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かぽんの戦争映画
一方的評論
 
「ボーフォート -レバノンからの撤退- 評価★★★★ 占領地からの撤退と小隊長の苦悩
BEAUFORT
2007  イスラエル 監督:ヨセフ・シダー
出演者:オシュリ・コーエン、イタイ・ティラン ほか
127分 カラー 

 
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 レバノン南部における、イスラエル軍と民兵組織ヒズボラとの戦闘を題材にしたヒューマン系戦争映画。2007年ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作。
 現在もなお、戦闘状態にある数少ない国イスラエルの制作であり、題材もほとんど描かれることのなかった、レバノン南部の軍事拠点ボーフォート砦というのが実にレアだ。イスラエル映画はどうしても過去の歴史の重みから、精神的苦悩や複雑な邂逅的な作品が多いような気がするのだが、本作はヒューマンドラマではありながらも、意外にも正当派戦争映画だ。前半まではやや冗長な展開で、イタリア映画的な雰囲気が強かったが、後半からは一転して正当派戦争映画の雰囲気に化けた。
 イスラエルは1982年にPLO掃討のためにレバノンに「ガリラヤ平和作戦」として侵攻。以降、敵対する相手がヒズボラに変わりながらも、レバノン占領を続けるが、ついに2000年5月拠点であるボーフォートから撤退する。その後、現在に至るまで小競り合いが続いているが、本作はこの2000年5月のボーフォート砦撤退を題材にしている。比較的死傷者数の少ない近代戦であり、激しいものではないが、民族・宗教戦争の持つ、緊迫した泥仕合の様相は十分に伝わってくる。

 監督はユダヤ人のヨセフ・シダーで、自身もレバノン侵攻作戦に砲兵として参加した経歴を持つ。それ故、独特の戦場の臨場感は迫真のものがある。ストーリー的には、若き指揮官の戦場での苦悩、帰国間近の部下の死など、映画としてはごくありふれた内容であるにも関わらず、変に感傷的になりすぎず、それでいて戦場の緊迫感が伝わってくるのはさすがだ。戦場での兵士の心の葛藤を物語としてではなく、戦場心理学的に描いているからなのだろう。敵の姿も見えず、銃で撃ち返すことも一度もない。唯一ヒズボラからの砲撃を受けるのみなのだが、これほどにも緊迫感ある映像に仕上がっているのは、兵士の消耗した心理描写によって、観客側も消耗させられていたからなのかもしれない。
 本作はボーフォート砦からの撤退という、後ろ向きな題材のうえ、厭戦的な雰囲気も漂っているがゆえ、反戦映画的な位置づけという評論もまま見られる。パンフレットでは、田原総一朗氏が軍部と一般国民という、得意の二元論で「戦争の空しさ」を論じていたり、監督自身が反戦的コメントを述べてもいるようだ。しかし、戦場の兵士には善と悪など関係なく、戦友と戦場への不条理な愛着に支配されていくのだということが、本作にはありありと描かれている。そこには単なる厭戦ではなく、イスラエル人の諦めにも似た義務感と疲れ切った達成感を感じるのだ。監督自身がそれを意図していたのならば傑作なのだが。 

 主人公である小隊長リラズは、部下を統率する義務感と自身の戦闘への恐怖との葛藤に悩む。ここまではごく普通の描写であるが、見物は部下の死などの体験を通過するごとに、次第に恐怖の根源である砦への愛着が増してくるところだ。砦は戦略的に確保したり、放棄したりできるが、この場で死んだ兵の魂はずっとこの場に留まるのだ。死を見届けた身として、あるいは死の責任を負う身として、この場所は彼にとって神聖な場所になっていくのだろう。一見、アメリカ映画の「ハンバーガー・ヒル」にも似た状況描写だが、決定的な違いはこの後ろ髪を引かれるシーンの有無にある。まさに他人には理解できない戦場の心理なのである。

