「縞模様のパジャマの少年」
評価★★★ 収容所でのドイツ人少年とユダヤ人少年の交流
THE BOY IN THE STRIPED PYJAMAS
2008
イギリス・アメリカ 監督:マーク・ハーマン
出演者: エイサ・バターフィールド、ジャック・スキャンロン、アンバー・ビーティ、デヴィッド・シューリスほか
95分 カラー
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第二次世界大戦時、ナチスの設置したユダヤ人強制収容所における、ドイツ軍人の子供と収容されたユダヤ人少年の交流を描いたヒューマンドラマ。ジョン・
ボインの小説「縞模様のパジャマの少年」の映画化で、小説自体はかなり泣けるらしい。だが、映画化された本作は衝撃的な結末の是非もあり、どちらかという
と泣ける映画と言うよりはサスペンスフルな作品と言ったほうがいいかもしれない。
ユダヤ人強制収容所における虐殺(ホロコースト)は、今なおくすぶる根の深い問題だが、本作で扱ったホロコーストの位置づけはなかなか微妙だ。まず、本
作が小説をベースにしたフィクションであることから、ホロコースト問題に創造を入れる危険性を内包している。ドイツ人にとってもユダヤ人にとっても余り過
敏な対象だけに、一言一句に重みと責任が伴ってしまうのだ。従って本作にとって社会派風刺としての位置づけは極めて厳しいものとなる。
また、小説を忠実に描いたと見え、無垢なドイツ人少年のホロコーストに対する無知、ユダヤ人少年の収容所生活、少年の姉の愛の芽生えと右傾化、収容所長
の父の葛藤、家庭に問題を抱えた親衛隊部下、ホロコーストに拒絶反応する母と祖母など、それぞれに奥深いエピソードがいくつも並べられる。これら一つ一つ
には史実の中で様々な事象や影響があって成り立った出来事が背景となっており、それだけで十分に映画化できそうなものでもある。だが、本作では時間の関係
か、各エピソードに掘り込みがほとんどないので、実に薄っぺらな作りとなり、ホロコーストが間近にあるにも関わらず緊迫感、真実味がない。
以上の点から、本作は一見ホロコーストを扱った社会派戦争映画のようにも見えるが、むしろ奇想天外な顛末を楽しむサスペンスドラマなのではないかとさえ
思う。ホロコーストはただ単にその素材に過ぎない。むしろ、無知でホロコーストについて何も知らない少年の視線というのであれば、徹底的にそれに特化して
しまえば良かったような気がする。ドイツで起こっている事柄、父や家族が考えていることなどをもっとオブラートに包み、謎解きのような形で展開させれば、
フィクションでもサスペンスドラマとして成り立ったかもしれない。そのあたりはかなり中途半端なぬるい感じは否めない。
さて、もう一つの問題はラストの衝撃的な顛末だ。正直驚きはあるのだが、ホロコーストを社会風刺的に描いたつもりならば、実に下品な結末という印象だ。
それまで時代背景や状況説明の描写が浅く、のっぺりと流れてきた映画の流れを一気に昇華させたつもりだろうが、本作がフィクションであることを考えると、
余りに恣意的な操作に思えてくるのだ。しかも、何とも稚拙で下品な表現なのか。多分小説ならば許されるのだろうが、映像は直接的に視聴者に語りかけるため
に、非リアリティと衝撃のバランスに不快感を感じるのだ。
また、全編英語と言うのも違和感がある。やはりドイツ語であってこそホロコーストの雰囲気を醸し出すのだろう。このあたり、英米で製作したホロコースト
という点で、製作側に何か肝心の緊迫感が抜け落ちていたのではないかという印象を得た。オープニングをはじめ、叙情的な映像やカット割りには秀逸なものも
あっただけに、誰に何を訴えかけるかといったあたりでもう少し練りこまれていれば・・・・。
登場する兵器はドラマ仕立てのためない。銃撃シーンもないし、虐殺などのグロい場面もほとんどない。軍装ではSS(武装親衛隊)パッチだった中佐(父)
