戦争映画の一方的評論
 
「北極圏対独海戦1944」 評価★★★ ソ連版航空機アクション
TORPEDO BOMBERS
1983 ソ連 監督:セミョーン・アラノヴィッチ
出演:ロディオン・ナハペートフ、アレクセイ・ジャリーコフほか  
91分 カラー

 劇場未公開の旧ソ連映画。邦画タイトルがややいかめしい印象を与えるが、バリバリの戦記物というよりは、ヒューマンドラマ仕立ての軟派系 映画。タイトル通り、1944年頃のソ連軍飛行隊の対独艦隊戦を描いたもので、決死の対艦船、対潜水艦戦の中での将兵の恋愛、人情シーンを多分に織り交ぜ たものとなっている。かなり叙情的な映像と音楽が印象的だ。従って、旧ソ連が誇る「ヨーロッパの解放」などのような「芸術記録 映画」の流れは汲んでおらず、西側アクション映画に毒された感がある。とはいえ、旧ソ連が所有する実写フィルムや航空機を駆使した映像は、西側映画にはな い新鮮さがあり、それだけでも楽しめる。ちなみに、本作では実機かどうかは不明だが、イリューシンIl-4T爆撃機やベリエフMBR-2bis飛行艇が登 場する。飛行シーンこそは特撮だが、滑走シーンくらいまでは実写ぽい。北極海に面した極寒の地だけあって、凍結地での航空機の運用や暖め方などは見物であ る。

(以下ネタバレ注意)
 1944年、北極海に面したソ連のトルペド航空隊。北極海に出現するUボートやドイツ軍艦船に対する爆撃攻撃部隊である。イリューシンIl-4T爆撃機 に搭乗するフォメンコ中佐とプロトニコフ大尉らは、ドイツ艦隊への雷撃作戦に出撃し、被弾の上敵艦に体当たりし戦死する。プロトニコフには残された妻ナー スチャがいた。そこに、ペロブロフ大尉が戦傷から癒え、病院から戻ってきた。実は、ペロブロフ大尉はナースチャの元恋人であり、ペロブロフが病院に入って いる間に、ナースチャは待ちきれずプロトニコフと結婚していたのだった。しかし、夫を失ったばかりのナースチャはすぐにペロブロフと懇意になる気にはなれ なかった。
 一方、航空隊の司令官クロチキン中佐は、戦争で行方不明になった妻子を捜していた。ようやく、息子が孤児院にいることが判明し、引き取りに行くが、子供 の記憶からどうやら本当の息子ではないようであった。しかし、次第に沸いてきた愛着から息子として育てる決意に至る。
 チェレベツ軍曹は基地で働く給仕女マルシャに恋心を寄せる。しかし、マルシャにはなかなかその気持ちが届かない。
 ドイツ軍の攻撃がひどくなり、基地の女達は避難を始める。しかし、避難船に乗ったマルシャらはUボートの餌食となってしまう。それを見た、ペロブロフ大 尉とチェレベツ軍曹らは、弔い合戦だとばかりにUボートめがけて決死の雷撃を試みるのであった。

 戦記物としては戦闘シーンが特撮となっており、今ひとつ臨場感がないのが残念。ストーリーとしても、中途半端なヒューマンドラマでオチが ない。ただ、冒頭にも書いたがソ連製航空機がたくさん出てくるのがいい。メインはイリューシンIl-4T爆撃機で、地上駐機から滑走までは実機らしい。ま た、ベリエフMBR-2bis飛行艇も何度も登場。氷上の滑走路で活躍している様がよくわかる。この他、駐機している航空機として遠目で判然としないが、 スホーイSu-2爆撃機やヤコブレフYak-1戦闘機らしき姿が見える。また、エンドロールでは、Yak-9戦闘機の実写飛行シーンが出てくる。これだけ で、見る価値は十分あるといえよう。願わくば、この手を「芸術記録映画」として製作して欲しかったなあ。

(2004/11/22)

興奮度★★★
沈痛度★★★★
爽快度★★
感涙度★★

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