「ハンティング・パーティ -CIAの陰謀-」
評価★★☆ ボスニア戦犯を追うジャーナリスト
THE HUNTING PARTY
2007
アメリカ・クロアチア・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ 監督:リチャード・シェパード
出演者:リチャード・ギア、
テレンス・ハワード、ジェシー・アイゼンバーグほか
103分 カラー
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ボスニア紛争終結後のボスニアを舞台に、民族浄化という名のもとに行われた虐殺容疑のセルビア軍戦犯確保のスクープを狙う、戦場カメラマン・戦争ジャー
ナリストが繰り広げるサスペンスドラマ。国連が彼の首に500万ドルの懸賞金を賭けながらも、本気で逮捕しようとしないジレンマの中、私怨も絡み3人の
ジャーナリストが無謀な賭けに出るのだ。民間人が主人公のため、銃撃戦などのアクション性は低いが、実話ベースに作られたというだけあって、社会告発的な
シリアスドラマ性も持ち合わせているのが特徴か。
副題にもあるようにCIAの陰謀?関与が示唆されているわけだが、元ネタとなった雑誌記事の信憑性もどこまで信頼できるかわからないし、ジャーナリスト
視点という時点で憶測、妄想も多分に含まれているだろうから、まあその辺りは差し引いて娯楽作品として楽しんだ方がいいだろう。とは言うものの、本作全般
に社会告発的、ジャーナリズム的な微妙な臭いがしており、娯楽作品として楽しむにはいささか中途半端な印象だ。ストーリー全般の流れは悪くないし、リ
チャード・ギアまで主演させているのに、どこかしらB級臭がしてくるのは何故なのだろう。
ボスニア紛争は複雑な内紛だったわけだが、クロアチア人とセルビア人の虐殺応酬が最も凄惨を極めたと言える。本作はセルビア軍指導者のボガノヴィッチが
虐殺指導者として戦犯容疑者になっているのだが、これはセルビア軍指揮官で虐殺指導者のラドバン・カラジッチがモデルになっているものと思われる。
また、これら戦犯容疑者の確保に国連やCIAが及び腰だったり、陰謀?を図っていたことは広く知られている。だが、その実態は未だ不明確であり、本作も
そのあたりをすっきりと突っ込むことができなかったのが、作品のもやもや感を増長させる結果となった。ちなみに、ボスニア紛争の虐殺を題材にした映画は多
く、「ブ
コバルに手紙は届かない(1994)」「ウ
エルカム・トゥ・サ
ラエボ(1997)」「セ
イヴィア(1998)」「セ
イビング・フロム・エネミー
ライン(2005)」などがある。本作は虐殺シーンはほとんどないが、上記作はかなり凄惨なシーンも登場する。さらに、セルビア軍戦犯が登場する
作品では「ブ
リ
ザード・ウォー(1999)」がなんとも絶妙(笑)。
さてストーリーだが、ジャーナリスト視点ということで一般受けしやすい内容となっているのが好感。それにセルビア軍勢力、国連、CIAが絡む複雑な人間
関係なのだが、難解になりがちな点をすっきりとまとめ上げているのは秀逸だ。これはジャーナリストのサイモン・ハント(リチャード・ギア)をアウトロー的
な性格付けにして娯楽性を高め、他の登場人物の性格付けをぼやかしても問題ないように仕立てているからだと思われる。ただ、セルビア軍戦犯確保に至るクラ
イマックスシーンは、どうしても掘り下げが甘くなっている感があり、実話ベースということを排除してでもCIA描写やアクションを派手に描いた方が面白
かったも知れない。
一応サスペンスのジャンルに分類してみたが、サスペンス性という点では、うーむ・・・というレベル。社会派の印象が強すぎてさほどドキドキ感はないし、
どんでん返し的な部分もあまりインパクトがない。
主演のリチャード・ギアはそこそこの存在感を醸し出してはいたが、彼にしては煮え切らない今ひとつの印象。ジャーナリスト仲間のテレンス・ハワード、