が収容所長に異動になった時点で収容所?パッチに変わっているのが細かい考証がなされていることを示唆する。
ロケ地はハンガリーのブダペストだそうで、旧ドイツ風のイメージが残されているのはさすが東欧なのだなと思わせる。ただ、映像はかなりきれいに映されて
いるが、全般にスケール感はあまり感じられない。収容所などのセットを作るのに経費がかかったのだろうが、国土の広がりというイメージはあまりない。
興奮度★★
沈痛度★★★★★
爽快度★
感涙度★★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
ドイツのベルリン。無邪気な少年ブルーノたちが駆け抜けていくかたわら、ユダヤ人たちがドイツ兵に強制収用されている。ブルーノの父ラルフSS中佐はドイ
ツ郊外の強制収容所長昇進異動のためお祝いパーティと引越しの準備を進める。ブルーノは友人と会えなくなるのが嫌だったが、母エルサ、姉グレーテル、お手
伝いのマリアとともに引っ越すことに。パーティでは親ナチスの祖父がラルフを賞賛するが、祖母はそんなラルフに嫌悪感を抱いていた。
引越し先はガランとした建物で、親衛隊の部下が多数勤務している。友人もおらず、屋敷の外へ出れず、学校は週2回先生がやってくる退屈なものだった。ブ
ルーノの部屋の窓からは農場のような建物が見え、大人子供がいるのが見えた。ブルーノはその子供たちと遊ぶことを望むが、彼等は一様に縞模様のパジャマを
着、父も母も交流することを良しとしなかった。家のキッチンにも一人の老人ペヴェルが働いており、彼もパジャマを着ていた。冒険心豊かなブルーノは何とか
外に出たいと思うが、ある日タイヤで作ったブランコで遊んでいて、農場の煙突から黒煙が出ているのを見ようとして落下。怪我はペヴェルが治療してくれた。
母エルサはペヴェルにお礼を言う。次第に縞模様の人々は収容されたユダヤ人だとわかってくるが、ブルーノには何故なのか、何をしているのかがわからない。
ブルーノは密かに屋敷を抜け出して収容所の鉄条網に行き、そこで同じ8歳のユダヤ人少年シュムールに出会う。シュムールに興味を持ったブルーノは食料を
持っていったりと交流を深める。
そんな折、母エルサは部下のコトラー中尉から黒煙がユダヤ人を燃やしていることを聞き、ラルフに激怒する。次第に母エルサはラルフの行為に嫌悪感を抱く
ように。祖父が来たある日の晩餐でペヴェルがワインをこぼし、コトラー中尉はペヴェルに暴力を振るう。父ラルフはそれを停めようともしない。ブルーノとエ
ルサは父の行為が正しいのかどうか不安感を抱く。姉グレーテルは次第に右傾化していく。
ある日、シュムールがグラス磨きのため屋敷にやってくる。ブルーノは話しかけお菓子を与えるが、そこにコトラー中尉がやってきて叱責。ブルーノはお菓子
をあげたことを言えずに、シュムールは懲罰を受けてしまう。その後、収容所に行くもシュムールの姿はなかった。
コトラー中尉は晩餐の際に彼の父が文学者でスイスに亡命したことを漏らしてし
まい、ラルフは報告をしなかった罰でコトラーを前線に送ってしまう。また、ベルリンが爆撃を受け、祖母が死亡する。
母エルサはこの地にいることを拒否し、子供
たちと別の場所にいくことに。ようやくシュムールと仲直りしたブルーノは最後に、収容所内でいなくなったシュムールの父を一緒に探すことにする。シュムー
ルの用意したパジャマに着替え、穴を掘って収容所内に入るが、突然集合をかけられブルーノはシュムールたちと一緒にガス室に押し込まれてしまう。
引越しのためブルーノを探す母と姉は父ラル
フにも報告。兵たちとともにブルーノを探すと、鉄条網にブルーノの衣服を発見。ラルフは収容所内を探すが、そのときガス室にはガスが注入された後だった。
(2010/11/18) |