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かぽんの戦争映画
一方的評論
 
「私は貝になりたい  評価★★★★☆ 戦犯容疑で処刑される男の叫び
2008
  東宝 監督:福澤克雄 脚本:橋本忍
出演者:中居正広、仲間由紀恵、草薙剛、笑福亭鶴瓶、石坂浩二ほか
139分 カラー 

  
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 1958年にテレビドラマ、1959年に映画として製作され、「生まれ代わらなければならないのなら、私は貝になりたい」と言う名フレーズで、戦犯容疑 で処刑される二等兵の悲痛な叫びを描いた著名作のリメイク。当時も脚本及び監督を務めた橋本忍が、当時黒澤明監督に「これでは貝になれないんじゃないか」 と酷評されたシナリオを50年経って書き直したという力作。前作ではフランキー堺のコメディ調でありながら二等兵らしい沈痛さを表現した主役を、スマップ の中居正広が演じるという大抜擢がどうなるのかも興味がそそった。

 結論から言うと、私の予想を反してかなりの上出来。前作で深みが足りなかった点をことごとく補足し、雄大な映像と情緒豊かな音楽でさらにパワーを増して いる。戦後間もない雰囲気と、人々の言動やたたずまいを果たして再現できるのか、という私の不安は見事に消し去られた。確かに、本作では前作に見られた、 いかにも「昭和」という口調も佇まいも感じられはしなかったが、そのことをまるで気にする必要のないほどストーリーに没頭し、登場人物に感情移入できた。 見事に現代風にアレンジされたと言って良いだろう。
 ストーリーや会話の大部分は前作とほぼ同じだが、「貝になりたい」という意識をより深く感じさせるためのシナリオがかなり追加されており、前作に比して 50分も長くなっている。どうしても現代人にとっては、何故妻や子供への情愛を超越して「貝」なのかが理解しにくいと思われ、例えばもう一度妻や子どもと 生活したいという方がわかりやすいだろう。しかし、「貝になりたい」が一人歩きしている以上、そこを変えるわけにはいかず橋本忍も腐心したと思われる。
 追加は主に妻や子供とのふれあいや愛情シーンとなっており、主人公清水豊松と妻房江の出会い、嘆願書署名集めに妻が奔走するシーンが効果的だ。また、今 作では二人目の子供の存在や、巣鴨への面会では子供を連れてくる設定に変更され、ひときわ涙を誘う。これだけ愛し、大切な妻子への思いを描くことによっ て、「妻や子供を心配することもない(貝になりたい)」ほど絶望したことをクローズアップしている。とは言え、かなり難解であることは確かで、一緒に見に 行った同行者は余り理解できなかったようだ。その点で、完全に成功したとも言い難いのが減点要素か。
 また、その他の登場人物の性格付けも強化している。中部軍司令官の矢野中将のセリフが増えており、米軍による民間無差別爆撃への怒りと捕虜処分への契機 をしっかりと描いた。この矢野中将は一人責任を取ろうとし、部下の減刑と仏教に傾倒するのだが、このあたりは「明日への遺言(2008)」の岡田資中将の姿とオーバーラップするものがある。さらに巣鴨プリズンの看守ジェ ラーが戦犯容疑者に情を手向けるシーンや嘆願書の200人目となる折田俊夫の人情シーンなどは、ややもすると暗さ一辺倒になりがちな映画に幅と深みを与え ている。
 このほか、細かい設定変更がなされており、前作と同じセリフながらも喋る役者を変えたり、シチュエーションを変えているところもある。特に顕著な変更で はないが、より一層スムーズなストーリーになるよう工夫した跡がみられる。

 映像では、島根県で撮影されたという断崖などの風景は美しさとスケール感を感じる。また、床屋のある漁村セットや巣鴨プリズンも細かく作りこまれている 感があって良い。巣鴨の焼け野原や空襲シーンはCGも多用していると思われるが、かなり良質。また衣装関係、特に軍服はかなり芸が細かい。中居君らが背負 う背嚢の革ひものひび割れた劣化具合や、各個人のカーキ色の微妙な差や丈の差は見事だ。本当にリアルだ。
 音楽関係はほとんど耳に残っていないが、久石譲による音楽がそれほど自然に溶け込んでいたということだろうか。

