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かぽんの戦争映画
一方的評論
 
「アメリカばんざい Crazy as usual  評価★ 脱走兵とアメリカのホームレス事情
2008
  日本(森の映画社) 監督:藤本幸久
出演者:ドキュメンタリー
118分 カラー 

 
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 アメリカ海兵隊の新兵キャンプやイラク戦争帰還兵、脱走兵の姿を介して、ホームレスなどアメリカ格差社会の抱える問題をクローズアップしようとしたド キュメンタリー。アメリカのホームレスの三分の一が帰還兵なのだそうで、帰還兵や兵役拒否者、その家族など、多彩な人物が登場するが、全体的にはアメリカ のホームレス事情を描いたような印象が強い。一応、米軍による劣化ウラン弾の使用、民間人虐殺、軍病院の新薬モルモットなど闇の部分も取り上げ、アメリカ 批判、米軍批判を前面に出してはいるが、主題があちこちにブレがちで、以下にあげるような理由で、ひどく説得力に欠ける出来となった。映像的、内容的にも 映画である必要はほとんどないレベル。

 米軍の戦争後遺症(PTSD)や兵役拒否者(脱走兵)を扱った映画作品は近年増えており、PTSDでは「勇 者たちの戦場 (2006米)」「ア ルティメット・ソルジャーズ(2007米)>」「ジャー ヘッ ド・レスキュー(2007米)」、 兵役拒否では 「ス トップ・ロス 戦火の逃亡者(2008米)」などがある。それらに比べると、平和ボケ国家日本で製作された 本作はかなり甘い、浅いという印象は拭えない。取材対象の選定から始まって、その証言裏付け根拠、構成に至るまで、正直言って舐めてるのかという怒りさえ 覚えるレベルだ。まあ、協賛が連帯、国労などといった制作サイドの背景を考えればそんなもんだろうとは思うが。
 
 本作は貧困、格差を扱った題材ゆえに、登場する人物らはいわゆる社会の底辺層、アウトローに属する人たちだ。その彼らは軍や体制批判はするものの、非常 に感覚的・感傷 的で、理知的なコメントはほとんど見られない。もちろん、こうした人々を取り上げること自体は意味のあることだが、本作の支援者コメントなどでは「アメリ カのごく普通の人々を取材」などという表現も見られ、彼らがアメリカ社会の一般的意見のようにすり替えられていくのが気になる。どう みてもごく限られた特殊な人々でしかないように思え、彼らの偏狭な視点から、アメリカ社会の一般論に仕立て上げることには違和感を感じざるを得ない。彼ら がアメリカ社会の中でどのような立ち位置におり、どれくらいの割合を占めているのかがわからないことには、正確な理解には至らない。うがった見方をすれ ば、瑣末な出来事をことさら大事件に仕立て 上げようとしている風に見える。
 やはりドキュメンタリーとしてこうした問題を真面目に取り上げるなら、もう少し社会的に受容される知識層の意見は欲しいところだ。社会的に認知された証 拠や、 数字的なバックボーンをきちんと明示し、彼らと対極側の意見もきちんと取り上げて欲しかった。この作品では、社会弱者の愚痴にしか聞こえず、内 容が薄っぺらいのだ。個人主義、自分さえ、自分の家族さえよければいいという風にさえ見えてくる。
 ちなみに、脱走兵母子の例では、母親は息子を「スポーツ万能でとてもいい子だった。軍に入ってすっかり性格が変わった」などと言っ ているが、息子は「高校卒業後に職がなく、寄生していた祖母の家を追い出されて軍に入らざるを得なかった」のが実情らしく、「モンスター親子」の姿がちら ついた。他の登場人物も多かれ少なかれ同様だ。
 確かに、彼らのような考え方や生き方があるのも確かだし、尊重すべきだとは 思う。だが、実際の兵士たちの多くは、正しいか正しくないかはともかく、逃げる ことなく義務を全うしているのであって、こうしたドキュメンタリーで軍や貧困格差を批判するのであれば、両者を対比する作りこみにしないと、視聴者は公平 な判断ができないのでは。もちろ ん、端からそういうつもりがなく、単なる一方的アジテーション作品なら、別にそれでもいいんだが。

