戦争映画の一方的評論
 
「ローレライ 評価★★★ 日本を救うために戦う伊号潜水艦とローレライ
LORELEI
2005 東宝 監督:樋口真嗣
出演:
役所広司、妻夫木聡、柳葉敏郎、香椎由宇、堤真一、石黒賢ほか  
128分 カラー

 
  日本では久々の大型戦争アクション映画。爆発的にヒットした福井晴敏の原作小説「ローレライ」の映画版。ただし、通常は小説から映画化するのに対して、本 作は当初から映画化することを予定しており小説と映画化が同時並行で制作された異色作である。ローレライとはライン川に棲む魔女のことである。
 本作は第二次世界大戦の原爆投下前後を題材としているが、登場する兵器や人物、ストーリーは架空のものである。主役艦の伊507は、フランス潜水艦 「シェルクーフ」をドイツが接収し「UF−4」として改造した物を、ドイツ敗戦後に日本軍が接収したという設定であり、このほか最新特殊兵器「N式潜航 艇」が登場する。いわゆる「架空戦記」と言われるものではあるが、さらに意表をついた兵器や人物により「ファンタジー」的要素も色濃くなっている。ローレ ライ・システムには驚いた。従って、戦争物とも言えず、アクションも物とも言い切れず、やはりヒューマンタッチのファンタジー映画なのだろうか。
 映画の格闘シーンのほとんどは、当然の事ながらCGなのだが、CG技術という観点からみれば素晴らしいの一言。実写と見まがわんばかりのリアルさであ る。また、登場する兵士の軍装や潜水艦内部の美術制作はかなり精細であり、手を抜いた様子もない。ストーリー的にも、斬新なアイデアに驚かされながら日本 の未来を救おうとする人間性が美しい。最近の日本映画としてはスケールの大きい出来となっている。

 と、褒めるだけ褒めたが、評価は★3つなのは、映画としてどうかということと、戦争映画という観点から見た場合には若干辛口にならざるを得ない。
 やはりこの奇抜なストーリーは小説向きだということ。映画化するには短時間に凝縮しきれない伏線があり、それが表現できない以上は視聴者に与えるインパ クトも感動も限界がある。登場する人物に秘められた過去や背景、秘密兵器の謎など、映画中でも一生懸命に盛り込もうとする努力は垣間見ることができるのだ が、あまりに刹那的であり感情移入するには至らない。
 次に、登場人物の会話が完全現代調なこと。確かに、老若男女を対象にしたファンタジーであるとすれば、致し方ない部分もあるのだろうが、少なくとも第二 次世界大戦の原爆、飢餓、強制収容など暗い背景を下地にしている以上、登場人物の行動に感情移入する上で、当時(第二次世界大戦)らしさの匂いが欲しいと ころだ。あまりに軽々しい艦長(役所)、悲壮感が漂っていない特攻隊員(妻夫木)、緊迫感のない将校(堤)など、演技そのものが素晴らしいのに、潜水艦乗 りの抱く悲壮感、緊迫感が全く伝わってこない。あのギバちゃんですら軽く見えてしまうのだ。もし監督があえてそうさせたのだとしたら、戦争を扱った題材と しては駄作とせざるをえない。感動を目的しないファンタジーであるなら構わないのだが。
 CG技術は大変素晴らしく、近年のアメリカ・韓国潜水艦映画を凌駕する出来と言える。ただ、苦言を呈するならば、アメリカの海上艦船のシーンで、余りに 密集隊形で描きすぎており、著しくリアル感を損ねている。伊507とアメリカ駆逐艦群の戦闘シーンに緊迫感を感じられないのはこのためかと思う。
 最期に、特に戦闘シーンにおいて言えるのだが、映像の時間感覚がルーズであること。爆雷投下や魚雷発射から回避までの間に相当な時間的経過がみられるの だ。現実的にはほとんど余裕はないと思われるのだが、実に悠長な会話や対応をしているのが気になる。緊迫感が間延びしてしまっているのが残念。
 全体とすれば、意欲的な日本映画として高く評価したいが、文部科学省が支援したためか!?、いい子ぶりっ子的なまとめ方になっている。小手先の技術に終始した感があり、荒々しさや攻撃性が感じられないので、引き込まれるような魅力がないのが残念。

