄ブッシュ批判にしておけばウケるだろうと、コンセプトを日本上映業者が勝手にすり替えたものらしい。ある意味、日本の業者の悪癖によって、一気に作品
価値を下げさせられてしまった典型例と言える。
監督が政治的な意図を持っていたのかどうかはさておき、とにかく娯楽作品だと思ってみれば、結構良い出来だ。主人公のジャーナリストにしても、行動が余
りにお馬鹿で軽率なのも、「バッカじゃねーの」と笑い飛ばせば良いし、実際の戦場のお馬鹿ジャーナリストの顛末を再現してくれたようなものだから、ある意
味痛快でもある。
また、何が起こるか分からない現地で、国連関係者と偽って入国し、本物の武器商人や武装グループに突撃インタビューした勇気は評価できるが、それがウリ
の作品とも思えない。監督は確信犯的に偽ドキュメンタリーにしたそうだが、実際どれが本物かわからないような作りでは、真実味もへったくれもないからだ。
この辺りが賛否両論の別れるところなのだろう。
登場する兵器類では、米軍のチヌークと北部同盟が使用する装甲兵員輸送車が出てくる程度で、たいしたことはない。だが、銃器類ではAK−47やRPGが
ふんだんに用いられており、戦闘シーンはそこそこリアル。もちろん、銃弾や爆発シーンはCGだったり別映しだったりもするが、主人公がアルカイダ組織と戦
うシーンでは、ドキュメンタリー風カメラアングルを逸脱してはいるが、迫力満点。
本作は変に政治的、社会的な意識を排除して、単にアクションサスペンスとして見ることをお勧めする。米軍のアルカイダ掃討戦に関する映画がほとん
どない現状で、ミリタリーヲタの視点でみるとなかなか興味深いところが多々あるのだ。なお、撮影はインド内のシーンも多いという説もある。
興奮度★★★★
沈痛度★★★
爽快度★★★
感涙度★