 また、本作では、PTSDや脱走兵の増加の背景に、貧困層を対象にした騙し的徴兵制度にあるとしている。確かにこれはその通りだろうと思うし、アメリカ 軍に限らず世界各国の軍でも同様の問題を抱えている。ただ、これだけ悲惨な状況と新兵勧誘の裏話があるにもかかわらず、何故アメリカ軍入隊の若者が途切れ ないのか。学費稼ぎや技能習得のために「貧困層が 騙された」というには余りに短絡的すぎるだろう。そこには、同胞としての義務と責任、人間の尊厳や友情といった、社会共同体を形成する上での最低限のルー ルというものが存在しているはずだ。本作には、日本人には理解できないアメリカ人のルールというものの視点がまるで欠落してしまっているのだ。あの、アメ リカ人の高慢とも言える愛国心とプライドを描かないことには始まらない。

 まあ、そういうわけで、ドキュメンタリー、映画としての価値はかなり低いと評価せざるを得ない。アメリカにはこういう底辺層(ホームレス)の人々がいる のだ、ということを知ることができるのは価値があるが、ただそれだけ。日本の危機的将来像(徴兵制?)に直結させようとする意図もあるようだが、本作から はそこに結び付けるのは、相当妄想力が逞しくないと無理だろう。脱走兵やPTSD兵士については、すでに多くの映画作品やドキュメンタリーでも描かれてい るし、そこに 内在する問題については様々な議論や問題提起がなされている。貧困層の入隊、戦争の不条理、アメリカの大義。そんなことはアメリカ人の誰もがわかりきって いることであり、葛藤し続けていることだ。よその国日本人が取り上げた ところで、大多数のアメリカ人は余計なお世話だと感じるのではないだろうか。
 もちろん、個人的には帰還兵のPTSDについては、かなり深刻な問題だとは思っているけども。

 余談だが、ラストシーンに出てくる海兵隊新兵訓練場面でのおチビな指導教官。八百屋のようなしわがれ声になっちゃって、ずっと新兵訓練で声張り上げてる のだろうな。でも、やさしく銃の持ち方直してあげたりと、とっても優しい。
 

興奮度★
沈痛度★★★

爽快度★
感涙度★

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(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)

  サウスカロライナ州の海兵隊新兵キャンプには毎週新兵がやってくる。教官の罵声のもと、髪を刈られ、電 話口で肉親に機械的なあいさつを絶叫させられる。
 イラク戦に参加し、少年を射殺しPTSDになった娘を持つアデール・クペインは、二度と娘を戦場に送らない決意を持ち、反戦を訴える。
 息子をイラク戦争で失ったシンディ・シーハンも、子供を失った母親の気持ちを語る。
 横須賀の海軍駆逐艦勤務だったパブロ・パレデスは日本人妻と結婚して、イラク派遣を拒否し服役させられた。今は兵士達の電話相談に乗っている。
 ダレル・アンダーソンはスポーツ選手だったが高校卒業後に職が無く、やむなく陸軍に入隊。イラクに派遣後、2度目の派遣を言い渡され、母親の説得によっ てカナダに逃亡。その後、アメリカに戻り、なんとか職を得る。
 湾岸戦争から従軍したデニス・カインは劣化ウラン弾に被爆し、そのことを訴えている。
 こうした、戦争後遺症や兵役拒否者にはホームレスになるものも少なくない。ホームレスの三分の一が元兵士で、ベトナム戦争の元兵士も多いが、最近はイラ ク戦争の元兵士が若くしてホームレスになるという。
 ワシントン州オリンピアにはホームレスの自主キャンプ「キャンプ・キホーテ」があり、支援組織「ブレッド&ローズ」には多くのホームレスが集まってく る。住所を与え、自立支援をしているが、そのボランティアの1人トム・スタンフィールドももとは麻薬中毒者でホームレスだった。アフガン、イラク戦に従軍 したスティーブ・ローレンスも逃亡兵となり、今はキャンプで職業訓練をする身で、子供が7人もいる。フィリピン出身のサージは元海兵隊員で、麻薬には手を 出さないが酒に溺れる。
 その自主キャンプではホームレス同士のいざこざも多く、二人のホームレスが殺害される事件も起こる。また、ホームレスには政府の支援を切られた精神障害 者たちも多いという。
 アメリカ国内の基地の放射能汚染も問題となっている。ケリー空軍基地では労働に従事していた地域の住民がガンなどで次々に死去しているという。
 軍の新兵勧誘所前では老婆達が座り込みをする。何度も逮捕されながらも嬉しそうに座り込む老婆達。
 新兵キャンプでは新兵達が次第に一人前の兵士になっていくのだった。


(2009/1/30)