「僕たちの戦争」 評価★☆ 現在と戦時で入れ替わってしまった青年
2006
TBS(TVドラマ) プロデューサー:八木康夫、那須田淳
出演者:森山未來、内山理名、上野樹里、玉山鉄二ほか
約100分 カラー
TBSテレビが年に一度放映する戦争ドラマシリーズ。現代と戦時中の青年が入れ替わってしまい、戦時に飛ばされた青年は特攻兵器回天に搭乗して特攻していく羽目に、というSFチックな内容。同じ「回天」を扱った映画「出口のない海(2006)」
の封切りに合わせるように9/17に放映された。TBSの戦争シリーズは恣意的で偏向した反戦メッセージがどうも鼻につくきらいがあって、はっきり言って
期待はできない。とはいえ、主役はコメディ的な演技でウォーターボーイズでも好演していた森山未來ということで、どのような出来なのか興味がわいた。
原作を読んだことはないが、SFコメディとしてはなかなか面白い内容だ。誰もが一度は空想し、興味を抱くような設定だけに、どうなるのだろうという先を
見たさについつい引き込まれていく。ただ、舞台設定は極めてありきたりで、ストーリー展開も想像以上のものではない。もう少し、意表をついた展開やどんで
ん返し的なものがあっても良いのではないか。はっきり言って単純。しかも、一緒に見ていた家内がエンディングの展開には大いに不満を漏らしていたように、
わだかまりの残る出来。森山未來のコメディ芝居は鼻につく臭さはあるものの、なかなか面白かっただけに何故コメディ的ノリのまま終わらせなかったのか、理
解に苦しむ。最後だけ突然シリアスにされても・・・。
要はTBSが作ると楽しいSFコメディもこうなってしまうという典型例なのだろう。TBS独自の反戦メッセージを入れたいのであろうが、このコメディ素
材には無理。途中で主題が入れ替わってしまったのが顕著でとても興ざめだ。普通に作るだけで十分反戦的意図を伝えることはできたはず。逆にミエミエの反戦
メッセージを入れることで視聴者側に自ら考えさせる機会を奪ってしまっている。
顕著なのは、クライマックスの場面で、
「60年前の連中も同じだった。いい奴も悪い奴もいるんだ。」「誰がこんな戦争を始めたんだ」と絶叫するシーン。現代から戦時にタイムスリップしていった「健太」は少なくとも自分
の意志で敵艦に突入していったのであって、自分の意志にかかわらず特攻隊に配属となり敵艦に突入していくまでの心理変化は、戦時の少年が軍国少年に、青年
が特攻隊に志願していく戦時の過程そのものである。その過程がうまく描かれれば秀作であったが、見事なまでに主題がすり替えられている。違和感を感じるのは、現
代でぬるま湯のような生活に浸りきっていた健太が、たいして熱愛でもなかった恋人ミナミのために死に向かうのが理解できない。健太が飛ばされた戦時にはミナミ自身がいないわけ
だし、死を持って未来の彼女の身を案じるのは不自然。むしろ、戦時における戦友との友情、一人の男としての義務感、責任感、そして戦時の圧迫感と恐怖感こそ
が死へ向かう気持ちにさせたのであって、これこそが戦時における大衆の狂気である。それを、政府や、軍部、官僚などの責任とし、誰かを悪玉に仕立て上げて現代批判しようというメッセージ手法はいい加減反吐が出る。
いずれにせよ、コメディらしく笑えるエンディングで締めて欲しかった所。
この他、霞ヶ浦航空隊で傲慢な上官が特攻に行くとなって恐怖に震えたり、八つ当たりするシーンがあるが、実際それに近いこともあったであろうが、この描き方は当時を知る人が見ればかなりの憤慨ものだろう。当時の兵隊を小馬鹿にした冒涜シーンとも言える。
ヒロイン陣には出口のない海でも登場の上野樹里と内山理名。上野樹里はいつになく色気があったが、内山理名の方は今ひとつ存在感なし。
主人公が操縦訓練を受ける海軍九三式中間練習機(赤トンボ)は、ぱっと見良く似ているのでびっくり。ラジコンかと思ったが実機だそうで、近年再生産されているスポーツ複葉機「WACO複葉機」
というもの。わざわざ赤トンボ仕様に塗装して撮影している。回天も原寸大を用意し、艦内セットもそれなりに考証された形となっている。しかし、この他の潜
水艦などはほとんど作り込みされておらず、戦闘シーンは当然CG。爆雷投下シーンはひどいCGで、ゲームでもあんなにひどくない(笑)。また、B−29の
空襲シーンもちょっと稚拙。あれなら描かない方がましかも。
アメリカのテレビ映画は本物の映画を凌ぐものも少なくないが、本作は本当にチープなテレビドラマでしかなかった。日本でも「日本のシンドラー杉原千畝物語(2005)」のように映画級のものもあるだけに、TBSの姿勢や資質なのかも知れない。中途半端なものを作っても原作に失礼なだけだと思うのだが。
興奮度★★
沈痛度★★
爽快度★
感涙度★
(関連HP)
TBSテレビ「スペシャルドラマ 僕たちの戦争」公式HP
DREAM AIR INC HP(赤トンボ機情報)