 さて、全般に感動と涙を与えてくれる良作だったわけだが、減点要素としてはやはり主役のキャスティングだ。召集されて以降の中居君の演技は決して駄目で はないし、むしろラストシーンでの気迫こもる演技は素晴らしかったが、所々に見せる軽さが気になった。日頃のバラエティ番組で見せる顔の刷り込みが強すぎ るのだろうか。妻房江役の仲間由紀恵は好演技だったが、ちょっと美人すぎたかな(笑)。このほか、同房者を演じた草薙や鶴瓶の演技は前作以上と言え、悪く なかった。

 なお、本作は中部軍管区における撃墜されたB-29爆撃機搭乗員の米兵殺害事件である。主人公の所属部隊は第3方面尾上部隊で、大隊長尾上中佐、中隊長 日高大尉、小隊長安達少尉、分隊長木村軍曹、班長立石上等兵の部下である。末端の二等兵が「上官の命令は陛下の命令」として捕虜殺害実行を命じられ、戦犯 として処刑される悲劇は救いようのない絶望を感じるが、唯一の救いは本作が実話ではないという点だ。原作は実際にBC級戦犯だった加藤哲太郎だが、彼が拘 置所で見聞きした体験をもとに遺言形式にしたものがベースとなっており、ストーリーの大部分は橋本忍による脚色である。二等兵で絞首刑となったり、再審請 求が認められずにいきなり処刑が実話ではあまりに哀しすぎるから、その点は差し引いて見た方が後味が良い。
 似たような戦犯の悲劇を描いた映画としては「巣鴨の母(1952)」、B-29搭乗員捕虜を扱った異色作では大島渚監督の「飼育(1961)」や「海と毒薬(1986)」などがある。

 最後に、本作で私は結構涙腺が緩くなった。妻子が面会に来て息子が指を差し入れるシーンや、同房者大西が礼を述べて去っていくシーン、嘆願署名の200 人目のシーンなど、ほとんど製作者の企図にはまった感はあるが(笑)、こうしたシーンの盛り上げ方や間の取り方はなかなかうまい。監督が橋本忍ではなく、 福澤監督だったのも良かったのかもしれない(笑)。

興奮度★★★
沈痛度★★★★

爽快度★★
感涙度★★★★★

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(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)

 土佐の高知で床屋を営む清水豊松は妻房江と息子の健一と細々と暮 らしていた。かつて二人は恋に落ち、店を勘当されてこの土地でようやく店を持ったのだ。戦局は悪化しており、友人の酒井正吉が応召されるが、間もなく豊松 のもとにも町役場の竹内が赤紙をもってやってくる。豊松も房江もショックを隠せないが、豊松は房江に髪を坊主に刈ってもらい、入隊していく。
 軍では二等兵として教練を受けるが、脚の不 自由な豊松は、動作の鈍い滝田とともに班長の立石上等兵に目を付けられる。400機ものB-29による空襲の日、高射砲により撃墜された1機の米軍搭乗員 が数名大北山中に落下傘降下する。中部軍司令官の矢野中将は、民間無差別爆撃の米軍に怒りを覚え、国民士気にも関わることから捕虜の捜索と処分を尾上部隊 に命じる。尾上中佐はすぐさま配下の日高中隊に捜索を命じる。日高大尉の中隊は大北山山中に入り、豊松らが属する足立少尉の小隊が米兵を発見する。しか し、一人はすでに死亡、2名も意識不明の重症となっており、処分を処刑と判断した日高大尉は新兵教育の一環として2名の米兵銃剣刺殺を命じる。足立少尉、 木村軍曹を経由して立石上等兵が最も頼りない豊松、滝田二等兵の2名を選抜。二人は銃剣刺殺を命じられるが、なかなか刺せない。しかし、殴られたあげく再 度の銃剣刺殺を敢行させられる。

