戦争映画の一方的評論
 
捕虜大隊 シュトラフバット」 評価★★★★☆ 懲罰部隊に課せられた必死の運命
SHTRAFBAT
2004 ロシア 監督:ニコライ・ドスタル
出演者:アレクセイ・セレブリャコフ、ユーリ・ステファノフ、アレクサンダー・バシロフほか
TV映画 全11話 535分 カラー


 第二次世界大戦時におけるソビエト軍の懲罰部隊の悲惨な戦闘を描いたテレビムービー。よくぞ、ロシアでここまで内部事情を暴露・批判した内容の映画が作 れたと驚嘆した。全部で11話構成になっているが、一話の完結性は乏しく、全体で一つの映画と思った方がいいだろう。
 懲罰部隊とは、政治犯、刑事犯に加え、軍人で敵(ドイツ軍)の捕虜になったもの、上官を暴行した者、ミスを犯した者、盗んだ者が全ての官職を剥奪され て、一兵卒として前線に送り込まれたものである。こうした懲罰部隊はソビエト軍に限らず、ドイツ、アメリカなど各国にも存在していたが、ソビエト軍(赤 軍)のそれは質量共に他国を凌駕するもので、1942年から1945年までの間に、実に1,049の懲罰中隊が構成されたそうだ。一中隊50名としても5 万名も存在しているのだ。
 加えて、本作を見ればわかるが、懲罰部隊に入れられた多くが、無実もしくはそれに近い者達であり、スターリンの粛正、共産党の密告等の餌食となったので ある。当然のごとく、共産党などは腐敗、不正の温床でもあり、その権力争いと密告に明け暮れた恐怖政治ぶりが良くわかる。また、よく日本兵が「生きて辱め を受けるな」と教育された事がしばしば引用されるが、ソビエトの場合はその比ではない。意志にかかわらず、捕虜になった時点で人民の敵、裏切りであり、日 本兵以上に恐怖で支配されている事がわかる。さらにソビエト軍が恐ろしいのは、懲罰部隊の背後に必ず保安隊がおり、「スターリングラード(2000)」で も描写されたように、後退してきた味方を逃亡兵と見なして、容赦なく撃ち殺してしまうのだ。
 こうした、世にも恐ろしいソビエト赤軍の負の歴史を、本作は臆することなく描写しているのが凄い。当然、スターリン批判でもあり、赤軍批判でもある。ロ シアで大好評を博したという本作を、ロシア人はどのような目で見て、どのような評価を下し、かつその歴史を捉えているのだろうか。
 内容は前述の通り、かなり奥深いものがある。主役はあくまでも懲罰大隊長を務める元少佐なのだが、期せずして捕虜となった場面から、裏切り者の烙印を押 されて懲罰部隊の指揮官となり、懲罰大隊が最前線でゴミのように酷使され、壊滅していく様子が描かれている。元少佐の言葉に出せない怒りと不条理さが、部 下や上官との人間関係に思い切り投影される。これにロシア映画特有の登場人物個人の性格付けのためのフラッシュバックを多用し、幅の広いストーリー展開と なっており、全11話がダレず飽きさせずに楽しむ事が出来る。ただし、同じくロシア映画特有の映像割の複雑さと解説不足(登場人物や場面)も健在で、良く 見ていないと何だかわからないシーンも多々あるのが難点。
 壊滅していく懲罰部隊なので、当然重苦しいストーリー展開ではあるが、悪玉役の保安隊や密告屋が懲らしめられるシーンも少しはあるので、ただ暗いだけで はない。また、脇役の登場人物には政治犯、刑事犯もおり、政治犯の語る話はこの映画の政治的背景を理解させるのに一役買っている。元白軍兵、トロツキー派 など実に様々な思想のもと、結局はスターリンにしてやられたという絶望感のもと団結するのが面白い。刑事犯は強盗犯や詐欺師など、無思想、無宗教の奔放さ と明るさが逆に楽しい。彼らの即物的な価値観が共産党的価値観との対比としてうまく描かれている。

