「オペレーション・ワルキューレ」
評価★★★ シュタウフェンベルグ大佐のヒトラー暗殺未遂事件
STANFFENBERG
2004 ドイツ 監督:ヨ・バイヤー
出演者
セバスチャン・コッホ、ウルリッヒ・トゥクール、ハーディ・クルーガー・jr、ウド・シェンクほか
96分 カラー
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第二次世界大戦時のドイツで起こったヒトラー暗殺未遂事件「ワルキューレ作戦」を描いたヒューマンドラマ。ドイツのテレビムービーとして制作されたよう
だが、スケール感の大きい映像と、セバスチャン・コッホの演じるシュタウフェンベルグ大佐役の重厚感で完成度の高い作品となっている。ワルキューレ作戦を
描いた映画は「ヒ
トラー暗殺(1955
独)」「総
統爆破計画(暗殺計画7・20)(1956
独)」があるが、いずれもモノクロ作品でやや古くさいイメージがする。本作はカラー版でかなり詳細な検証によって、新事実等を盛り込んだリメイクのような
位置づけになる。
ワルキューレ作戦とは、もともとドイツ国内の反乱鎮圧のために戒厳下で予備軍が全てを掌握するという計画名のことだが、ヒトラーに反抗心を抱くドイツ
国
内の一派「黒いオーケストラ」は、ヒトラー暗殺のうえでこのワルキューレ作戦を利用して政府転覆を図ろうとした。1944年7月20日に国内予備軍参謀長
シュタウフェンベ
ルグ大佐がドイツ郊外の森に設置された総統大本営「狼の巣」に爆弾を仕掛けて爆破、ベルリンでは国内予備軍副司令官のオルブリヒト大将が司令官のフロム上
級大将の名でワルキューレ作戦を発動するも、ヒトラーが生存していることが判明したため、警備大隊長のレーマー少佐の反逆によって鎮圧されてしまうのだ。
ストーリーとしては、史実にかなり忠実に作られており、シュタウフェンベルグ大佐のアフリカ戦線での負傷から「狼の巣」爆破、そしてワルキューレ作戦発
動・失敗までを描く。ただ、96分というやや短めのためにイベントそのものは大分端折った感がある。従ってワルキューレ作戦の歴史に詳しい人ならば問題な
いだろうが、詳しくない人にはちょっと理解しにくい箇所も多いだろう。特に、ワルキューレ作戦に関わる反ヒトラー一派の登場人物が理解できていないとかな
り苦しく、トレスコウ(ヘニング)少将、オルブリヒト大将、ベック上級大将、クヴィルンハイム(メルツ)大佐、ヴィッツレーベン上級大将、フェルギーベル
大将らの素生と背景ぐらいは知っておきたいところ。だが、本作ではドイツ向けのためほとんど人物紹介がなく、知識がなければいきなり出てきて何者だという
ことになるだろう。知っていて当然ということを前提に作られているのだ。本作では上記のほか、ヘプナー上級大将、トレスコウの女性秘書マルガレーテ、カイ
テル元帥、フロム上級大将、レーマー少佐、ブーレ大将、ヘフテン中尉、ゲッベルスあたりが重要な役どころとして出てくる。
シュタウフェンベルグ大佐は存在感のあるセバスチャン・コッホが好演。大佐はアフリカ戦線で負傷し、隻眼、片腕なのだが、大佐の反ヒトラーの強い意志と
熱情をその表情で上手に表わしている。ただ激しいだけでなく、心の奥に潜めている大義や理想が感じられるのが素晴らしい。ちなみにヒトラーはウド・シェン
クが演じるが、お世辞にも似ているとは言えない。
映像もテレビムービーとは思えないほどスケール感がある。アフリカ戦線のシーン自体は短いが、砂漠の俯瞰映像はなかなか良い。また、ベルリン市街や狼の
巣のシーンもチープさを感じさせない良好なセットとなっている。
登場する兵器類では、シュタウフェンベルグ大佐が移動に用いる航空機としてJuー52輸送機が出てくる。Juー52輸送機は現在でも飛行する機体があ
り、実機の姿を見ることができるのは凄い。もちろん、飛行、着陸シーンもある。冒頭のスピットファイアは合成映像。
シュタウフェンベルグ大佐のヒューマンドラマだが、若干セミドキュメンタリー風のイメージもある。それだけ時系列、事象に関して史実に沿って作られてお
り、ワルキューレ作戦を描いたものとしては秀逸な出来と言える。ただし、先にも書いたようにかなり端折ったり、登場人物等に説明不足の面が強いので、玄人
