「グリーン・ゾーン」
評価★★★ イラクでの大量破壊兵器捜索の謎
GREEN ZONE 2010
フランス・アメリカ・スペイン・イギリス 監督:ポール・グリーングラス
出演者:
マット・デイモン、グレッグ・キニア、ブレンダン・グリーソン、エイミー・ライアンほか
114分 カラー
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実際の話、イラク戦争後、結局見つからなかったイラクの大量破壊兵器だが、それをネタにサスペンスアクション映画にしてしまったのが本作。もともとイラク
の大量破壊兵器保有疑惑についてはアメリカ政府捏造陰謀説、CIA誤認説、サダム・フセイン詭弁説など様々な憶測を呼んできたが、本作では政府の一部の高
官による陰謀ということになっている(笑)。内容が内容だけに、アメリカ政府やアメリカ軍的にはなかなかきな臭い映画だと思われるが、まあどちらかという
とアクション映画メインの作りなので、社会的風刺や告発といった観点はかなり薄いと言えるだろう。
本作は2003年のイラク戦争後、米軍とUNMOVIC(国連監視検証査察委員会)による大量破壊兵器捜索活動を舞台にしている。米軍は移動探索班
(MET)を組織して、情報提供された大量破壊兵器保管地を捜索していく。まだ、当時はイラク軍も正式に解体されていない上、スンニ派を中心とした抵抗勢
力が存在していたため、かなり危険な任務であったらしい。表題のグリーン・ゾーンは、当時バグダッドを中心にした安全地域をこう呼んでいたことからついた
らしいが、郊外の危険な任務に比して、グリーゾーンの政府高官たちは優雅な日々を送っていたという皮肉も描かれている。
また、本作はCIAが好意的に描かれているのも興味深い。何か思い入れがあるのだろうか。
ストーリー的には、サスペンス展開も程よく刺激的で、時間が経つのが早く感じた。ただし、内容がフィクションであるために、イラク戦争というシビアな話
題の割りに軽々しく描かれることに、多少の違和感は感じた。また、主人公のMET指揮官であるミラー上級准尉が、アクションもの主人公らしく熱血漢である
ことは良いのだが、国家の威信をかけた一大事にやや軽率な感じがするのと、階級の割りに権限を持ちすぎているのがちょっと・・・。しかも、自分の正義感の
ために部下を危険に巻き込むあたりも納得できず。シリアス性という点でやや緊張感をそいだ。
アクションという点では、まあまあ及第点。銃撃戦やカーアクション、追跡劇がウリなのだと思われるが、思ったほどは凄くない。映像がぶれて見にくいの
と、CGによる補正がやや目に付いてリアル感やスケール感が余り感じられなかった。戦争映画ではなく、アクション映画なのだから、と言ってしまえばそれま
でだが、やはりイラク戦らしい雰囲気がもう少し欲しかったところ。
主演のマット・デイモンはアクションスターらしい迫真の演技。脇を固める部下の兵士たちは本物のイラク戦争帰還兵が多数演じているそうで、動きについて
は文句ない。どうせなら、もう少し市街戦の映像を見てみたかった気もするが。唯一の女性役のエイミー・ライアンはいまひとつ存在感なし。かなりのキーマン
かと思ったが、さほどでもなくちょっと物足りなかった。
ロケはモロッコ、スペイン、イギリスだそうだ。だいぶCGも用いられているだろうが、いかにもイラクらしい雰囲気は良く出ていた。兵器類はM-1戦車、
M-2戦闘車、ハンヴィー、M35トラックなどの姿が見えたほか、ヘリではH-1イロコイ、CH-47チヌークなどの姿が見える。ただ、若干背景との違和
感がある場面もあったので、CG合成の可能性もあるようだ。
全般にコンパクトにまとめてきた感じで、アクション映画としてはまあまあといったところか。ただ、アクションが凄いかと言うとそうでもなく、ストーリーにもう少しシリアス性とインパクトがあればもっと楽しめたかもしれない。
興奮度★★★
沈痛度★★
爽快度★★★
感涙度★★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
イ