 映像はテレビ用と言う事でやや粗めの画像で、迫力という点には劣る。しかし、薄汚れ、破けた軍服や負傷兵、死体の表現は実にリアル。ここまで油汚れや血 のりのついた軍服表現は見た事がない。
 戦闘シーンは、さすがにかつてのソビエト芸術記録映画のような無尽蔵な物量はない。兵士も大隊と言いながら中隊規模にしか見えないし、兵器類もかなり乏 しい。戦車類ではT-44もしくはT-54車台のIV号戦車が5,6台登場する。この戦車ははっきりとは断言できないが、「バトル・フォー・スターリング ラード(1975)」「モスクワ大攻防戦(1985)」「東部戦線1944(2002)」に出てくるIV号戦車とかなり似ている。わざわざ新しく改造した りするのも資金がいるから、前作からの再利用ではないかと思うのだが。あとは、対戦車小銃PTRD-1941デグチャレフと、45口径対戦車砲?が数多く 見られる。航空機ではドイツ軍のスツーカが出てくるが、実機とは思えないのでCG、合成の類と思われる。

 全体として無駄な部分も少ないし、懲罰部隊の悲惨さとソビエト共産党の不条理さ、非情さを心底味わう事ができる良い作品だ。戦闘シーン等にやや大人しさ や物足りなさを感じるのが残念だが、是非とも、ソビエトの犯してきた非情の歴史というのもをじっくり味わって頂きたい。
 発売時セールスは「ロシア版バンド・オブ・ブラザーズ」という事だったが、確かに大隊と大隊長をメインにしたものという観点ではそうとも取れるが、本作 はもっと人間の本性とか心の部分に踏み込んだ作品である。「ロシア版兵隊やくざ」か「ロシア版コンバット」でもちょっと違うしなあ。
 劇中出てくる印象的なセリフ
「革命は非合法だ」「死んで自らの罪を洗い流せ」「この国は体制維持のために何でもする」「神のいない国は死ぬ」「国民の半分は牢屋に、半分は敵に殺され る」「もし我が軍が豊富でも、これほど無駄な兵力を失わないだろう(ドイツ軍指揮官)」

興奮度★★★★
沈痛度★★★★★
爽快度★★★
感涙度★★★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

(第1話)
 対独戦線で連隊長ワシリー・ステファノヴィッチ少佐(アレクセイ・セレブリャコフ)は期せ ずして捕虜となる。連隊は壊滅状態で残りの部下も少ない。ドイツ軍SS将校はステファノヴィッ チらに、転向して共産主義と戦う事を呼びかけるが、ザゾノフら3名以外はそれを断る。ザゾノフらはステファノヴィッチらソ連兵を射殺する。
 しかし、ステファノヴィッチは急所をはずれ、一命を取り留め、瀕死の重傷で森の中へ逃げ込む。そこには、同じようにドイツ軍から逃げた兵が集まってい た。(所属は、117旅団202連隊、302軍団、93歩兵師団96連隊、37師団101連隊の名称が見える)
 ソビエト軍に戻った彼らは前線逃亡もしくは捕虜となった裏切り者として処罰を受ける。スターリンの227番にそう書かれているのだ。当然死刑なのだが、 前線での兵が欠乏している赤軍はステファノヴィッチに、懲罰大隊の大隊長として前線に戻り、罪を償う事を命じる。
 刑事犯(強盗・詐欺師ら)、政治犯、軍規違反兵などの部下を乗せた列車が前線に向かう。途中で内輪喧嘩で36人が死亡する。

(第2話)
 懲罰大隊の兵らは背後に保安隊が控えており、逃げ出す事もかなわない。命令に従って前に進むしかない。ステファノヴィッチは兵の中から、統率力に優れた パウキン(政治犯)、グリモフ(ユーリ・ステファノフ)(強盗の頭)らを中隊長に据える。赤 軍本部は懲罰部隊に地雷原と突っ切っての橋頭堡確保を命じる。自殺行為だが、後ろには保 安隊がおり進むしかない。パウキンや、グリモフは馬鹿馬鹿しい作戦に賛同しないが、ステファノヴィッチは涙を流し、祖国のために死のうと頼むのだった。
 案の定、地雷原と敵弾のために半数以上が倒れる。恐れをなして退却したものや負傷のために戻った約100名の兵士らは、保安隊に有無を言わさず射殺され た。

(第3話)
 大隊は当初の700名からわずか200名に減っていた。宿営地で、カード好きのリョッカのいかさまを機に喧嘩が起き、兵が1名殺される。ステファノ ヴィッチは、グリモフに犯人を射殺させる。希望のない懲罰部隊で内輪もめで殺し合うなどあまりに愚かなことだからだ。
 ステファノヴィッチは、先の攻撃で功績のあったムラノフ、グリモフらの褒賞(罪を赦して正規兵に)を保安隊のカルチェンコ少佐に求めるが、無視される。
 前線の懲罰部隊には食料が届かなかった。グリモフらはドイツ兵に扮装して保安隊の食料庫を襲撃。怒り狂ったカルチェンコ少佐は犯人捜しをするが、誰も名 乗り出るものはなく、無理矢理に2名を犯人に仕立てあげて本部に連行する。ステファノヴィッチが兵の解放を求めて本部に行っている間に、一部の兵が2名を 脱走させる。しかし、保安隊の追っ手が迫り、全員射殺されるのだった。