ジェシー・アイゼンバーグも役者としては悪くないが、3人のアンバランス感はB級的な臭いを匂わせる要因ともなった。
アクションシーンは前述のとおりほとんどなし。ロケはクロアチアやボスニア・ヘルツェゴヴィナで行われたようで、唯一登場する兵器はソヴィエト製ヘリコ
プターのミルヒップだけ。
全般に、ストーリーとしての完成度は高い部類だと思うが、インパクトや娯楽性という点では不完全燃焼。見終わった後の満足感が足りないし、社会派として
の余韻も思ったよりも薄い。もっと派手な作りのボスニア紛争映画のサブとして見る分には、奥行きができて良いかも知れないが・・・。
興奮度★★
沈痛度★★★
爽快度★★★
感涙度★★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
アメリカ人ジャーナリストのサイモン・ハン
トは、カメラマンのダックとともにソマリア、ボスニア紛争など戦場の場を駆け抜け、数々の賞を受賞していた。だが、1994年のボスニア紛争取材で生放送
中にハントはキレてしまい、以降テレビの前から姿を消す。実はハントの恋人がセルビア軍指導者ボガノヴィッチによる虐殺で殺され、ハントは怒りで感情を抑
えられなくなったのだ。
それから5年、2000年秋。カメラマンのダックは活躍し、富と名声を得ていた。紛争の終わったボスニアではボガノヴィッチが戦犯として国連から500
万ドルの懸賞金を賭けられていた。
たまたまボスニアに取材に入ったダックのもとに、ハントが姿を現す。ボガノヴィッチの居場所を知っており、スクープインタビューを取ろうというのだ。最
初は断ろうとしていたダックだが、旧友の希望と熱意により共に行動することを決意。さらに同行していた副社長の息子ベンジャミン・ストラウスもボンボンか
らの脱出を図るために、参加することに。
ボガノヴィッチ一味はチェレビチの山奥に潜んでいるらしいが、警護軍団が回りを固め、サージャンという冷酷な男がリーダを勤めている。3人は情報を得る
ためチェレビチに向かって移動するが、途中に立ち寄った食堂で銃を発射される。すでにセルビア軍に目を付けられたかと思ったが、実は金に困るハントが金を
支払っていなかったのだった。さらに、ハントはボガノヴィッチのインタビューを取るのではなく、私怨のために生
け捕りにしようと企んでいることが発覚する。
国連司令部は真剣にボガノヴィッチを追おう
としない。アメリカ、イギリス、フランスともに実は裏でボガノヴィッチを繋がっているとの憶測もある。だが、国連指揮官の一人ボリスだけはボガノヴィッチ
を追いつめようと考えており、3人を勝手にCIAの潜入捜査員と勘違いしている。3人はそれを敢えて否定せずに利用することに。
チェレビチに到着した3人は村でボガノ
ヴィッチの情報を聞き出そうとするが、村人たちのガードは堅く、逆に追い出されてしまう。さらにオレンジ色の3台の車に囲まれてしまうが、これは闇商人の
クロアチア人でハントの旧知だった。
いったん戻った3人にボリスからマルヤナと
いう女を紹介される。ボガノヴィッチとの接点を探るが、どうもマルヤナも怪しい。CIAであることを怪しまれた3人はベンジャミンの機転で乗り切るが、ホ
テルに戻ったところをボガノヴィッチらに捕らえられてしまう。
3人は拷問を受け、サージャンによって殺害
されそうになる。そこに本物のCIAが突入。命は助けられたがCIAはボガノヴィッチを逃がしてしまう。ハントらはCIAがわざと逃がしたのではと睨む
が、CIAに怒られて退去を命じられる。何故かボリスもアフリカに国外追放され、ボガノヴィッチ追跡網は瓦解する。
3人は退去させられる際に、やはりボガノ
ヴィッチを捕まえようと考え逃亡し、ボガノヴィッチが護衛を付けずに狩りに出るところを待ちかまえて捕らえる。3人はボガノヴィッチを虐殺したイスラム教
徒のマルダの町に置き去りにする。ボガノヴィッチの姿を見たイスラム教徒らはボガノヴィッチに詰め寄るのだった。
(2009/11/27) |