向けの作品と言え、十分知識を持って挑みたい作品である。もちろん全編ドイツ語。
興奮度★★★★
沈痛度★★★★
爽快度★
感涙度★★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
1933年のベルリン。若きシュタウフェン
ベルグ中佐は恋人のニーナとワー
グーナーの演奏会に出かけ、そこで総統ヒトラーの姿を目撃する。その後、ニーナと結婚したシュタウフェンベルグ中佐は、東部戦線の参謀を務めていたヘニン
グ・フォン・トレスコウ大佐から東部戦線の状況、ヒトラーやヒムラーによるユダヤ人虐殺の実態を聞き、次第にヒトラーの人種差別政策の失望感を感じる。ま
た、トイレで酔ってヒトラーに失望感を露にする通信部門フェルギーベル大将の姿もあった。
1943年3月、連合軍の攻勢によってアフ
リカのドイツ軍は崩壊寸前だった。第10機甲師団の主任参謀を務めていたシュタウフェンベルグ大佐は、目の前で新任の将校ファーバーが戦死し、自身も英軍
戦闘機の銃撃で左目と右手首、左手指を失う大けがを負ってしまう。
1943年9月、ベルリンに戻った大佐はグ
ルンワルドの森の中でトレスコウとトレスコウの秘書マルガレーテとともに、ヒトラー暗殺のためにワルキューレ作戦の改訂版を作成していた。そんな大佐の姿
に妻のニーナは大義に踊らされていると非難し、4人の子どもと田舎に疎開していく。
1944年7月18日、予備軍司令部参謀長
の大佐は司令官フロム上級大将から20日に総統大本営「狼の巣」に行けと命じられる。大佐はヒトラーと会うこのチャンスに暗殺を実行することを決意する。
20日、副官のヘフテン中尉と合流し、ラン
グスドルフ空港から輸送機に登場して狼の巣に向かう。狼の巣でブーレ大将、カイテル元帥らと合流し、大佐はシャツを着替えるとして個室に入り、鞄の中の爆
弾に信管を設定する。だが、途中で邪魔が入り、爆弾は半分しか用意できなかった。会議室に入り、大佐は耳が遠いのでヒトラー近くの場所を頼み、爆弾の入っ
た鞄を置く。そしてフェルギーベル大将に電話をし、呼び出されたように装ってその場を離れる。爆弾は爆発し、暗殺が成功したと思った大佐はヘフテン中尉と
ともに脱出をする。途中で曹長に封鎖されるが、上官に電話をしてなんとか突破する。
空港に戻った大佐はベルリンで何も行動が起
こされてないことに驚く。フェルギーベル大将からの電話でヒトラーが生きている可能性があったため、ワルキューレ作戦を発動すべきオルブリヒト大将が慎重
になっていたのだ。すぐさま、副官のメルツ大佐らはヒトラー派のフロム上級大将を監禁し、フロムの名でワルキューレ作戦を発動する。ベルリン守備隊のレー
マー少佐の大隊が市街のSS本部や要衝を制圧する。だが、ラジオ放送局や通信施設の占拠を怠ったため、次第にヒトラーが生きているとの情報が入り始める。
大佐はゲッベルス逮捕を命じ、狼の巣からは大佐の逮捕命令が出る。大佐らはゲシュタポの幹部を拘束するも、各地の予備軍の蜂起は思ったように進まない。
さらに、レーマー少佐はゲッベルス邸に赴
き、そこで電話でヒトラー自らのベルリン制圧の命令を聞く。ヒトラー派のレーマー少佐はすぐさま、シュタウフェンベルグ大佐ら反乱派の制圧に向かう。ま
た、予備軍司令部においてもヒトラー派の将校らが武装し、オルブリヒト大将や大佐らの拘束を試みる。腕に負傷した大佐らはついに解放されたフロム上級大将
によって逮捕される。大佐は家族への連絡を試みるも通じない。
フロムは自決を求めるベック上級大将に拳銃
を渡すが、ベックは二度も失敗し、最後はフロムの部下に射殺される。そして、オルブリヒト、メルツ、シュタウフェンベルグ、ヘフテンの4名に銃殺刑を命じ
る。
オルブリヒト、メルツが銃殺され、シュタウ
フェンベルグの番となった時、ヘフテン中尉が駆け寄り、二人が銃殺される。
一方、東ポーランドの森の中で、トレスコウ
少将が手りゅう弾で自決を図るのだった。この後100名以上が処刑された。シュタウフェンベルグ大佐の妻子は生き残ることができた。
(2009/3/20) |