(第4話)
 若干の補充兵が加わる。その一人サヴェリはユダヤ人と馬鹿にした上官(大尉)を殴った罪を負っていた。最初の突撃でサヴェリは恐怖の余り、自分の足を撃 ち抜いて負傷のふりをする。
 一方、グリモフ、ムラノフら7名は敵情偵察に出かける。ムラノフはトロツキー派の元大尉で中央委員でもあった。グリモフは共産党の搾取のために、食料に 事欠き、末弟を殺して食べた事を語る。ムラノフは命令だったと言い訳をする。そのムラノフは地雷を踏んで死亡する。

(第5話)
 病院に収容されたサヴェリは軍医から自傷であることを見抜かれるが、二度としない事を誓って見逃して貰う。そこに自分を馬鹿にしたプレデュノフ元大尉 が、同様に懲罰兵として戦い、負傷して入院してくる。プレデュノフを恨むサヴェリだったが、次第に打ち解ける。また、サヴェリは病院の看護婦スヴェタと恋 愛関係に落ちる。
 大隊は本部からドイツ軍将校の生け捕りを命じられる。グリモフ、リョッカらは敵陣地に侵入しドイツ軍大尉を生け捕りにするが、追撃でルパシュキンが死 亡。沼でもまた1名が死亡する。しかし保安隊のカルチェンコ少佐は、ルパシュキンは明確に死亡が確認されていないから敵の捕虜になったかもしれないと、無 理矢理に誘導尋問を行う。怒ったステファノヴィッチは少佐を殴りつける。しかし、その場の誰もが殴ったのを見ていないという証言で、少佐はどうすることも できなかった。

(第6話)
 前線の村でグリモフは未亡人カトリーナと懇意になる。これまで独り身だったグリモフは家庭の温かさに惹かれ始めていた。カトリーナは前線の塹壕に牛乳と 届けるのだった。
 懲罰大隊は敵の防衛ライン攻撃を命じられる。しかし、敵戦車に陣取った機関銃の前に、多くの兵士が倒れる。結局、何の戦果もないまま撤退する。ステファ ノヴィッチは大隊長解任を要望するも聞き入れられない。そこに、補充兵としてセルゲイ(元少佐)、グリゴリヴィッチ(元大尉)、プリガ(元水兵)らはやっ てくる。
 また、病院ではサヴェリの傷が癒え、再び懲罰部隊に復帰する。プレデュノフは戦功が認められ大尉に復位して戻っていく。
 大隊はムリノフという町にドイツ軍の残党掃討に出かける。

(第7話)
 ムリノフの町でプリガはゾーヤという娘をレイプする。しかも、からかった味方を誤射で射殺する。プリガは、それを見ていたサヴェリに口止めをする。しか し、ゾーヤの祖父が怒ってやってくる。ステファノヴィッチは犯人を見つけ出そうとするが、ゾーヤは恥辱のあまり逃げだし、自殺してしまう。
 また、町にはドイツ軍に寝返ったロシア人がいた。あのザゾノフである。ステファノヴィッチはザゾノフの元に酒を持っていき、寝返った理由を聞こうとする が、「この国は体制維持のために何でもする。神のいない国は死ぬ」と言うのだった。ステファノヴィッチは、温情で拳銃を渡し、ザゾノフは保安隊に引き渡さ れる前 に自決する。
 プリガーはカルチェンコ少佐に犯行を見抜かれ、ステファノヴィッチら大隊の反抗分子の情報を逐一持ってくるよう密偵役を命じられる。
 突然、ムリノフの町にドイツ軍の大群が攻めてくる。防戦する大隊に神父のミハイルも参加することになる。

