「戦火の最前線 バルジの戦い」
評価★★★☆ ジークフリート線で死闘する第94師団兵
everyman's
war
2009
アメリカ 監督:ザッド・T・スミス
出演者:コール・カーソン、エリック・リード、マイク・ブロッサー
ほか
105分 カラー
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第二次世界大戦時のヨーロッパ戦線、バルジの戦いを背景にアメリカ陸軍第94師団の凄惨な戦いを描いた、シリアス系戦争映画。近年では久しぶりの本格派戦
争映画だ。ただ、監督も役者も聞いたことのない無名が多く、そんなに資金をかけた大作ではないようだ。その割にと言っては何だが、良くできている部類だ。
脚本がスミスという人物で、主人公もスミスという名のところから類推するに、ある程度実話に基づいた映画である可能性があり、確かに史実に沿った良くでき
た内容と言えるだろう。しかも、これまでにバルジの戦い(アルデンヌ攻勢)を題材にした映画は数多くある中で、第94師団という表舞台にほとんど登場しな
い部隊を主役に扱っているという点では、戦争史的にもミリタリー的にも大変興味深いものとなっている。
バルジの戦いは連合軍対ドイツ軍の最後の大攻防戦となった戦いで、1944年の12月から2月にかけてドイツ国境近くのフランス、ベルギー、ルクセンブ
ルグの森林地帯で行われた。雪深い厳冬期のうえに防御線や補給線の伸びきった米英軍に対して、ドイツ軍が機甲師団も投入した最後の大攻勢に出たのだ。多く
の米兵が死傷し捕虜となったが、パットン率いる機甲師団などの応援部隊によってなんとか撃退するのだ。映画としては「戦
場
(1949米)」「攻
撃(1956
米)」「バルジ大作戦(1965米)」「真
夜中の戦場/クリスマ
スを贈ります(1992米)」「プ
ライベート・ソルジャー(1998米)」「極
寒激戦地アルデ
ンヌ〜西部戦線1944〜(2003米)」「バ
ンド・オブ・ブラザーズ(2001
米)」あたりが有名どころだが、いずれも第28師団、第90師団、第101空挺師団など当初に最前線にたった部隊を題材にしている。
本作の主役は第94師団で、バルジの戦い開始からやや遅れてフランス入りし、1945年の1月になって疲弊した第90師団らと交代している。最も激しい
戦いはドイツ国内のジークフリート線に立て篭もるドイツ軍と、1月20日頃にオルショルツ(Orscholz)の村で攻防戦を繰り広げている。本作では明
確な日付が出てこないが、クリスマス以後のことで、オルショルツ近辺のテッティンゲン(Tettingen)やネニッヒ(Nennig)、モーゼル
(Mosel)といった地名が登場するので、ほぼこの攻防戦を題材にしていると考えてよいだろう。そういう意味ではかなり史実に沿っていると思われる。
ストーリーは第94師団に召集される1943年から始まり、1944年9月に英国に渡り、バルジの戦いに向かっていく。主人公のドン・スミスを中心に同
じ小隊に属する兵隊たちの過酷な戦いが描かれる。やや主人公の邂逅録的なイメージもあるが、戦史的な流れもしっかりしているので悪くない。戦闘シーンの割
合や描かれるエピソードの数はそう多くないため、やや薄っぺらい印象はあるが、無駄なシーンや会話も少なく、全体によくまとまっている。戦史を追っていく
だけでなく、友情や人情、恋愛も適度に盛り込まれており、かなり盛りだくさんだ。ただ、ユダヤ人に対する描写だけは恣意的なものが感じられ、蛇足感があっ
た。また、日付や戦闘シーンの背景描写がほとんど説明されない点もちょっと残念。戦史に詳しくないと、理解できない部分もあるかも。
役者は無名の割に、人物の性格づけにあった個性のある演技がなされ、スムーズだ。ドイツ兵の描写も出てくるが、きちんとドイツ語を話しているのも好感。
戦闘シーンは、やや資金がなかったのか派手さに欠けるのと、戦車などの大型兵器類が模型なのが残念。小銃の銃撃シーンはなかなかの出来だが、重火器類の
火薬使用量がもう少しあれば、臨場感が増しただろう。
ロケはほとんどアメリカ国内で行われたようだが、バルジの森のイメージや寒さは良く出ている。軍装はやや小奇麗な感じはあるが、袖パッチはきちんと94
師団のものをつけている。なお、主人公の所属する連隊は第301連隊と思われる。兄弟連隊には302と376連隊があり、本作中にもたびたび名称が登場し
ている。一方、ドイツ軍側は110連隊の名称が出てくる。
登場する兵器類はさほど多くなく、小火器類以外ではドイツ軍のIV号戦車があるが、これは模型か改造車のようだ。
全般に程よくまとまった作品といえ、バンド・オブ・ブラザーズの続編といった雰囲気を感じた。もう少しインパクトがあっても良かったが、何といってもレ
アな師団を取り上げた作品としては大変貴重だといえる。
関連するサイト情報
第94師団のサイト
http://www.criba.be/index.php?option=com_content&task=view&id=155&Itemid=41
オルショルツ付近の1944年11月頃の戦線配置図
http://www.ibiblio.org/hyperwar/USA/USA-E-Lorraine/maps/USA-E-Lorraine-XXXVI.jpg
オルショルツ攻防戦のサイト記事
http://www.ibiblio.org/hyperwar/USA/USA-E-Lorraine/USA-E-Lorraine-11.html
オルショルツ付近の地図
