「アメリカン・ソルジャーズ2」
評価★★ 闇に葬られた戦争行方不明者
The Veteran
2006
アメリカ 監督:シドニー・J・フュリー
出演者:ボビー・ホセア、アリー・シーディ、キャスパー・ヴァン・ディーン、ジェームズ・ウールヴェット、マイケル・アイアンサイドほか
90分 カラー
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ベトナム戦争に従軍したアメリカの州議員が戦後35年経ち、戦争行方不明者の元米兵からの手紙で再びベト
ナムを訪れたことから起こる、隠されたベトナム戦争の真実を巡るサスペンスドラマ。力の入った戦闘アクションも多く、一見アクション系かと思わせたり、戦
争批判や権力批判等の社会風刺的な側面もあるが、総体的にはサスペンスのジャンルに入るだろう。テレビムービーとして製作されたもののようだ。
監督は知る人ぞ知るB級映画名監督のシド
ニー・J・フェリー。フラッシュバックやぶつ切り編集、妙に説明調で感傷的な映画が特徴的だが、本作でも見事にそのままだ(笑)。従って映画の完成度とい
う点ではかなり駄作の部類で、まずまずの内容だった前作「アメリカン・ソルジャーズ(2005)」に比べると格落ちの感は否めない。
ところで、本作の邦題「アメリカン・ソルジャーズ2」だけ見れば、いかにも「アメリカン・ソルジャーズ」のシリーズ作と誤解しがちだが、前作はイラク戦
争を題材としたものであり全く関係ない。ところがだ、本作を観ていて驚いた。登場する人物、役者、ストーリー設定、そして映像・・・どこかで観たことある
ぞ・・・。それは同監督作品「フィ
アーズ・オブ・ウォー(2001米)」なのだ。全て同じ物語を下敷きにして、というか「フィアーズ・オブ・ウォー」の別視点再構築映画なのだ。
「フィアーズ」の方は中隊長ラムゼー大尉、本作はレイ軍曹といったように主人公を違え、脇役こそ若干メンバーが異なるものの、隊員の名前も役者もまるで一
緒なのだ。さらに、面白いのは「フィアーズ」で行方不明になった衛生兵が今作で戦争捕虜行方不明者として登場するなど、両作が密接にリンクし、互いに補完
するように穴を埋めていくのだ。また、映像も「フィアーズ」の使いまわしも多少はあるようだが、別角度からの新映像が頻繁に登場し、ああこの場面知って
る、この角度から見るとこうなるのだな、といった感動さえ感じる。衣装やセットが余りに良く似ているので、5年間のブランクを考えると新たに撮影したもの
ではなく、「フィアーズ」制作時の未使用・未公開フィルムを活用したのかもしれない。当初から二部作として計画していたのかどうかは知らぬが、金をかけず
に製作できる利点とともに、両作をセットで見ると違った楽しみ方ができるのは非常に面白い。
というわけで、単品で評価すると★2つにしかならないが、二作をセットで考えた場合には★3つあげても良いと感じた。
さて内容だが、一応本作では国家権力が弱者を見捨てていくという社会批判的主題が立てられている。だが、やはり監督特有の自己陶酔型の映像感が強すぎ
で、台詞も編集も稚拙なため、感
情移入しきれずにストーリーが台無しになってしまった。そのため作品の意図が何だか理解できないままに事が進み、エンディングも非常に後味が悪いものと
なってしまっている。このあたりは、いつまでたってもシドニー・J・フェリー流なのだなと感じる。とにかく細かい
ぶつ切り映像や頻繁なフラッシュバックは、見るのが疲れるし集中力を欠いてしまうのだ。いい加減視聴者の評価に気づいて欲しいところ(笑)。
これに反して映像はいつもどおり秀逸。「フィアーズ」映像の再利用かもしれないが、ベトナム戦のリアルな雰囲気が良く出ている。登場する兵器類はヘリの
UH−1イロコイ程度。
とにかく本作ではストーリーや映画のテーマなどはあまり深く考えずに、「フィアーズ」と両方を見て、同じ映像、同じ設定にほくそ笑んで貰いたい。今作で
はベトコン少女砲兵隊せん滅、上陸戦失敗からのヘリ撤退、ベトナム人遺体の空中投下、市街戦での無
反動砲といったあたりが同じ設定として描かれている。それぞれが結構細かく設定を押さえていて、色
々な発見を楽しめるだろう。
まあ、邦題つけるなら「フィアーズ・オブ・ウォー2」の方が良かったような気がするけど。
興奮度★★
沈痛度★★★
爽快度★
感涙度★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
テレビ報道で、イラク戦争でアメリカ軍ヘリ
が墜落し、乗員の一人が行方不明になったというニュースが流れている。ベトナム退役軍人会で女性職員のサラは一通の手紙を見つける。宛先はレイ・ワトソン
となっており、サラはレイに電話をかける。レイは元ベトナム従軍兵で、現在は神父で州議員を務め、上院議員候補でもある。
戦争後35年ぶりにベトナムを訪れたレイ元
軍曹は、メイ・リンという女性を訪ねる。ベトナム戦争時にレイと恋仲だったメイ・リンは既に結婚しており、レイとの間にできた息子もいた。だが、メイ・リ
ンは自分を見捨てたレイを許さず門前払いにする。
ホテルに戻ったレイのもとに一人の男が現れ
る。銃を付きつけて居座る男はレイ元軍曹の戦友で戦死したとされていた衛生兵のドクだった。ドクは戦争捕虜として6年間収容所に入れられ、アメリカに帰国
することなくベトナムにいたのだ。ドクはレイが自分を戦死者として見捨て、戦争の罪や真実を隠して上院議員になろうとしているたことを詰問する。
そのやり取りを近くのホテルで盗聴している
のはサラと戦争捕虜確認司令部(JPAC)のマクドナルドとクーバーだ。手紙の差出人が何者で、行方不明者であるかどうかを確認しようとしてるのだ。
ドクは過去の記憶をたどり、自分たちが行っ
た罪を掘り起こしていく。ベトコンの迫撃砲攻撃を受けて殲滅した相手はベトコン少女兵だった。一方でレイは従軍神父が勇敢な活躍で部隊やドクの命も救った
ことを回想し、それが理由で神父になったことを話す。だが、ドクは盗聴に気づきレイに軍がした罪を話すよう追及する。軍はヘリでベトコンの死体をぶらさ
げ、ベトコンの村に投下するなど民間人の殺害を行った。さらにラムゼイ大尉の制止を聞かず、レイ軍曹は村に火をつける部下を統率しなかった。その光景を映
したフィルムもカメラマンも所在がわからず、その非業は闇に葬られたままだ。
またドクは同性愛者で、レイ軍曹に愛を告白
したことがあった。レイ軍曹は冷たく突き放すが、市街戦で敵に捕まったドクをレイが助けなかったのはドクが同性愛者だったからだと非難する。
戦争捕虜確認司令部(JPAC)のマクドナ
ルドとクーバーはドクが本物と確信し、レイとドクのもとに向かう。だが、レイは逆にドクに銃を突きつけ死んでくれと言う。実はレイは上院議員候補であると
同時に大統領候補でもあり、スキャンダルは困るのだ。サラも実は大統領候補の身を守るために派遣された国家安全保障局(NSA)職員であることが判明す
る。レイは国のために必要な人物だというのだ。
部屋に入ったマクドナルドらの説得によって
ドクは銃を下ろす。だが、その瞬間サラがドクを射殺し、ドクは戦争捕虜ではなく、無許可離隊した兵だとこじつける。こうして国家権力が真実を隠蔽していく
のだった。
(2009/05/18)
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