ラク戦開始直後のイラク。アメリカ軍を主体とする同盟軍はバグダッドを手中に収め、国連とともにイラク軍が保有するとされる大量破壊兵器の捜索に乗り出
す。任務は米軍の移動探索班(MET)が行い、METデルタのロイ・ミラー上級准尉を指揮官とする分遣隊も、指示された場所の捜索に出動する。しかし、そ
こにはイラク軍残党が陣取っており、先遣隊と壮烈な銃撃戦を繰り広げている。さらには、住人による略奪が行われており、ミラー上級准尉は部下の軍曹の忠告
も聞かず、保管庫へ強行突入する。だが、そこは単なる便器工場跡で、大量破壊兵器はなかった。これまでの任務も全て空振りに終わっており、ミラー上級准尉
は、情報の出所の信憑性に疑問を抱く。
ブリーフィングの席でミラー上級准尉は上官
の大佐や少将に疑問を投げかけるが、任務を遂行しろと命じられるだけだった。そんなミラーの姿を見て、CIAのブラウンが近づいてくる。ブラウンも情報の
出所に疑問を感じており、CIAとして政府高官の国防総省パウンドストーンを怪しいとにらむ。パウンドストーンは情報の出所を「マゼラン」という人物だと
しか明かさず、ウオール・ストリート・ジャーナル女性記者のローリー・デインに、都合のいい情報をリークしている。
ミラーは再び大量破壊兵器捜索の任務に出る
が、今度は地面を掘削するばかりだった。またも空振りだったが、そこにイラク人のフレディがある情報を持ってやってくる。フレディは国の行く末を憂いてお
り、スンニ派幹部の会合情報を持ってきたのだ。ミラーはまたもや部下の制止を聞かず、勝手にスンニ派幹部会合現場に急行する。そこで銃撃戦が勃発し、数人
の幹部を捕獲するも、高級幹部(クラブのジャック)のアル・ラウィ将軍を取り逃がす。だが、会合場所の住人 は秘密の手帳を持っており、この手帳には幹
部の住所など機密が記載されていた。
幹部を尋問しようとしたミラーだが、そこに
陸軍のブリッグス少佐らがやってきて、幹部を連行してしまう。少佐は手帳の引渡しを求めるが、ミラーはフレディに託して手帳を隠す。ミラーはすぐさま、
CIAのブラウンに会い、手帳を渡す。ブラウンはミラーを自分の部下に引き入れるのだった。また、記者ローリーもミラーの行動に気づき、接触を図る。ミ
ラーは記者の記事を検索し、情報源の「マゼラン」についてローリーが何か知っていると感づく。
CIAのブラウンらは大量破壊兵器はもとも
と存在せず、パウンドストーンによる茶番劇だと推測する。そこで、イラク軍の復権と自身の地位を求めているアル・ラウィ将軍と直接取り引きし、大量破壊兵
器がなかったことを公表しようと目論む。ミラーが取り引きに出ようとしたとき、パウンドストーンが大統領命令を持ってCIAに乗り込み、手帳を回収する。
さらに、パウンドストーンはブリッグス少佐を使ってスンニ派幹部を暗殺していく。
ミラーは捕まっていたスンニ派幹部捕虜から
「ヨルダンでの約束」という言葉を聞き出し、「マゼラン」とはアル・ラウィ将軍のことで、パウンドストーンとアル・ラウィ将軍がヨルダンで密約していたこ
とを突き止める。さらにブリッグス少佐の手先に暗殺されそうになったスンニ派幹部を助けてアル・ラウィ将軍との面会の約束を取り付ける。だが、パウンドス
トーンは先に、イラク軍の解体を公表してしまう。これでアル・ラウィ将軍は約束を反故にされたと怒り、ミラーを捕らえてしまう。また、パウンドストーンは
ブリッグス少佐にアル・ラウィ将軍の暗殺を命じる。少佐率いる米陸軍はアル・ラウィ将軍のアジトを急襲する。将軍は逃げ出し、ミラーはその後を追う。さら
にその後をブリッグス少佐が追う展開に。ついに将軍は追い詰められるが、少佐は将軍の部下に射殺される。ミラーはようやく将軍を追い詰めるが、そこにフレ
ディが現れ将軍を射殺してしまう。フレディは愛国のためアメリカ人には勝手にさせない、と言って去っていく。
パウンドストーンは自分のシナリオどおり、イラク復興計画を実行する。だが、彼が担ぎ出した亡命イラク人には力がなく、混乱に陥る。ミラーはパウンドストーンの陰謀をメモにし、ローリー記者をはじめマスメディアに流すのだった。
(2010/05/20) |