「キングダム 見えざる敵」 評価★★★ サウジアラビアテロリストに
立ち向かうFBI捜査官
THE KINGDOM
2007
アメリカ 監督:ピーター・バーグ
出演者:ジェ
イミー・フォックス、クリス・クーパー、アシュラフ・バルフムほ
か
110分 カラー
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戦争映画と言うよりはアクション色の強い映画だが、サウジアラビアのテロ事件を題材にし、イスラムテロリスト対アメリカFBIとの戦いを描いたものであ
り、背景にはアメリカの対テロ政策やイスラム教徒の思念というものがシリアスに描かれている。たかだか4人のFBI捜査官がサウジアラビアに乗り込んで、
テロリスト集団を壊滅させてしまうという、ちょっと無茶な設定はいただけないが、爆破シーンやカーチェイス、銃撃戦シーンはかなりの迫力がある。多くの市
民やテロリストが殺害されてはいくが、さほどグロい映像もなく、映画のストーリー自体はさっくりと流れていくので比較的見やすい部類。冒頭のサウジアラビ
ア関連説明シーンが良い。
見所の一つはやはりアクションシーン。テロリストの情け容赦ない爆破、銃撃は背筋がぞっとするものがある。また、ジェイミー・フォックスを隊長とする
FBI捜査官のテロリスト掃討シーンも手に汗握る。米軍兵でも特殊部隊でもないのに、なんでこんなに強いのかという疑問は感じるが、その辺りは差し引いて
も余りある充実感がある。
もう一つは、イスラム社会における白人(アメリカ人)への敵意とアメリカ人の対テロへの考え方だ。9.11テロの主犯格にも多かったサウジアラビア人
は、厳格なイスラム法を守ろうとするワッハーブ派が根強く、王家とも対立し国際テロを引き起こしている。アメリカにとってもサウジアラビアとの友好関係を
保つ上でのネックとなっている。テロリストとアメリカの互いに根底にあるのは復讐観念であり、やられたらやり返すという報復の繰り返しがテーゼになってい
る。最終的にはFBIに協力するサウジアラビア警察だが、テロリストも内包する警察の対アメリカ、対テロのジレンマが微妙に描かれている。テロリストが生
まれる素地、そして平民の中にも混在する平和主義者とテロリストの縮図が見て取れる。また、石油権益での微妙なバランスを保つサウジアラビア王家の立場も
面白い。
確かに映画ではアメリカFBIの勝利で終わるのだが、決してそれでは終わらない悪循環への伏線も描かれ、継続されているアフガン、イラク戦争へのやりき
れない気持ちを強く感じる。そういった点では、単なるアクション映画では片づけない監督の意図がうまく表されていると言える。とはいえ、やはりアメリカ寄
りなのは間違いないが。
残念だったのは、FBI捜査官が限られた証拠の中で、テロリスト(犯人)探しを行っていくのだが、せっかく敏腕FBIが主役なのだからもっと謎解きシー
ンがが欲しかった。サスペンスものとして評価することも可能だっただけに、銃撃戦ではなく、FBIならではの捜査中心の解決方法の方が盛り上がったような
気がするのだが。
撮影のスケール感は大きく、所々に特殊効果も入っているようだが、それを感じさせない。アラビア文字が乱立する市街地シーンは、UAEのアブダビ撮影の
ようだ。登場する兵器類はさほど多くなく、ヘリではAH−64アパッチなど、地上では装甲車が一台登場する程度。興味深いのはサウジアラビア警察と国家警
察の軍装で、いかにも中東らしいタイトな制服だ。階級では少将、大佐、軍曹が見られる。
全体にまとまりのある映画で、十分見応えがあった。もう少し評価を上げたいところだが、設定や戦闘シーンにどうしてもフィクション感を感じざるを得ない
ので、こんなものか。
興奮度★★★
沈痛度★★★★
爽快度★★★★
感涙度★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
サウジアラビアの石油会社の従業員らが居住する外国人居住区で、警官を装った自爆犯
により大規模
なテロが発生。300人以上が死傷する大惨事となり、現地のFBI捜査官も死亡する。犯人はアルカイダ系のアブ・ハムザと目されたが証拠もなく、FBI捜
査官のフルーリーは現地調査を要望するが、国務省ら外交筋は穏便解決のためそれを許可しなかった。
FBI長官は独断でフルーリーにサウジ大使と交渉することを許し、フルーリー、爆発物専門家サイクス、法医学調査官メイズ、情報分析官レビットの4名が
5日間の期限でサウジアラビアに降り立つ。しかし、現地では外交官のシュミットが活動を制限し、サウジアラビア警察のアブダルマリク将軍によって体育館に
軟禁状態となる。
フルーリーらの対応はテロで部下を失ったアル・ガージー大佐で、部下のハイサム軍曹はテロリストを射殺したことで証拠隠滅容疑をかけられていた。当初は
フルーリーらの活動に目を光らせていたが、次第にFBI捜査に協力を始める。目撃者への聞き込みや、周辺ビルの捜索によりテロ犯人がアブ・ハザムと断定さ
れる。フルーリーは王子との会食の際に、ガージー大佐を捜査の責任者に推薦する。その甲斐あってガージー大佐とフルーリーらはアブ・ハザムの捜索に着手す
ることが出来た。
サイクスの努力により、爆破車輌が病院の救急車と判別され、犯人の一人のアジトを急襲する。そこで若者を数名射殺するが、アブ・ハザムではなかった。
シュミットはこれで捜査は終わりだとして、無理矢理フルーリーらを帰路につかせる。その移送中にガージー大佐とフルーリーらはテロリストの襲撃を受け、レ
ビットが捕まってしまう。捕らえられたレビットを追ってテロリストの本拠地に潜入したガージー大佐、フルーリーらは銃撃戦の末、斬首寸前だったレビットを
救出。さらに、家族といたアブ・ハザムを発見する。しかし、ハザムの親族によってガージー大佐が射殺され、やむなく親族とハザムを射殺する。
残されたハザムの孫娘に死に際のハザムが囁く「大丈夫だ、仲間が皆殺しにしてくれる」。一方、フルーリーがメイズにサウジアラビア行きを決心させた一言
も「皆殺しにしてやる」だった。
(2007/10/15) |