興奮度★★★
沈痛度★★★★
爽快度★★
感涙度★★


(以下ネタバレ注意)
 
 1945年8月6日、アメリカ軍は広島に最初の原爆を落とした。海軍のエリート将校朝倉大佐(堤)は、次なる原爆投下を回避するため、軍令部に独断で伊 507潜水艦をテニアン島方面に出撃させる。艦長には「臆病者」と吹聴されてきた絹見少佐(役所)を任命する。伊507潜水艦はドイツ軍から接収した大型 潜水艦で、N式特殊潜行艇という最新ソナー兵器を搭載している。
 8月7日、伊507は絹見少佐のもと先任将校木崎大尉(柳葉)、岩村機関大尉、船田水雷長(大尉)、時岡軍医大尉、N式潜操舵手の折笠一等兵曹、清水一等兵曹、砲手の田口兵曹長、N式潜のシステムを熟知する高須技師(石黒)らを乗せて出航する。
 折笠一曹は回天特攻隊員として乗船しているが、N式潜がどういった兵器なのか知らされていない。清水一曹と密かに潜入したN式潜で、驚くべきものを見つける。
 それは一人の少女であった。少女は日系ドイツ人(ユダヤ人?)のパウラ・エブナーと言い、ドイツの強制人種改良計画(レーベンスボーン計画のようなも の?) によって特殊能力を身につけていた。つまり、N式潜の特殊能力「ローレライシステム」とはエブナー個人の特殊能力によるものだったのだ。
 伊507はアメリカ軍駆逐艦と接触し、ローレライシステムを試す時が来た。エブナーは体に取り付けられた機器を通じて、潜水艦発令所のシステムに砂鉄で 外界の状況の立体造形を作り上げることができるのだ。これまでの「耳」によるソナーから「眼」によるソナーに取って代わるのだ。このシステムにより敵駆逐 艦を撃破するが、多くの死者を出すとエブナーは激しく動揺し意識を失ってしまう。思いがけず、もろい一面を露呈する。
 伊507はテニアン島近くの作戦海域まで達したとき、突然高須技師、田口兵曹長らが反乱を起こす。実は朝倉大佐の計画で、ローレライ=エブナーをアメリ カ軍に引き渡したうえ、東京に原爆を落とすという計画だ。日本を「自殺」させた上で再生しようと言う気なのだ。そのころ、朝倉大佐は東京の軍令部で大将以 下の将軍を集めて切腹を強要していた。艦内では反乱グループに制圧され、米駆逐艦前に浮上しつつあった。その時、砲手の田口兵曹長が高須技師を銃撃して反 乱を阻止する。反乱に荷担していた田口だが、艦長の説得に心を動かされたのだ。
 伊507は絹見少佐が実権を回復する。東京では、伊507の反乱失敗を知った朝倉大佐が不敵の笑みを浮かべて自殺を図る。あと16時間で東京に原爆が落 ちるのだ。絹見少佐は原爆搭載のB-29の離陸を阻止するためにテニアン島へ向かう事にする。志願しなかった25名を降ろし、伊507はアメリカ駆逐艦群 の中、ローレライシステムを駆使して進む。死者を極力出さぬよう、駆逐艦のスクリューめがけて魚雷を発射するのだ。
 ついにテニアン島へ到達する。絹見艦長は折笠一曹とエブナーを乗せたN式潜航艇を自力で脱出せよと切り離す。急浮上した伊507は原爆を搭載して離陸し たB-29を砲撃で撃墜する。そして、アメリカ軍駆逐艦が取り囲む中、堂々と潜航していくのだった。海中からはエブナーの歌う「モーツアルトの子守歌」が 響いている。
 戦後、伊507と戦闘した米駆逐艦の乗員に取材する日本青年の腕に、絹見少佐からエブナーが貰った腕時計がされていた。

(2005/03/12)

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