http://mapper.acme.com/?ll=49.701389,6.569722&z=15&t=M&marker0=49.701389,6.569722,Moselle-Saar
興奮度★★★★
沈痛度★★★★
爽快度★★
感涙度★★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
アメリカに住む老人ドン・スミスのもとに一
通の手紙が届く。それは友人フラーが死亡したとの連絡で、スミスに対する最後の言葉は「3発以上は欲しかった」というものだった。
1943年、ヨーロッパ戦線に参加しようとするアメリカは徴兵を開始する。カンザス州では農夫の息子フラーが19歳で徴兵されていく。ニューヨークシ
ティでは盗人のアンジェロ・ベネデトが公判中に罪の免除の変わりに軍への志願させられる。マサチューセッツ州のボストンではガソリンスタンドで働くドイツ
系アメリカ人のハインリヒが、世間の偏見を目を浴び、自分はアメリカ人だと軍に志願する。ニューヨーク州サケッツハーバーではスタークス伍長が妻と子供を
残して再び軍に従軍していく。オレゴン州フォレストグローブの木材工場に働くドン・スミスは、知り合った娘ドリーンとダンスパーティの約束をするが、仕事
で遅れてしまう。自分のことを好きかどうか図りかねるスミスに、召集令状が来る。ドリーンは音楽大学に合格し、スミスは明確な告白もできずに出征してい
く。
9月になり、94師団第301連隊に配属された彼等は徴用船クイーンエリザベス号で英国に渡る。さらに10月にはフランスのサンナゼールに移動し、ドイ
ツ軍との戦闘に直面していく。
当初はドイツ軍との戦いの緊張もなかったが、次第に最前線になるにつれ死傷者の姿や砲撃などで緊張感が高まる。ドイツ軍はノルマンディ以降の連合軍の攻
勢により、5万人の兵が要塞に篭って応戦していた。94師団はこれに対峙し、スミスらは掩蔽壕に篭って防御線をひいている。ドイツ軍は夜間になると
88mm高射砲や迫撃砲による砲撃を加え、歩兵攻撃に出てくる。
この日もドイツ軍の攻撃は始まり、スミスらは反撃を開始する。しかし、ベネデトだけは抜け出してフランスレジスタンスのモリスのもとへ盗品の商売に出か
けており、目の前でモリスが直撃段を受けて戦死する。敵の迫撃砲や沿岸砲から逃れるために、敵の観的手を狙撃するためスミスらは狙撃兵を探して攻撃する。
観的手がやられたドイツ軍は撤退していく。
ある日、後方で休養ととったスタークス伍長とスミスは前線に戻っていくが、突然のドイツ軍の砲撃でスタークス伍長が戦死してしまう。スミスは遺体から家
族の写真を見つける。スミスはずっとドリーンへの手紙を持ち続けているが、出す気にならない。自分のことを好きかどうかわからないうえに、戦争での嫌気が
そうさせているのだ。
スミスはM中隊本部の中尉に呼び出される。そこには窃盗の容疑で捕まっているベネデトがおり、スミスは営倉入りされそうなベネデトを必要な人材と擁護し
て救ってやる。そして中尉から伍長昇進を言い渡される。しかし、スミスは昇進を重荷に思い、気が進まない。部隊はドイツ国境を突破した第376連隊の支援
のため最前線に向うことに。
補充兵のハインリヒが加わり、スミス、フラー、ハインリヒ、ベネデトらは301連隊と交代のためにドイツ軍と対峙する丘の南端の砲床やポンプ室のそばに
移動する。
ドイツ軍は連合軍部隊が交代中で防御が手薄な今、最後の攻勢を図ろうとする。ループレヒト少佐の連隊はモーゼルへ展開し、110連隊はテッティンゲン攻
撃、戦車隊はネニッヒの南北に展開して包囲する計画だ。
その日の早朝、スミスは交代して前線の蛸壺に入る。しかしここにはバズーカ砲も無線もなく、敵戦車が来たらどうしようもないと思った。その不安が的中
し、4時にドイツ軍IV号戦車が進撃を開始する。戦車の音を聞いたスミスは、ポンプ小屋にいる仲間に知らせようと壕をでるが、途中で戦車に乗ったドイツ兵
に見つかる。銃撃をなんとか逃れポンプ室に向うが、その直後戦車の砲弾が炸裂する。爆風で吹き飛ばされたスミスはようやく身を起すが、周囲ではドイツ兵に
味方が撃ち殺されていく。ベネデトやハインリヒは怪我をし、後方に移送されていく。ライリーは戦死し、フラーは土砂に下半身を埋められていた。掘り出そう
とするスミスだが、掘り起こせず、スミスはフラーに拳銃を渡して後退する。必死に走るスミスだが、地雷原に足を踏み入れてしまう。そこを必死に突破する
が、追ってきたドイツ兵に腕を撃たれてしまう。なんとかもがきながら逃げるスミスを、ドイツ兵は見逃してやる。
怪我から復帰したスミスは軍曹としてM中隊に戻る。その後も94師団は一度の失敗もなく快進撃し、1945年にはドイツ・チェコ国境に達する。そこでス
ミスは一人のドイツ人捕虜をみつけ移送するが、ドイツ人はヒトラーを嫌い、ユダヤ人の妻子が収容所送りになったとして、悲観し自殺してしまう。
戦後、本国に戻ったスミスは駅で一人のドイツ人と会う。自殺したドイツ人の手紙を読んでもらい、送り主に返したいと言うが、ドイツ人は送り主はもはやこ
の世にいないだろうというのだった。
その後、スミスは帰りを待っていたドリーン
と結婚する。そして送らなかった手紙をみせるのだった。
戦後、ハインリヒはボストンで牧師となり、
1970年交通事故死。ベネデトは戦死。フラーは捕虜となり、帰国後農場をついで2006年死去。
(2010/09/30) |
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