(第8話)
 ドイツ軍の戦車部隊を前に、懲罰大隊は防衛ラインで、ベリヤノフ中佐の部隊が右翼を守り、コンドラフト将軍の本隊がやってくるまで徹底抗戦死守を命じら れる。、45口径対戦車砲と対戦車ライフルを支給される。そこに砲兵隊のプレデュノフ大尉がやってき て、兵20名を貸してくれという。サヴェリらは砲兵隊のもとに向かう。カルチェンコ少佐は神父が部隊にいる事が気にくわない。信仰など共産主義にとっては 敵だからだ。
 ドイツ軍の戦車部隊が押し寄せる。ステファノヴィッチらは対戦車銃等で抗戦するも塹壕ラインを突破される。その後方で勇敢に砲撃を続けたプレデュノフ大 尉の対戦車砲部隊だが、次々に蹂躙されプレデュノフ大尉も戦死する。死の間際にサヴェリに「赦してくれ」と言い残し、サヴェリも「恨んでいない」と返すの だった。
 なんとか防衛はしたものの、大隊の生き残りはたった19名となる。さらに、カルチェンコ少佐の企みで、ザゾノフと密通した罪、強姦事件などの罪でステ ファノヴィッチが逮捕され、厳しい拷問を受ける。

(第9話)
 ステファノヴィッチは厳しい拷問を受け、ついに精神的にまいり自殺を図るが一命を取り留める。その間、新しい大隊長にセルゲイヴィッチ(元中佐)が着任 する。しかし、ステファノヴィッチを慕う部下達はセルゲイヴィッチに従わない。それを見かねた師団長リコフ少将と副官の大佐は、手を回してステファノヴ イッチを兵卒として復帰させる。
 部隊ではリョッカが敵との中間地帯で無人となっているドイツ軍の貯蔵庫を発見する。大隊長のセルゲイヴィッチは保安隊カルチェンコ少佐に報告すべきだと 言うが、グリモフらはまず食料等を運び出して確保してからでも遅くはないと主張し、貯蔵庫に潜入する。そこで、同じように調達に来たドイツ兵と遭遇する が、彼らは友好的に接し別れるのだった。
 一方、サヴェリはスヴェタ会いたさに病院に忍び込む。しかし、束の間の再会を果たして帰隊中にドイツ軍スツーカ爆撃機の攻撃で本当に負傷してしまう。

(第10話)
 貯蔵庫の一件を知ったプリガはカルチェンコ少佐に密告する。カルチェンコ少佐はソ連軍の食料が足りない事から、功名心のために貯蔵庫確保作戦を思い立 つ。自ら陣頭指揮に立ったカルチェンコ少佐は貯蔵庫でドイツ兵に遭遇する。和睦的に事を進めようとしたグリモフだったが、カルチェンコ少佐の強引な攻撃 で、ついにドイツ兵と交戦状態に入る。その戦闘でカルチェンコ少佐が戦死し、貯蔵庫一体はドイツ軍の砲撃の嵐にさらされる。さらに、セルゲイヴィッチ大隊 長も戦死し、ステファノヴィッチが再び大隊長となる。
 グリモフら3人の斥候兵がドイツ軍陣地に派遣され、敵将校を捕虜にしてくる。少佐と中尉を捕らえ、ステファノヴィッチは部下の勲章と階級復帰を申請する がなかなか認められない。

(第11話)
 サヴェリの怪我が癒え大隊に戻ってくる。ステファノヴィッチは本部に呼ばれ、中佐の階級と赤軍勲章の授与を約束される。しかし、その代わり対岸のドイツ 軍陣地の奪取と維持が命じられる。疲弊しきった懲罰大隊に加え、歩兵3個大隊、機関銃2個大隊が補充されるとはいえ、全滅必至の作戦である。ステファノ ヴィッチは断る事もできず決死を覚悟する。
 実はこの作戦は30km先の別方面の主力部隊攻撃のための陽動作戦であり、懲罰部隊は捨て駒だった。ステファノヴィッチは対戦車砲渡河のための筏造りを 進めるが、渡河にあたり泳げない兵士もいることを考慮すれば半数が戦死する事に頭を痛めていた。それを察知してか、兵士達は日頃の不信心も忘れ、ミハイル 神父に頭を垂れていく。
 ソ連軍の砲撃を皮切りに渡河が始まる。迫り来る敵弾に筏は次々に破壊されていく。グリモフは逃亡しようとしていたプリガを発見し、強姦事件、密告の件全 ての借りを返すとして射殺する。
 何とか上陸した懲罰大隊だが、いっこうに味方の本隊が来ない。逆にドイツ軍の反撃が始まり大戦車部隊が押し寄せる。死守を命じられた懲罰部隊は奮闘する も、グリモフ、リョッカ、サヴェリら皆戦死する。これが囮作戦だと悟ったドイツ軍の攻撃は止んだが、生き残ったのはステファノヴィッチとミハイル神父だけ であった。

(2005/12/01)

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