「サード・デイ ホラムシャハル攻
防戦」
評価★★☆ イラン・イラク戦争での市民
兵の戦い
THE THIRD
DAY/RAZ E
SEVOM
2007
イラン 監督:モハメド・ハッサン・ラティフ
出演者:プリア・パーソーコー、バラン・コサリほか
102分 カラー
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イラン・イラク戦争を舞台にしたアクション系ヒューマンドラマ。映画全般にはイラン市民兵の家族愛、友情を主題にしており、哀しい系の結末はヒューマ
ンドラマと言って良いだろう。だが、随所に、特に終盤部ではランボーばりのアクションシーンも登場し、本作の位置づけを不安定にしているのが特徴。イラン
製作と言うこともあり、愛国が前面に押し出されており、メイン視聴者であるイラン人を盛り上げるためにも派手なアクションシーンは欠かせなかったというの
が実情だろう。そういう意味で、若干リアリティに欠ける嫌いはあるが、それでもベールに包まれたイ・イ戦争の裏舞台を垣間見るという面ではレアな作品だと
言えよう。
本作の邦題にもなっているように、舞台はイラン・イラク戦争の序盤1980年9月から10月頃に行われたイラク軍によるイランのホラムシャハル市街占領
戦を描いている。ちょうどこの頃、イラン軍は革命防衛隊が組織されたばかりの時期であり、軍としては組織的な体制ができていなかったと言われ、交通・交易
の要衝ホラムシャハルでは市民兵が立ち上がって戦ったとされる。本作では、その市民兵が中心となりイラク軍と戦うのである。さすがに女性が戦うシーンはな
いが、まだ幼い少年が銃を持ち立ち向かっていく様は、祖国防衛という愛国心を大いに盛り上げる。
ただ、ストーリー全般にフラッシュバックシーンが多用され、役者の顔と名前が一致しないうえに、夜間影像シーンが多すぎて、顔の判別が困難なのが最大の
難点。誰が話しているのか、おまえは誰だ、というようなことも多く、映画に集中することができない。イラン人にはわかるのだろうが、日本人から見ると皆同
じ顔に見えてしまうのだ。
また、時代背景や戦闘背景の説明がまるでないので、ホラムシャハル攻防戦の基礎知識がないと、何の事やらわからないかもしれない。とりあえず、イラク兵
は残酷だということだけは強調されているが(笑)、イラン人がどれほど祖国防衛、ホラムシャハル防衛に力を注いでいるかの緊迫感が今ひとつ伝わってこな
い。前半部は特にややだらけ気味の展開なので、眠気を誘う恐れあり。
本作での見所は終盤部とも言えよう。先にも書いたが、ランボーばりのアクションシーンは、ある意味爽快で物悲しい。一人の女性を救うため、幾人もの男性
が辞世の弁を述べるシーンは、あまりにベタなんだが、思わずホロリ。アクション自体は、銃やRPG乱射といささか稚拙だが、まあそういう映画だと割り切っ
て見たい。
登場する兵器は当然イラン軍のものなので、アメリカ製M113装甲車、ソヴィエト製T-62戦車、BTR-80装甲兵員輸送車、ヘリコプターではイロコ
イが登場している。イラン映画ではおきまりの登場兵器だ。銃ではAK銃、RPGのほかドラグノフ狙撃銃も登場し、イラク軍戦車に立ち向かっている。
全般に悲惨度は高めでハッピーエンドとは言い難いので、そういうのが嫌いな人は見ない方が良い。あとは前半部の影像が暗いシーンが続くのだけが悔やまれ
る。まあ、前半部はさほど前ふりとも言える内容でもないので、アクション映画として後半部だけ見るのも手かも知れない。
興奮度★★★
沈痛度★★★★
爽快度★★
感涙度★★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
子供を車で轢いた罪で服役していたアミール・バハドリは、出迎えにきた妹が意気消沈
しているのを見て、妹を捨てた?レザに復讐をしようとホラムシャハルの街に向かう。
ホラムシャハルは、侵攻してきたイラク軍により最前線と化しており、イラン革命防衛
軍の手助けもなく、レザら市民が志願兵となって戦っていた。戦車など
圧倒的兵力に勝るイラク軍は市内に侵入しはじめ、レザや弟のラソールらはゲリラ戦に転じる。しかし、足を怪我していたレザの妹サミレフは兄の指示を守ら
ず、まだ家に滞在していた。やむなくレザはサミレフを家の庭に掘った穴に隠して、その場を退却する。防衛拠点に戻ったレザはラソールにサミレフの居場所を
聞かれるが、答えることが出来ない。
サミレフは家の庭に隠れていたが、その家に侵入してきたのは、かつて彼女に求婚して
きたイラク人のフォアド少佐の部隊だった。フォアド少佐はサミレフの
家だと知り、掠奪してきた部下をたしなめ、まだサミレフがいるのではないかと気を使う。しかし、サミレフは戦争が始まる前に、市内のテロ爆破事件でフォア
ドが絡んでいることを知り、結婚を断っていた。
レザはサミレフが心配になり、家に戻ろうとするが、途中でアミールと遭遇する。ア
ミールはレザを殺そうとするが、イラク軍に囲まれてなんとか脱出する。
再び、レザらは市内に戻るが、弟のラソールがイラク軍に撃たれて死亡してしまう。さらに防衛拠点がイラク軍に砲撃され、女子供が死亡する。
フォアド少佐の部隊に帰還命令が出て、サミレフの家から撤退する。サミレフは穴から
出るが、そこに忘れ物を取りに来たイラク兵にレイプされそうになる。
フォアド少佐は部下を射殺し、サミレフを助ける。そこにレザらイラン市民兵が到着し、銃撃戦となる。レザらはサミレフを奪還し、イラク軍の包囲網からの脱
出を試みる。フォアド少佐は命の補償はするから投降しろと呼びかけるが、レザもサミレフも応じない。
追いつめられたレザらはRPGを使った強硬突破を図り、孤児だったマジッドが死亡。
カールーン川に向けて逃げる一行をフォアド少佐はヘリで追いかける。
妻と別れたマレク、ラオーク、眼鏡の優男ノラーニが撃たれて死亡。サミレフを担いでいた革命防衛軍のモルテザ司令官も戦死。モルテザは子供があと2ヶ月で
生まれる所であり、父は勇敢に戦った伝えてくれと頼む。レザは残ったアミールにサミレフを頼むと言い残して、道を戻っていく。フォアド少佐はついに川を渡
ろうとするサミレフに追いつく。サミレフはフォアド少佐を撃ち殺すのだった。
(2008/09/10) |