「デイズ・オブ・グローリー」
評価★★★★ フランス兵として戦ったアルジェリア人
INDIGENES DAYS OF GLORY
2006
アルジェリア・フランス・モロッコ・ベルギー 監督:ラシッド・ブシャール
出演:ジャメル・ドゥブーズ、サミー・ナセリほか
119分 カラー
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フランスで大好評を博した、第二次世界大戦時のフランス領アルジェリア兵の悲劇を描いたシリアス系戦争映画。フランスをドイツから解放するため、立ち上がったアルジェリア人ベルベト族義勇兵が、命を賭して最前線を戦い抜いていくが、昇任、待遇の差別に、次第にその意義に疑問を感じ始めるという、ヒューマンドラマでもある。2006年、アカデミー賞ノミネートもされた作品で、ストーリー的、映像的、社会風刺的にも完成度の高い作品となっている。
アフリカ北部のアルジェリアは1962年にフランス植民地から独立を果たしたが、1830年来のフランス植民地化という長い歴史から、フランス人としての意識の強いアルジェリア人も多いなど、単に植民地からの解放という単純なものではなかった。1950年代には独立を巡ってアルジェリア戦争が勃発したのだが、本作はその原因とも言える、フランス人のアルジェリア人差別、アルジェリア人の出自・帰属の混乱というものを色濃く出した名作である。
植民地からの解放と言えば、通常は宗主国への強烈な批判と憎悪に尽きるのだが、本作に登場するアルジェリア人にはそうしたものはない。むしろ、アルジェリアがフランスの一部であり、自身がフランスを本国と認識しているのである。母国フランスの自由を取り戻すため、見たこともないフランスの地に渡って、戦闘に命を捧げるアルジェリア兵の姿は、なかなか理解しがたい。フランス人に利用され、洗脳された哀れなアルジェリア人と言ってしまえば簡単だが、その根底にはもっと複雑なものが垣間見える。文明、社会的地位といった栄光に惹かれながらも、自身のあるべき姿との葛藤に悩む原住民の姿でもある。フランス人女性に手を出せば死罪、フランス国内での略奪は厳禁など、侮蔑されながらも、下士官への昇格、フランス人になることを夢見ていくのだ。それが儚い夢であることも知らず。
現在、フランスではアルジェリア、モロッコ系移民の貧困層が社会問題にもなっているが、フランスが国内に内包する差別や、犯罪の根源にはフランスの犯した植民地政策があると言っても過言ではないだろう。フランスが触れられたくない恥部を、本作は見事にさらけ出していると言っても良い。
映画の最後にテロップが流れる。1959年、アルジェリア独立を前にフランスは現地兵の恩給を凍結。係争の末、2002年満額支給を決めるも、後継政府は支給を延期。フランスが抱える差別の問題は今なお続いているのだ。
本作の監督はラシッド・ブシャールで、アルジェリア系フランス人である。役者の多くも移民系フランス人で、必ずしも刺々しいアルジェリアからの告発といったものではない。しかし、彼らはフランスに生まれ育った環境の中で、少なからず差別を感じてきたことだろう。本作の前半は、フランス万歳的な違和感のある内容であったが、それは後半への伏線であった。監督、役者からにじみ出す、アルジェリア人同胞への呼びかけのようなものを感じる。決して、反体制的なものではないが、十分に心に打つものがある。
映画の舞台はアルジェリア、モロッコ、イタリア、フランスと大戦の進行とともに移り変わる。撮影は主にモロッコで行われたようだが、暑い砂漠、厳寒の山岳などなかなかリアルに描写されている。主人公らアルジェリア兵が所属するのは、第七アルジェリア歩兵連隊で、イタリア戦線では連合軍第五軍(クラーク)麾下のフランス派遣軍(軍団)アルジェリア第3師団に属する。フランス自由軍と言っても、ほとんどが植民地召集兵であり、指揮官はフランス人のみとなっている。アルジェリア兵は下士官にすらなれないのが実態だ。
本作のストーリー自体はフィクションとされているが、転戦の様子はかなり史実に沿っているようだ。イタリア戦線は1944年5月のモンテ・カッシーノ攻防戦と思われ、モンテ・カッシーノ要塞南西のアウルンチ山脈を昔ながらの人海戦術で突破したのがアルジェリア部隊である。本作でも、山上のドイツ軍陣地に肉弾突撃する姿が描かれている。また、フランス戦線では1944年10月以降のドラーグン作戦を題材にしていると思われ、ローヌ渓谷、ヴォージュ山脈で激戦が描かれている。アルザスでは米軍第37部隊の救援と出てくるが、第4機甲師団の第37戦車大隊のことだろうか。不明。登場人物やエピソードはフィクションとしても、実際にアルジェリア兵が辿った苦戦の道を知ることが出来る。
戦闘シーンは激しくはないが、銃撃戦などはそれなりにリアル。砲弾炸裂の爆薬使用量もなかなかだし、ドイツ軍との市街戦シーンは秀逸。多彩な銃器類も登場し、狙撃ライフル、機関銃などが各所できちんと使い分けられている。パンツァーシュレックも登場する。車両類はトラックとジープのみで、戦闘機編隊はCG。
多くの戦場を扱ったため、急ぎ足の感はあるが、ヒューマンドラマを十分に包括しながら、戦争映画としも見応えがある。ただ、前半部分が特に急ぎ足で、フランス植民地下のアルジェリアの立場、フランス兵として立ち上がるアルジェリア人の心境といった部分の解説がそぎ落ちてしまっているので、外国の人間にとっては若干理解しずらい部分があるような気はする。
とはいえ、これだけの社会問題を風刺しつつ、ストーリーとしてもヒューマンドラマとしても、本作はきれいにまとめてきている。
3rd Algerian
Infantry Division
興奮度★★★★
沈痛度★★★★
爽快度★
感涙度★★