 日本は敗戦となり、豊松は無事床屋に戻る。 二人目の子供も宿し、闇市の仲介役などをしながら生計を立てているところに、MPを連れた県警察のジープがやってくる。米兵捕虜殺害の罪で戦犯容疑者と なったのだ。BC級が集められた横浜軍事裁判所では矢野中将が自分の罪だと認めるものの、それ以下の将校、下士官らは罪や命令を否定する始末。日高中隊長 は終戦ととともに自決していた。豊松は言葉の通じない軍事裁判と、日本軍の絶対命令指揮系統を理解できない連合軍裁判員に悩まされ続ける。結局、矢野中将 と尾上中佐は絞首刑、足立少尉は終身刑、木村軍曹と立石上等兵にはそれぞれ30年と15年の重労働が課せられる。豊松と滝田はさらに軽い罪かと思ったが、 なんと絞首刑を命じられる。
 死刑囚のみ集められた建物に豊松は収監さ れ、ボルネオで犯した罪で収監されている大西と同居となる。自殺者が出るため2人制となっているのだ。大西は聖書を読み心を落ち着かせている。木曜日の 朝、収容所中に読経の声が響き始める。木曜日の朝になると処刑者のチェンジブロックが行われるのだ。その朝は大西が連れていかれてしまう。収容者らに別れ の挨拶をし、讃美歌を歌いながら大西は出ていく。次に同房者となったのは英語が堪能な西沢だった。西沢は英語でマッカーサー元帥やアメリカ大統領に再審申 請書や嘆願書を書いていた。豊松もまた西沢にならって書き始める。
 ある日、中庭の散歩で豊松は矢野中将に声を かけられる。しかし、自分の罪を命令した張本人であり無視する。矢野中将は看守のジェラーを使って何度も訪問を頼んでくる。根負けした豊松は矢野中将の訪 問を受け入れる。以外にも矢野中将は豊松に詫びを入れ、自分一人を処刑し、関係の部下の減刑嘆願書を出したと告白する。心を打たれた豊松はその後たびたび 矢野の部屋を訪れるようになり、そこで教誨師の小宮と出会う。そして、矢野中将は絞首刑を執行される。
 小宮は豊松が絞首刑であることを高知の妻房 江に伝えていないことを知り、真実を手紙にしたためる。はじめて真実を知った房江は3日かけて巣鴨にやってくる。妻子の顔を見て泣き崩れる豊松を看守の ジェラーが支える。ようやく落ち着いた豊松ははじめて見る娘の直子の指にキスをし、息子の健一の指にもキスをする。
 矢野中将の絞首刑ののち、処刑が途絶える。 1年間の中断により戦犯の間にも安堵感が生まれ始め、さらに講和条約締結の話も浮上してくる。豊松は再審申請書を提出済みだが、さらに200名の嘆願書が あると良いことを房江に話す。房江は無茶を承知で雪の中、200名の署名を求めて歩きまわる。街の友人や知人の協力を得て、やっとの思いで200人目折田 俊夫のもとにたどり着くが、極寒の中運悪く不在だった。その帰途途中で折田は房江の姿を見つけ、その場で署名するのだった。房江は署名を持って豊松のもと に届ける。そして、いよいよ釈放だと床屋の椅子の新調の相談をするのだった。
 木曜日。豊松は看守のジェラーにチェンジブ ロックを命じられる。西沢は減刑だと大喜び。他の収容者たちも豊松の減刑を大喜びする。しかし、所長室で聞かされたのは絞首刑執行だった。あまりのショッ クと絶望で豊松は動けなかった。教誨師の小宮との晩さん会で葡萄酒を飲み、ようやく遺書を書き始める。そして、嗚咽するジェラーの脇を通り、処刑台の13 階段を上っていくのだった。
「せめて生まれ代わることが出来るのなら。い いえ、お父さんは生れ代わっても、もう人間になんかなりたくありません。人間なんて厭だ。牛か馬の方がいい。いや牛や馬ならまた人間にひどい目にあわされ る。どうしても生まれ代わらなければならないのなら、いっそ深い海の底の貝にでも。そうだ、貝がいい。貝だったら、深い海の底の岩にへばりついているか ら、何の心配もありません。兵隊にとられることもない。戦争もない。房江や、健一のことを心配することもない。どうしても生まれ代わらなければならないの なら、私は貝になりたい」

(2008/11/23)