 一応撮影にはイスラエル国防軍の協力を得ているようで、若干の兵器が登場する。戦車では旧型のメルカバが1台登場し、この他装甲兵員輸送車のナグマホン、M-113系装甲車?の姿が見える。ナグマホンは馬鹿でかい箱形装甲を搭載しているのが面白い。ヘリコプターではUH-60ブラックホークが出てくる。
 戦闘シーン自体は、姿の見えないヒズボラの砲撃だけなので若干物足りなく感じてしまう。ただ、地雷除去作戦シーン、砲撃を受けた監視哨救出シーン、地雷敷設爆破シーンなど手に汗握る場面もあり、臨場感あふれる。また、軍装も様々なアーマージャケット、防寒着、帽子などなかなか見所が多い。この他、歩兵による肉眼監視も行っているが、監視カメラや赤外線など近代的な装置による前線の様子が興味深い。6体置かれたダミー人形も笑える。砦は18年かけて設置された膨大なコンクリートと鋼鉄製トンネルによって構築されている。この辺りも、他の戦争には見られない独特のものと言えよう。
 なお、階級章が余り出てこないのでよく分からなかったが、主人公のリラズは中尉、爆破処理班のジヴも中尉のようだ。この他、作戦会議で少佐及び少将と思しき人物も登場。

 全体に良くまとまっている良作。若干歴史的背景を知らないと理解できない部分もあるかもしれないが、登場人物も多くなくわかりやすい。グロいシーンもなく、強引に感傷的に持って行くこともないので、若干インパクトには欠けるかもしれないが。



興奮度★★★★
沈痛度★★★★

爽快度★★
感涙度★★

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(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)


 レバノン南部の軍事拠点ボーフォート砦の小隊指揮官としてリラズ中尉?が着任している。イスラエル国防軍はレバノンからの撤退を決めており、ボーフォードからもいずれ撤退する予定だ。しかし、道路に爆薬が仕掛けられており、その解除のため砲撃の中をジヴ中尉?がやってくる。ジヴは当初、任務が危険と判断するが、リラズは任務遂行を強く意見する。ジヴは志願してやってきたのだが、父親はそのことを知らない。ジヴの伯父はかつてこの砦で戦死している。そのこともあり、ジヴは任務決行を決意する。
 リラズらが後方で待機する中、ジヴが爆薬除去に取りかかる。しかし、失敗してジヴは即死。リラズは自責の念に駆られ、部下のコリスも不信の念を強くする。
 撤退に向け、物資の後送が命じられる。リラズはこれに反抗するが聞き入れられない。そんな中、帰国が間近に迫っていたジトラウィの監視哨が対戦車ミサイルの直撃を受けてジトラウィが戦死。さらに、負傷したオシュリの姿にただ呆然とするリラズ。指揮官としての能力のなさを図らずも露呈してしまう。
 それでも部下を守るため、ただ砦に籠もるだけの戦略に憤慨したリラズは、上官にヒズボラ攻撃を進言するが、却下される。これ以上の死者は出さないようにとの配慮だ。危険な監視業務に自らも就くことを表明するリラズだったが、さらにヒズボラの砲撃でシュピッズも失う。

 ようやくボーフォード砦撤退の命令が届き、砦の破壊のため12名を残して、地雷敷設作業に取りかかる。全ての地雷を設置し、爆破命令を待つだけとなったが、なかなか実行命令が出ない。もし、ヒズボラの砲撃があれば砦ごと12名は吹き飛んでしまうだろう。コリスは命令を無視して爆破すべきだと進言するが、リラズは実行をためらう。心の中に砦への愛着が芽生えてきるのを感じる。
 極度の緊張感の中、泣き出す兵士も出てくる。リラズは部下をなだめながら最後の命令を待つ。
 ようやく、命令が下る。装甲車で待機しながらリラズはボーフォード砦の大爆発を確認する。イスラエルに戻ったリラズは、緊張から解放され、そしてボーフォード砦への思いから涙を流すのだった。


(2008/2/18)