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かぽんの戦争映画
一方的評論
 
「靖国YASUKUNI 評価★★ 中国人監督が見た靖国神社
YASUKUNI
2007  中国・日本 監督:リー・イン
出演者:ドキュメンタリー
123分 カラー 

 
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 上映中止問題も勃発した、中国人監督が製作した靖国神社をめぐるドキュメンタリー。内容が反日的であると右翼団体が騒いだり、文化庁文化振興基金助成に そぐわないと国会議員が問題視したり、出演者である刀匠や靖国神社が撮影時の説明と違うと出演場面カットを要請したりと、何かと物議をかもした問題作と なった。一方、上映中止や延期は言論の自由を侵害するものだという勢力も登場した。
 靖国神社といえば、首相参拝やA級戦犯合祀問題など中国・韓国らの政治的カードとしても使われ、国内政治・思想団体の論戦の対象ともなっているキナ臭い 施設であるが、元をただせば大東亜戦争に殉じた死者を祀る神聖な場所でもある。ただ、靖国神社の成立過程や戦後の靖国神社の立場の不明確さがあいまって、 様々な立場の人々や団体による価値観がそれぞれ一人歩きしてしまっているのが現状だと言えよう。従って靖国神社とは何なのだ、どうあるべきか、といった確 固たる回答を得ることは当面の間難しいような気がする。そうした中、中国人監督が靖国神社をどのように取り上げ、ドキュメンタリー化するのかは、あるいみ 興味深いところでもあった。

 結論から言えば、本作品はどうってことのない作品であった。昨今の中韓言論のような反日的な内容ではないし、思ったほど恣意的な誘導も感じられなかっ た。右翼団体、左翼団体、政治家、その他諸々のインタビューや映像をまんべんなく取り入れ、中国人監督にしては公平感を感じる内容であった。監督自身の意 見はほとんど挿入されず、ただただ靖国神社をめぐる映像を垂れ流している手法はドキュメンタリーとしては成功している。やや長めのワンシーンは、視聴者に それぞれ考えさせる時間を与え、映像の挿入も基本的に時系列となっているのが良い。
 だが、ドキュメンタリーとしては重みを感じることができなかった。その最も大きな要因は監督自身が何を感じたかという点の違和感である。そもそも本作は 靖国刀と呼ばれる日本刀を奉納する刀匠刈谷直治氏を中心に据えた二元的ドキュメンタリーという手法をとっており、監督自身も日本刀の神秘的な力と不思議な 靖国神社をドキュメンタリーとして捉えることにより日本人の心に迫ろうと試みたに違いない。しかし、刀鍛冶の伝統的技術と百人切り事件をからめて靖国神社 問題と結び付けようと試みても、結局それが融合することはない。当たり前のことだが、日本人ですら消化しきれない問題を中国人が理解できるはずもない。ま してや刈谷氏は刀鍛冶職人であって、それ以上でもそれ以下でもなく、靖国問題とはまるで関係がない。刈谷氏の職人気質らしい朴訥とした口数の少なさから監 督は結局何も導き出すことができないまま終わる。
 日本人の特性はよろず神信仰にあると思っているが、多くの日本人にとっては靖国神社は肯定でも否定の対象でもないだろう。家庭の中に仏壇と神棚が混在す るように、靖国の英霊に敬意を表するけれどもそれが全てではない。全ては自身の心の問題であり、行動や態度の相違は決して矛盾しないのだ。一元的信仰によ る単一価値観民族にとっては理解しがたいところであろうが、刈谷氏のインタビューはそのことを如実に表していた。中国人監督がそのことに気づき、ターゲッ トを絞っていたら良いドキュメンタリーになっていたかもしれない。
 従って、靖国問題を巡る騒動シーンのみが浮き上がってしまい、右翼団体も左翼団体もおかしな人々の滑稽シーンのオンパレードといった印象しか残らない。 台湾人女性議員の通訳が感極まって「神道はクソだ!」と叫んでみたり、式典に乱入した左翼青年に「中国に帰れ」と繰り返し叫ぶ中年らには失笑せざるを得な い。彼らは自己の主義主張を述べるために行動しているのであって、決して日本人の心を表明しているわけではない。日本人の心を祀る場所でありながら、日本 人の心ではないという滑稽さは中国人監督にとって非常に興味深いことであったろうが、結局それ以上の突っ込みや掘り下げには至らなかったようだ。
 いわば、本作は中国人から見た「おかしな日本」といったコメディドキュメンタリーといった位置づけに収まるだろうか。

 挿入された小泉元首相のコメントに「靖国参拝は個人の心(気持ち)の問題だ」とある。刀匠の刈谷氏も同様の意見であり、恒久の平和を願うために英霊に参 拝するのだ、という気持ちが全てではないだろうか。監督がそのあたりに気づいているのかどうかかわからないが、恣意的に排除したのならば偏向作品なのかも しれないし、気づいていないのならばその程度のレベルということになろうか。

興奮度★★
沈痛度★★

爽快度★
感涙度★

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(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)



(2008/07/26)